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最高の人材を求めて  作者: 葉月 優奈
二話:独身保母・『泉尾 |輝《あきら》』
16/56

016

――1994年1月18日――

25年前のあたしは、まだ子供だった。

狭いアパートに、三人暮らし。

おそらく、これがあたしの中で残っている一番古い記憶。


小学校に入ったばかりのあたしは、夜10時には既に布団の中にいた。

いつもあたしは、ここで眠っていた。

個室というものはなく、寝るのは雑魚寝。

親子三人が、川の字になって眠るのが当たり前だ。

したがって、あたしの両隣には布団が敷かれていた。


(パパも、ママも生きるために働いているんだよね)

あたしの家は、共働きだ。

パパは工場に勤務し、ママは事務員をしていた。

そんな両親は、いつも忙しそうに働いていた。

だけど、いつもはこの時間に眠くなるあたしだけど……この日だけは眠れなかった。


(うう、昼間にお昼寝したからな)

昼間の授業で、あたしは怪我をした。


ただ転んですりむいただけの怪我だけど、保健室でしばらく眠っていた。

その影響から、あたしは全く眠くない。

目がギンギンとしていて、夜のアパートの天井を見ていた。


(ママとパパは、まだ起きているのだろうか)

寝室の奥には、大きな戸が見えた。

戸の奥から、微かに光が漏れた。

リビングと繋がっている2LDKのアパート。


今頃、ママとパパはご飯を食べているのか。

だが、そんな奥の戸から声が聞こえた。


「あなたのせいよ、どうしてあなたは勝手に決めるの?」

ママのヒステリックな声が、戸の奥から聞こえた。

それと同時に、ガタガタと大きな音が聞こえてきた。

リビングの奥で、何かが動いていた。


「五月蠅い、決まったのだから仕方ないだろ」

「兄夫婦には、ちゃんと断りなさいよ!

今はそれじゃ無くても、お金が無いんだし」

「いや、お前は最近残業しないだろ!もっと稼いでこい!」

「それ、男のあんたが言う?」

「俺はちゃんと稼いでいる。

だけどお前は、そうじゃないだろ」

「あんたは、家事もろくに手伝わないでよく言えるわね!」

「俺の仕事は、クソ激務だ!」

叫ぶパパと、怒鳴るママ。

あたしは、布団を被ったまま怖さがあった。


(ママ、パパ……なんで、こんなに言い合っているのだろう)

互いに怒る声が、とても怖い。

あたしは、優しい両親をよく見ていた。

だからここまで激しく怒る両親を見て、体が震えるほどに怖かった。


その後、聞こえるガタゴトと大きな物音。

あたしは、それでも布団を背負ったまま腹ばいで動く。


(喧嘩しているなら、あたしが止めないと)

あたしは、必死にリビングに近づく。


そして、微かに開いていた戸の隙間から覗いた。

その光景を見た瞬間、あたしの目が大きくなった。


(パパが、ママを殴っている)

それは、見たくない光景だった。

リビングの真ん中で、大きなパパがママを殴っていた。

あたしは、思わず息を大きく呑み込んだ。


その瞬間、あたしの体には鳥肌が立った。

怖くて、恐ろしくて、辛い。

大好きだった二人が、あんな目に遭っていて……そのままあたしはゆっくり後ろに下がった。

静かに、音を立てずに敷き布団の方に逃げていった。


(なんで、なんで……こんな)

体を震わせて、あたしはただ怯えているしか無かった――



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