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最高の人材を求めて  作者: 葉月 優奈
三話:迷惑老人・『|柴島《くにじま》 栄五郎』
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60年も過ぎればあるモノもあれば、逆にないものもある。

それは時代の流れで、当然だ。


だけど、わしはこのことははっきりと覚えていた。

60年前には、滑り台だけがあった。

そこで、わしは遊んだ記憶が微かにあったからだ。


鉄の柱が、かなり錆びていた。

ペンキで何度も塗られているが、鉄柱の腐食も始まっていた。

おそらく、鉄の耐久力としてはかなり落ちているだろう。


「滑り台にでも、宝があるのか?」

「ううん、手がかりがあるみたい」

梯子を上り、滑り台の上に上ったわし。

子供の時にも上った滑り台は、どこか懐かしさもあった。

回りの建物は代わり、灰色の世界が広がっていた。

それでも、昔の白黒テレビのようなそんな雰囲気が漂っていた。


(子供の時に、こう見えたのだろうか)

大阪出身でなくても、この公園はなんとなく印象に残っていた。

旅行先で迷子になって、死ぬかもしれない。

命の危険や不安が、記憶として深く刻まれていた。


そのまま、滑り台から滑り降りてみた。

滑り降りて、童心に返った。

小さな滑り台だけど、スリルがあった。

何より、いろんな感情が読み覚まされて……純粋に楽しい。


「うおおっ」

「兄さん?」

「お前も滑ってみろよ」

興六郎にも、促してみた。

兄の俺の言葉を受けて、興六郎も滑り台の上に上っていく。


わしは、周囲の灰色の景色を見ていた。

(この時代の公園の雰囲気だ。間違いない。

あのときは、何気ない滑り台も楽しかったな)

童心に返って、立ち上がったわし。


間もなくして、興六郎も滑り台から滑り降りてきた。

「兄さん、楽しい」

「そうだろ、そうだろ」

わしは、楽しんでいる興六郎を見て嬉しかった。

子供の興六郎も、喜んでいた。


それは初めてではない、懐かしさから出る喜び。

忘れていた記憶を呼び覚ます、滑り台の記憶。

そんな滑り台を滑って、ある事をわしは思い出した。


「そういえば、滑り台の柱に……」

「どうした、兄さん?」

わしは、ボロボロの滑り台の柱に近づく。

それは、滑ることで思い出した。記憶の深淵に、眠っていたある記憶。

滑り台の柱を見ると、そこには小さく文字が掘られていた。


「あった、これは残っていたんだな」

わしが見たのは、一つの言葉。


「兄さん、これって……」

「『さばくのなかにたからをかくした』。

これは、わしが60年前に石で掘ったわしの文字だよ」

わしは、はっきりお思い出した。

さっきの紙切れもわしの文字で、それを興六郎に渡した。

その記憶までも、わしははっきりと思い出していた。


「さばくのなか?」

「砂漠と言ったらあれだろ、それは」

わしと興六郎の近くには、砂場が見えていた。



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