012
子供の俺にはなんの力が無い。
子供になって、服も全部脱ぎ捨てて、裸になった。
ヒートアップして叫んで、過去の嫌な記憶も呼び覚ました。
それでも誰もいなくなった瞬間に、寒さを思い出して体が震えていた。
寒い、寒い、寒い。
冬の空気が、バスの中の空気を確実に下げていく。
体を震わせて、裸の子供の体を自分の着ていた運転手の服で温めていた。
それでも、このバスの中が寒いのは変わらない。
高さもあるし、鍵は車外にある絶望的状態。
だけどその鍵を、俺は取りに行くことができない。
だからこそ、俺はスマホで電話をかけることにした。
「ケイちゃんも、繋がらないか」
既に知り合い含めて、三人の友達に連絡をしていた。
だけど、誰も繋がらない。
平日の昼間だから、仕方ない部分はあるが。
後は、LONEでメッセージを何人かに送っていた。
それでも今のところ、メッセージに反応が無い。
今は授業の時間、知り合いの先生や守衛も連絡がつかない。
(このまま、ずっと寒いこのバスの中で過ごすのだろうか)
スマホで連絡を取りながらも、繋がらないことで諦めていた。
連絡先を知っている人間は、意外にも少ない。
残された最後の一人は、俺の……妻だ。
(ここで繋がらなかったら、連絡先が無い)
小さな手で、スマホを操作した。
そして、電話をかけていた。
1回、2回、コールは……3回でガチャと音が聞こえた。
(出た!)俺は、思わず顔が明るくなった。
それと同時に、俺はスマホをスピーカーに変更した。
「もしもし、俺だけど」
「俺?誰よ」
「俺だよ、俺」
「新しいオレオレ詐欺?」
「違うよ、『土室 樹』だよ」
俺は、必死に言い放った。
だけど喋りながら俺は、気づいた。
俺の声が、子供の声変わりする前の声に戻っていた。
「樹?そんな筈は無いわ。だって声が、子供っぽいモノ」
「でも、俺なんだよ。いいからテレビ電話に切り替えるから」
そういいながら、通話をテレビ電話に切り替えた。
通話相手の妻も、同時にテレビ電話に切り替えた。
スマホ画面に出てきたのは、ミディアムカールの女性。
薄赤のセーターを着ていた若い女性。
落ち着いた眼鏡姿の女は、俺の妻である『土室 蘭』だ。
だけど、蘭は明らかに驚いていた。
「子供?どういうこと?」
「俺、子供になった。なんかよくわかんないけど、俺は子供にされた」
「どうして?」
「その原理は、さっぱり分からない。
だけど今、俺はバスの中に閉じ込められている。
ここは、俺が運転している箕面小のスクールバスの車内だ。
車内の近くには、鍵も落ちている」
俺の言葉に、蘭は驚いていた。
だけど、蘭の次の言葉に俺は逆に驚かされていた。
「樹は、どうしてバスの運転手をやっているの?」
「ああ、仕事だ。運転手やっているってメッセージを、少し前に送ったぞ」
「ふーん、そうなんだ」
「で、俺を信じてくれるのか?」
子供の声の俺だけど、妻の蘭は難しい顔を見せていた。
「子供が、バスの中にいるのは分かるけど……ねえ」
「頼む!助けてくれるのは、お前しかいないんだ!」
俺は手を合わせて、蘭にすがるしか無かった。
その顔を見て、蘭は難しそうに俺を見ていた。
少し考えるしぐさを見せて、口を開いた。
「分かった。
とりあえず、あなたが本当に樹なのか確認させてもらうわ」
蘭は険しい顔で、スマホの中の画面が見えていた。




