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最高の人材を求めて  作者: 葉月 優奈
一話:送迎バス運転手・土室 樹
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014

団地から、車で15分程。

バスの中は、とにかく極寒だ。


それでも、俺は信じて待つだけだ。

テレビ電話の蘭は、出かける準備をした。

質問3つとも、答えた。間違いはない。


そして、バスの乗降口のドアが開いた。

開けたのは、俺の妻……土室 蘭だ。


「蘭……」

「大丈夫なの?樹?」

俺の事を信じて、蘭は駆けつけてくれた。

小さな体の俺は、服を毛布代わりにくるまって蘭を見上げていた。

灰色のコートを着ていて、ズボンを着た蘭はとても頼もしかった。


「本当に樹なの?」

「ああ、間違いない」運転手服のネームプレートを、俺は示した。


「どうして、子供になったの?」

「分からない。でも、俺は間違いなく『土室 樹』なんだ」

「そうね。それにしてもこんな寒いのに窓を、開けてあるのね」

「なあ、蘭」

「なに?」

「なんで、俺を助けに来た?」

「夫を助けるのは、当たり前でしょ」

蘭は、はっきりと言い放った。

でも、俺の体は夫……『土室 樹』の姿はしていない。

見た目は、完全な子供の姿で見えているはずだ。


「どこで、俺を信じていた?」

「初めから信じていたし、あなたを見れば分かる。

これでも、高校時代からつきあっていたんだから」


蘭との付き合いは、高校時代のサッカー部から。

10年以上一緒にいた蘭と、俺は4年前に結婚もした。

だけど、結婚前からほぼ別居状態。

お互いの素性は、メッセージのみでのやりとりだけだ。


「でも、あの事件のこと。7年前の置き去り事件」

「なに、忘れたの?あそこに私もいたのを?」

「そうだったな。お前は、ひまわり保育園に勤務していたよな」

「そうよ、事務員」

「だから、最後の質問に聞いたのか」

「そうね、あなたが解雇されたことを。あなたが犯した失敗を。

まあ、それよりもまずは家に帰りましょ。

樹、これからどうするの?」

「俺は、子供になっちまったからな」

俺は、見た目が完全に子供だ。


流石にこの姿では、運転をすることは出来ない。

無論仕事は、しばらく休むしか無いだろう。

下手したら、俺はまたもクビなのかもしれない。


不安なことを考える子供の俺に、しゃがんで背中を向けた蘭。

「おんぶしてあげる」

「いいのか?」

「その体じゃ、仕方ないでしょ。ほら、その服を羽織って」

小さな俺は、蘭にオンされた。

蘭の背中は、とても暖かい。

コート越しの蘭の背中に、俺はしがみついた。


(こんなにもいい女だったんだな、蘭は)

かわいらしい蘭に、感謝が止まらない。

その後運転手服を、背中に羽織っていた。


「じゃあ、帰ろ」

蘭におんぶをされて、乗車口を抜けようとした。

そのとき、乗車口に透明な膜のようなモノが見えた。

俺が、透明な膜を抜けた瞬間……俺の小さな体が光り出した。


「え、何?」

数秒後、蘭が俺の体の重さをはっきり感じて潰れていた。


「お、重い……」

乗車口を出た瞬間、俺は裸の大人の体に戻っていた。

地面に倒れた蘭の上に、大きな俺は裸でまたがっていた。


「も、戻った……」

「クソ重いんだけど……」

俺の下になった蘭が、恨めしそうに呟いていた。



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