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――2024年10月8日――
的場 怜央は、高層マンションに住んでいた。
彼と出会って、あたしの人生は大きく変わった。
週末の夜には、彼の家に招かれることが多くなった。
大きく広いリビングから、箕面市が一望できた。
おそらく、この近辺で一番高い建物だろう。
リビングには、豪華そうなソファーと大きなテレビ。
置かれている家具も、どこか高級感が漂う。
それだけでも、的場はかなりの金持ちだというように見えた。
そして、あたしはテーブルで彼と食事を取っていた。
「今日は、僕が作ってみたよ」
「的場さん、料理も出来るんですか?」
「こう見えても、大学時代は飲食店でバイトをしていたから」
「凄いですね」あたしは、感心して見せた。
的場は顔もあたし好みだけど、男としてもスペックも高い。
背は高いし、優しいし、料理も出来た。
かなり完璧な男性で、初めはあたしに釣り合わないと思っていた。
それでも、的場はあたしにドンドン迫ってきた。
積極的な彼は、あたしをよく招いてくれた。
今回のデートも、彼から声をかけてきた。
(今の男性にしても、かなり積極的よね)
それでも、正直嬉しかった。
的場が作ってあたしに振る舞ったのは、カレーだ。
実は的場の食べ物の趣味が、以外と子供っぽい。
的場の好きな食べ物は、ハンバーグやカレーが好きだ。
そういう所が、彼のかわいらしいところでもあった。
「今日は、カレーを作ったんだ」
「カレーですか」
香ばしい香りのカレーが、あたしの目の前に置かれていた。
ライスもしっかり盛られていて、少し女子にしては量が多く見えた。
「意外と、ガッツリ系なんですね」
「こう見えても、スパイスにはしっかり気を遣っているんだ。
市販のルーじゃなくて、かなりちゃんとしているんだよ」
「へぇー」
「さあ、どうぞ。泉尾さん」
あたしは的場のカレーを、スプーンを持って見ていた。
スパイスのいい匂いが、食欲を誘う。
そして、カレーをすくって一口……食べた。
(辛いっ、シンプルに辛い)
初めて食べる、彼の手料理だ。
泣き出しそうな辛さのカレーを口にして、目の前の的場はじっとあたしを見ていた。
「どうかな?」
「うーん……」
どう答えよう。
彼の手料理を、非難するわけにはいかない。
彼とは、これからも言い関係でありたい。
だとしたら、この辛いカレーを素直に辛いとは言い出しにくい。
「おいしいよ……うん。でも……マヨネーズ」
食卓には、丁度良くマヨネーズが置かれていた。
あたしは辛さを緩和するために、マヨネーズに手を伸ばそうとした。
「どうしたの?泉尾さん」
「えと……マヨネーズをかけた方が、おいしいかなって」
「一口しか、食べていないのに?」
的場は、あたしの手を掴んでいた。
マヨネーズに伸ばした手が、的場の右手で掴まれていた。
「もしかしてマズイ?」
「いや、おいしいよ。おいしいけど、あたしはマヨラーだから」
何とか、嘘を取り繕うあたし。
だけど、的場の様子がおかしい。
そのまま、あたしの手を掴んで立ち上がった。
あたしも、釣られて立ち上がった。
「ごめんなさい、的場さん」あたしは素直に謝った。
「そんなに、マズイですか?」的場の雰囲気が一変した。顔が怖い。
今までの優しさから、急に変わっていた。
「え、あたしは……」
だけど、手を掴んだ的場が迫りあたしは後ろに下がって行く。
すぐ背後には、白い壁。
手を掴んだ的場が、そのままあたしに対して壁ドンをしてきた。
「僕の手料理は、マズいですか?」
再び強い声で聞いてきた。目が血走っていた。
その顔は、子供の時に見たパパの顔に重なっていた。
「マズくは無い……」
「だとしたらなんで、マヨネーズを入れようとする?」
的場は、威圧感を放ってあたしに迫っていた。
そのまま、あたしの顎を持ち上げて睨んでいた。




