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最高の人材を求めて  作者: 葉月 優奈
三話:迷惑老人・『|柴島《くにじま》 栄五郎』
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後で聞いたのだけど、サンタ老人の名前は『淀川 邦正』と言う。

この箕面出身で、ここは『箕面第四公園』の近くに一人で住んでいた。

元々結婚していたが、子宝に恵まれ無かった。

2年前に妻もなくしていて、独りで暮らしていた。

それ故に、近所の子供達に優しく接したじいさんとして親しまれていた。


2つ離れた興六郎は、ベンチに座っていた。

僕の隣で、泣いていた。


僕は、興六郎の性格を知っていた。

僕よりも弱気で、泣き虫だ。

臆病な2つ下の弟は、人目をはばからず泣いていた。


「泣くな、興六郎」僕は励ました。

「でも、パパもママもいない」彼も迷子だ。

「元気出せ」

僕は、必死に弟を励ましていた。

それでも、一向に泣き止まない興六郎。

間もなくして、少し席を外していた老人淀川が戻ってきた。


「大丈夫か、二人とも?」

「興六郎が……」

「そうか、じゃあこれを」再び取り出した、白いおにぎり。

不思議そうな顔でおにぎりを見ていた、興六郎。


「これ?」

「サンタさんのおにぎり。とっても上手いよ」

「そうそう、上手いぞ。サンタさん、お手製だからな」

老人が目を細めて、しゃがんで興六郎に寄り添っていた。


「うん、ありがとう」

興六郎は、おにぎりを受け取って口にした。

すると、興六郎が目を輝かせていた。


「なにこれ、おいしい!」

「そうじゃろ、そうじゃろ」

興六郎もまた、不格好なおにぎりの旨さに感動していた。


「ねえ、父と母は僕らを捨てたの?」

「そんなことないさ。大丈夫、きっと見つかるから」

「本当に?」

「ああ、嘘はつかん」

老人は、どこか安心させる何かがあった。

これが、大人の余裕だろうか。

それとも、サンタ老人の魅力なのだろうか。

分からないけど、僕と興六郎の不安は消えていた。


「それに、電話で呼んだからな」

「電話?」

「あそこにある電話で、迷子捜しのプロに連絡をしたから」

公園の通りの奥には、電話ボックスが見えた。


それは、公衆電話のガラス張りのボックス。

老人は、公衆電話で電話をかけて少しいなくなっていた。


「本当に助かるの?」

「心配はいらないよ。だから大人しく、ここで待っておこう」

「うん、分かった」

僕も興六郎も、既に涙はなかった。

周りに誰もいなくなくても、不安も恐怖もなくなって落ち着いていた。


周囲の公園には、僕らしかいない。

遊んでいた子供達は、全員お迎えが来て帰っていた。

公園の近くも、静かで人通りもない。


そんな中、一台の車が通るエンジン音が聞こえてきた。

公園二近づく車は、パトカーだ。


「おや、もう来たようじゃな」

パトカーが、公園のそばに止まった。

出てきたのは若い警察官と、もう一人。

警察官の隣の人物には、見覚えがあった。


「母だ!」それは僕と興六郎の母が、泣いた顔で姿を見せていた――



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