表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最高の人材を求めて  作者: 葉月 優奈
プロローグ
2/56

002

(JURI’S EYES)

――2024年2月26日――

俺の仕事は、かなり激務だ。

特に、朝はかなり早いし忙しい。

五時起きの俺は、バスの運転席にいた。


大きなバスの運転席にいた俺は、眠気があった。

サラサラとした真ん中分けの茶髪の若い男。

真冬出会っても寒い、長袖の黒いバスのスーツに黒のズボン。

バスの中は、暖房がかかっていて暖かい。


運転しているバスは、スクールバスだ。

『箕面学院小学部』の送迎業務、それが今の俺の仕事だ。


箕面学院というのは、私立の小中一貫校。

そこまで行く専用の交通手段のバスで、生徒を送り届ける仕事。

スクールバスの運転は、残業があまり無くて休日出勤も基本的には無い。

大型二種免許を持った俺は、この仕事を選んでいた。


制服を着ていて、目が細い俺。

接客業にもかかわらず無精髭が生えていて、とても二十代には見えない老けた顔の男。

時刻は9;51、予定時刻から完全に遅れていた。


バスを運転しながら、俺は不機嫌だった。

30人ほど乗るバスの中は、とにかくやかましい。

乗っている乗客は小学生、騒がしい朝の送迎バスはいつもの風景。


間もなく、俺が運転するバスが小学校に届いた。

慣れた様子で、俺はバスを学校のロータリーに止めていた。


そのまま、乗車口のドアを開けた。

「はい、箕面学院、終点!」

俺はやる気の無い声で、アナウンスをしていた。

乗降口の重いレバーを動かして、バスの出口を開けていく。


アナウンスに合わせて乗っていた小学生達が、ぞろぞろと出てきた。

俺は不機嫌そうな顔で、運転手席の中で腕を組んで子供を見ていた。

俺は心の中で、こう思っていた。

(さっさと出ろよ、ガキども)と。


約1分後、子供たちが出ていくのを俺は見届けた。


(やっと終わったか)

既に学校では、授業も始まっていた。

教室からは、授業を受ける生徒の姿も見えた。


この便は、追加便だ。

雪による電車の遅延により、追加便のバスを俺は頼まれた。

最終便を終えた30分ほど前に頼まれて、俺は追加でバスを走らせていた。

急遽仕事が追加されていたことで、俺は不機嫌だった。


(くそ、全く無駄な仕事だ。いきなり遅刻を拾ってこいとか、急に連絡入れるなよ!)

仕事終わりでバスを戻して、車庫に戻して変える準備をしていた時に学校側から連絡を受けた。

増便を余儀なくされて、俺は残業を無理矢理させられた。

不機嫌な顔を見せつつも、それでも子供達がバスを出て行くのを見ていた。


土室(はむろ)さん、ご苦労様です」

バスに、声をかけてきた人物がいた。


それは、俺よりも少し年上の男。

警備員の制服を着ていた、凜々しい男。

どこからどう見ても、学校の守衛に見えた中年の男。


「酒居さん。もう、流石に追加のルート回れとかいわないですよね?」

「言わない言わないよ。本当に、ご苦労様」

「俺、今日は朝だけなんで……午後は出ない予定ですから」

「ああ、分かっているよ。

午後便は、別の人に頼んだから。それにしても、他の送迎をするんだって?」

「欠員が出たんだよ。全く、最近の若い奴は。

しかも、明日も今日と同じ早朝三時半だから……眠くてしょうが無い」

仕事の業務時間は、既に5時間を超えていた。

いつもならば、この時間は既に仕事が終わっていた時間だ。

今頃は、家でゆっくり眠っている時間だろうか。


「何を言っているんですか?土室さんは、まだ二十代でしょ」

「ギリな」守衛の酒居と、窓から会話をした。

子供は全員降りたようで、俺は乗車口のドアを閉めた。

そのまま、俺がバスを動かそうとハンドルを握っていた。


「じゃあ、車庫に戻って俺は帰るから」

「ああ、また」

手を振って、守衛の酒居と別れた。


俺はバスを運転させて……小学校の駐車場に向かった。

学校の校舎から、少し離れた場所に職員用の駐車場が見えた。


駐車場の外れに、大きな車庫が見えた。

学校の敷地内にある、バス専用の車庫だ。


俺が運転しているこのバスは、学校で管理しているようだ。

流石は、お金が潤沢にある私立学校の設備だ。

俺は車庫の中に、バスを止めて……ブレーキをかけた。


シートベルトを外し……近くにあったバインダーに手を伸ばす。

バインダーには、チェックシートだ。

バスの車内点検表で俺は、適当にチェックを入れて立ち上がった。

キーレスエントリーの鍵を抜いて、制服の右ポケットに入れた。


(さて、帰ろう。家に帰って、寝たいし)

チェックを入れた俺は、立ち上がった。

立ち上がった瞬間、バスの後部座席から人の気配がした。


「誰だ?」

立ち上がって、後ろを振り返るとセーラー服の少女がいた。

長い藍色のカールがかかった髪の少女は、穏やかな顔を浮かべていた。


「あなたが、『土室(はむろ) (じゅり)』なの?」

「誰だ?」

見覚えのないセーラー服少女に、警戒していた。

それでも一番奥の席から俺の方に歩いて……いや一瞬にして俺の目の前に近づいた。

まるでワープをしたかのように、少女が俺の目の前に来ていた。

そのたたずまいは不気味で、俺は警戒していた。


「お前、中学部の生徒か?」

だけど箕面学院中学部は、セーラー服の制服ではない。

彼女は、どこから来たのかもわからない。夢でも見ているのかと、不思議だった。


「土室 樹。あなたは、大人なの?」

「当たり前だ。

というか、何を言っているんだ?それより、ここを降りろ。ここは倉庫だし」

だけど、セーラー服の女がスマホを俺に向けると……俺は激しい睡魔に襲われた。

瞼が重い、急に強い眠気が襲ってきた。


(なんだこれ……)

突然、頭がぼーっとしてきた。

強い眠気が、一気に迫った。

そんな朦朧とする俺に、手を伸ばすセーラー服の少女。


「ねえ、脱出ゲームをしましょ。このバスを使った、脱出ゲームを」

俺の目の前にいる少女は、そのまま俺の持っていたバスの鍵を奪い取った。


「おい、脱出ゲーム……って?」

「ルールは簡単、あなたはこのバスを出ればいい。ただ、それだけよ」

「何を言って……」だけど、凄い眠気が襲ってきた。

「脱出ゲームだから、鍵は没収ね。

あなたの目が覚めたら、ゲーム開始ね」

俺は叫ぶこと無く、そのまま深い眠りに落ちていた。

バスの地面にうつ伏せになった俺は、そのまましばらく起きることは無かった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ