015
――2024年9月13日――
(AKIRA’S EYES)
箕面市街の、夜の街。
余り大きくない街だけど、居酒屋が建ち並ぶ地域があった。
飲み屋街にあるとある居酒屋。赤ちょうちんのあるお店は、夜深くなって客も少なくなっていた。
居酒屋の中であたしは、カウンターで酔い潰れていた。
『泉尾 輝』、32歳、独身。
職業は保母、勤務歴は11年。
時刻は、PM11:45を居酒屋の時計が指していた。
薄いショートボブで、水色のスーツを着ていた。
週末の金曜日の夜だけど、人は少ない。
昔ながらの小料理屋の居酒屋で、あたしは赤い顔でビールを飲んでいた。
「大体……なんで男共は、このあたしの良さに分からないのよ!」
ブツブツ呟いて、愚痴を言う。
誰かに聞かせるつもりないし、それを拾う人間もいない。
カウンターの隅の方で、周りの客からは少し離れた場所で飲んでいた。
今日は、合コンの日だった。
仕事を終えたあたしは、夜8時からの合コンに参加。
SNSで知り合った男女3対3の合コンで、2時間の合コンは終わった。
溢れたのは、男女一人ずつ。
溢れた男は、既婚者らしい。興味本位で、この合コンに参加していた。
つまり、あたし一人だけが完全に残された。
あたしは、30を過ぎて焦っていた。
三十路を越えると、生涯独身の危機感が募った。
それを防ぐために、あたしは最近合コンに夢中だ。
(やっぱ、十代の恋が最後だったのかなぁ)
思い出すのは、元彼の顔。
切れ目の文化系の男性、知的インテリで、頭もいい。
職場も近く、恋を続けて……彼のことは本気だった。
だが、6年ほどつきあったあたしは別れることになった。
今、彼はどこで何をしているのだろうか。
「はああっ、どこかにいい男はいないかしら?
こんなあたしを、もらってくれる……」
そんなあたしの二つ隣のカウンターに、一人の男性が座っていた。
スーツ姿の男性だろうか、凜々しい顔で切れ目の男性。
ワイルド系だけど、どこか好青年な雰囲気が合った。
(なに、あの人……格好いいんだけど)
あたしは、思わずチラ見してしまった。
そんな男は、あたしと目が合ってにこやかな顔を見せていた。
あたしも、男に対して笑顔で会釈していた。
すると、男が声をかけてきた。
「君は、一人で飲んでいるの?」
「え、うん」
「じゃあ、一緒に飲まない?そこの美しい人」
「あたしのこと?」
わかりやすいおべっかを言われて、あたしは顔がさらに赤くなった。
酔いがさらに回ったのだろうか、顔の熱がさらに熱くなった。
これは、運命的な出会いだろうか。
さっきの合コン失敗も、この出会いのためのフラグだろうか。
分からないけど、男はすぐに空いていた隣の席に近づいてきた。
男の香水だろうか、とてもいい匂いがした。
(格好いい……なんて男)
あたしの中でも、かなり理想通りだ。
少しやんちゃで、日に焼けていて男らしい男性。
あたしが一番好きな男性の顔を、まるでそのまま投影したかのような見た目の男性。
おまけに積極的で、完璧な男性だ。
「僕の名前は、的場 怜央。この商社で働いているんだ」
差し出してきた名刺、あたしは受け取った。
見えた商社は、結構有名な商社。
収入もかなり高そうで、ワイルド風イケメン男性の的場が挨拶をした。
「あたしは……えと……泉尾 輝。32歳、ひまわり保育園勤務の保母です」
緊張で、少し声が裏返ったあたし。
「へえ、保母さんなんだ。泉尾さんは、とても子供が好きなんだね」
「はい、あの……的場さんは?」
「怜央って呼んで」
「でも、初対面ですし」
「みんな、僕を怜央って呼ぶんだ。だから、泉尾さんも怜央でいいよ」
「は、はい。では怜央さん」
名前で呼んで、照れてしまうあたし。
別に友達でも、恋人でも無い。赤の他人だ。
それなのに、理想の見た目を見せた男の前であたしは赤くなってしまう。
「何?」
「怜央さんは、そのつきあっている彼女とか……」
「ああ、いないよ」
「独身……ですか?」
「そう」的場は、爽やかに答えていた。
あたしは、照れた様子で的場と会話をしていた。
会話をしながら、初対面で何を聞いているんだとあたしは自分を責めていた。
これじゃあ、がめつい女だと思われてしまう。
そんなあたしと的場のいるカウンターに、一人の少女が近づいてきた。
「あのー、取り込み中すいません」
「子供?中学生なの?なんでこの時間にこんな場所に」
「ん?」あたしが、セーラー服の女を指さす。
だけど、的場は全く気づかない。彼からは、見えていないのだろうか。
紺のセーラー服を着ていた、パッツン前髪ロングストレートの女。
少し大人びた様子だけど、それでも未成年に見えないことも無い。
あるいはセーラー服にコスプレした、大人の女性にも見えていた。
何よりも、ここは深夜の居酒屋。
セーラー服の女が出てきたことで、あたしは警戒心が強くなった。
(この女、まさか怜央の恋人……じゃないわよね)
それを考えた時、あたしの酔いが少し覚めた。
無意識にあたしは怖い顔で、セーラー服の少女を見ていた。
「ねえ、お嬢ちゃん。
ここは、夜遅くに未成年が来る場所じゃ無いわよ」
「それならば、なんのご心配いりませんわ。
わたくしは、未成年ではありませんもの。
それよりも、泉尾 輝さんですわね?」
「そうだけど?」
「あなたに、少しお願いがあってきました。
あなた……若さに興味ありませんか?」
「いきなり、何を言っているの?」
「どちらででもいいですわ」
スマホを持った紺のセーラー服の少女は、すぐさまスマホをいじっていた。
するとあたしは酔いもあってか、眠気が襲ってきた。
「なんだか眠く……」すぐにあたしは、強い眠気で瞼を閉じてしまった。
「後は頼みますわよ、怜央。
彼女に、とても優しくしてあげてくださいまし」
「はい、分かりました。エイレネーさん」
あたしが眠る中、怜央とセーラー服の女……エイレネーの会話が子守歌のように聞こえていた。




