018
――2024年10月6日――
あたしの職業は、保母だ。
ひまわり保育園に勤務するベテラン保母であるあたしは、朝から仕事だ。
保育園の前で、あたしは待っていた。
エプロン姿で、少しだけ化粧をしたあたし。
りんごのバッジには、『あきらせんせい』と書かれていた。
あたしの隣には、髪の短い女性。
若い女は、あたしと同じように黄色いエプロンを着ていた。
「あきらせんせい」
「ゆみせんせい、どうしました?」
若い女のバッジには、『ゆみせんせい』と書かれていた。
本名は、『大黒 弓』。あたしの5つ下の後輩。
短大も同じ学校で完全な後輩の大黒は、あたしに話をかけてきた。
「先輩の顔、最近艶っぽいですよ」
「そ、そう?」
「うん、だって肌がとても若返っていますね」
「そうかしら?」
「10歳は若く見えますよ」
大黒は、微笑みながらあたしに言ってきた。
確かに鏡を見ながら、あたしは自分の肌つやを感じていた。
あたしは今、恋をしていた。
恋の相手は、居酒屋で会った的場さん。
彼とはLONEでやりとりもしていて、メッセージが来ただけで嬉しくなった。
彼を知れば知るほど、あたしは好きになっていた。
「合コン、上手くいったんですか?」
「そうじゃない」
「じゃあ、なんですか?普通の変化じゃ無いですよね?」
上目で、あたしを見てくる大黒。
それでも、あたしは胸の高鳴りを抑えていた。
「いいでしょ。それより園児が、間もなく来るから」
「でも、良かったです。先輩が幸せで」
大黒は、穏やかな顔に変わっていた。
「何よ、あたしが今まで幸せじゃ……」
「まあまあ、幸せなことはいい事ですよ。私だって、今は幸せですし」
大黒が、チラリと見せてきたスマホ。
その画面には、一人の男性が写っていた。
それは大黒の旦那、彼女は24歳の時に結婚をしていた。
逆玉の旦那は、金持ちで散々自慢を聞かされていた。
相変わらず、逆マウントをとってくる大黒という後輩。
それでも、今のあたしはプチ自慢に耐えるだけの度量があった。
的場さんがいて、彼があたしの事を好きでいてくれた。
あたしも彼が好きで……徐々に自分に自信が持てていた。
(なにより、今回を逃せば婚期はないかもしれない)
あたしは鼻息荒く、彼とは結婚前提でつきあっていた。
間もなくして、保育園のマイクロバスが真っ直ぐこちらにやってきていた。
それを見て、大黒は悪い顔を見せた。
「そういえば、先輩」
「なに?」
「昔のマイクロバスの運転手って、どうなったんですか?」
「知らないわよ、あんな奴!」
あたしは、意地悪く過去を掘り返す大黒にそっぽを見ていた。
そして、マイクロバスが辿り着いた。
「お待たせしました、ひまわり保育園です」
中年の男が、渋い声で園児達を送り出していた。




