021
今までの空気が、優しさが一変した。
的場に対して、今まで感じなかった恐怖を感じるようになった。
顎を持ち上げられて、あたしは殴られた。
それは、子供の時に見たパパとママの喧嘩。
激しいつかみ合いで、綺麗になっていたリビングが散らかった。
小さなあたしは、為す術がなかった。
怯えて、あたしは地面にしゃがみ込んでいた。長い髪が、激しく乱れながら。
「どうして、マヨネーズを入れる?」
「あたしは……その……辛いのが苦手で」
「そんなの、理由にならない」
理不尽な事を言いながら、あたしの髪の毛を乱暴に掴んだ。
しゃがんだ的場は、険しい顔で顔を赤くしてあたしを見ていた。
その顔は、恐怖しか無い。
(なんで、こうなった?彼のカレーが、素直に辛いと言っただけなのに)
今までに無い的場の変貌に、ただただ戸惑いと恐怖だけだ。
それでも、的場はあたしに迫ってきた。
「どうしてだよ?ほら、答えろ!」
「あたしは……マヨネーズが好きで……」
「だからそれは、理由にならない。料理の味を、変えているのだから」
「じゃあ、どうすればいいの?」
途方に暮れたあたしの背後に、一人の人物が見えた。
二人しかいないはずのこの高層マンションの部屋、そこに謎の切れ目が見えた。
切れ目が大きく開くと、そこから一人の人間の手が見えた。
出てきたのは、紺のセーラー服の女。
思わず、あたしは叫んでしまう。
「幽霊!」
「幽霊じゃ無い」あたしの言葉に、反応したのは的場。
その的場の後ろから、はっきりとあたしを睨んでいた。
だけど、幽霊のようなセーラー服の女はあたしに穏やかな顔で近づいてきた。
後ろに手を組んで、あたしに向かってきた。
「ねえ、どんな気持ち?」セーラー服の女は、目をたるませて聞いてきた。
「はあ?何を言っているの?」部外者に言われて、怪訝な顔に変わったあたし。
セーラー服の女が出てくると、急に空気が止まったように見えた。
セーラー服の女は、すぐそばのあたしに迫っていた。
むしろ、彼女と話していると周りの空間が止まっているかのようにさえ感じられた。
「あなたが、始めたのでしょ」
「あたしが、何を始めたって言うのよ?」
「心当たりは無い?あなたが始めた『儀式』?」
「『儀式』ってなんであんたが知っているの?」
「ああ、知っているさ。俺が教えたからな」
そこで反応したのは、的場だ。
時が止まったような空間の中で、セーラー服の女は的場の隣に来ていた。
あたしは、目を大きく見開いて驚いていた。




