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最高の人材を求めて  作者: 葉月 優奈
三話:迷惑老人・『|柴島《くにじま》 栄五郎』
31/56

031

――2024年12月24日――

時間は、2024年に戻っていた。

それでも、わしは子供のままだった。


(なんか、夢を見ていたのか)

子供の時、迷子になって『箕面第四公園』に辿り着いたあのときの夢。

興六郎も迷子になって、淀川という老人に会った夢だ。

だけど、わしの前にはあの時、子供の頃の姿になった興六郎の姿が見えた。


「興六郎、その姿……」

「兄さん、兄さんもその姿」

互いに互いの姿を、指摘し合った。

わしも自分の体を見て、驚いた。

手足も小さくなって、服も迷子になったときのボーダーのシャツと短パンだ。

完全に、わしも子供の姿に変わっていた。


「まさか、子供になったってこと?」

「もしかして兄さん、ここに迷い込んだときの夢を見た?」

「お前もか?興六郎」

わしの言葉に頷く、興六郎。

興六郎は、子供のような見た目だけど落ち着いていた。


どうやら二人とも、同じ夢を見ていた。

そして目を覚ましたら、夢で見た子供の姿を見せていた。

何より異様なのは、周囲だ。

まるでモノクロの住宅街、そして公園の中にわしらがいた。


「色のない世界……どういうこと?」

「乗っていた車も、消えているね……」

誰もいない、静かな公園。

置かれた遊具も、白黒。

空も白黒で、今が何時なのかわからない。


だが、現代なのかあの時代に合った公衆電話ボックスは見当たらない。

周りの家々も、今の箕面第四公園の近所と同じ風景だ。

それでも白黒のモノクロ世界が、広がっていた。


「どうして、こうなった?」

「車が公園に突っ込んで、意識を失って……」

「車もないし、兎に角一旦ココを出よう」

わしと興六郎は、公園の入口に近づく。


箕面第四公園には、入口が一つしか無い。

鉄製の柵が三つ置かれた入口で、そこからしか出入りできない。


奥には、わしの一軒家が見えた。

北海道から、大人になって移住してきた箕面のわしの家だ。

わし以外、誰も住んでいない。

だが、あそこに行けば最悪は何とかなると思えたから。


「イタッ、なんだこれ?」

「見えない壁、出られないね」

公園の入口には、見えない壁が見えた。

子供の力では壊せない、透明な壁にこの公園は覆われていた。


「もしかして、公園から出られないって事?」

「そうらしいな」

「周りには、人もいないし。

あのときのように、淀川さんが来てくれれば……」

だけど、そんな中で空間に突然切れ目が現れた。

不思議な切れ目が、やがて大きく開く。

そこから、一人の人間が姿を見せた。


「お前は……誰だ?」

「全く、あの子は勝手に起動させるんだから」

そこにいたのは、カーキ色のセーラー服の少女だ。

ポニーテールの若い女は、不満そうな顔で突然現れた。

わしの長年生きてきた経験で、見たことのない少女だ。


色のない世界で、登場人物にだけは色が存在した。

見た事の無い女は、スマホを持って姿を見せていた。

スカートの埃を払い、わしの方を怪しい顔で見ていた。


「私?あのぼんくらの飼い主よ。

強制起動したから、あなたを観察しに来た。『柴島 栄五郎』の事」

「なぜ、わしの名を。わしは、お前なぞ知らぬぞ」

子供でも、老人口調のわし。


「それより、あなたたちここを出たいんでしょ?」

「出せ、そこの小娘」

「だったら、彼……」

少女は、興六郎を指さした。


「ねえ、あなたたちはこの公園に何かをしたのを覚えていない?」

「何かって……」

「童心に返って、思い出してみれば何か分かるんじゃない?」

セーラー服の女に言われて、興六郎は何かを思い出した。


「兄さん、もしかして」

「どうした?」

興六郎が、半ズボンの後ろポケットを探っていた。


そして、間もなくして見つけたのはボロボロの紙切れ。

それを見つけて、わしも思い出した。


「それって?」

「さあて、宝探しの開始よ!宝を見つけて、この公園を出る鍵を手にするの!」

少女が、高らかに宣言した。

三人しかいない灰色の公園で、彼女の声がよく響いていた。



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