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妖精の神殿(後編)




地下道は途中から坑道に変わり、私はメイベルちゃんを頭の上に乗せ、その中を進んでいた。

坑道内は天井から水がポタポタと垂れる音が響き、先ほどとは変わって不気味な雰囲気が漂っていた。



「なんか、途中から地下道の雰囲気が変わった…」

「ダンジョン内も一応、神殿の一部なの。」

「ここも神殿内なの?」

「侵入者を迷わす為の迷宮よ、でもここの神殿は比較的規模は小さい方だと思う。」

「妖精の神殿って他にもあるの?」

「至る所にあるけど、特にヴァルナスのほうにはもっと大きいのがあるわ。」


マジか、そいつは面白そうだな。

てか、ここのダンジョンも結構な規模だと思うんだが、ここより大きいってどんだけなんだ…?


それは行ってのお楽しみか…。



そんなことを考えながら進むこと五分ほど。突然、開けた空間に出て来た。そこはまるで地下にできた大きな谷のようで、そこには今にも落ちそうな吊り橋が一つだけ掛かっており、対岸のほうには向こうへと続く坑道の穴が続いていた。



「この橋を渡るの…?」

「そう…でも、ちょっと危ないかも…」


私はそこから谷底を見下ろすも、底は真っ暗で何も見えない。どのくらいの深さがあるのかも分からない上、落ちたら間違いなく死ぬ高さだろう。



「これは落ちたら間違いなく命はないわね…」

「どうする?メイベルちゃん…他の道探す?」

「いや、他に道はないわ…ここを渡らないと次の階層には行けないし…渡るしかないわね…」

「マジかぁ…」


他に道は無し…行くしかない。

別に高所恐怖症という訳ではないが、流石にちょっとビビる高さだ。



「行くしかないか…。」


腹を決め、私はリュックの中からロープを取り出すと、それを腰に巻いて縛り、ロープの反対側を近くにあった岩に縛り付けて命綱にした。



「メイベルちゃん…一応聞くけど、今飛べたりしない?もし飛べればこのロープの片方を向こう側まで持っていって結んできてほしいんだけど…」

「ごめんなさい…まだうまく飛べなくて…」

「そっか…仕方ない。メイベルちゃん、落ちないようにしっかり掴まってて!」

「わかったわ。」


命綱を腰にしっかりと結び、私は恐る恐る吊り橋にその一歩目を踏み入れた。

ギシッという軋む音と共に板が体重で軽く沈み、私は片側の手すりの綱に掴まって吊り橋を渡り始める。


足元の板の隙間からは谷底の暗闇が広がり、私は下を見ないように慎重に進んだ。



ギィ…ギィ…


「ふう…おっかない!」

「気をつけてリリア、この板だいぶ脆くなってるわ!」


そんな事言われてもこれ以上気をつけようがない。

一歩一歩足元に注意しながら、吊り橋を渡る。やがて橋の中腹までやって来ると、そこで私は一呼吸置いて立ち止まった。


「やっと半分…」

「あともう少しよ!頑張ってリリア!」

「うん…行くしかないよね…ここまで来たら。」


ここまできて今更引き返すわけにもいかない。

小休止して深呼吸し、再び私は対岸を目指して足を進めた。しかしその直後、お約束と言わんばかりに私が足を置いた板が腐っていたのか、バキッ!っという音とともに壊れ、私は橋から谷底へ落下しそうになり、すぐに手すりの綱にしがみつく。



「うわぁッ!!ふッ…ふぅッ!ふぅ…あ…あっぶねぇ…!」

「大丈夫!?リリア!!」


吊り橋は大きく揺れ、私は揺れが収まるまで綱に片足をかけて留まり、じっとした。


死ぬ!!落ちたら死ぬ!!

必死に私は足をあげ、なんとか橋の上に這い上がると、手すりの綱にしっかりと掴まりながら足元の板を確認しながら進み続けた。



それからどうにか私は吊り橋を渡りきり、対岸へと辿り着くことができた。



「はぁ…はぁ…し…死ぬかと思ったぁ…!」

「お疲れ様!ここまで来れば大丈夫よ!」


メイベルちゃんはそう言って私を慰めてくれた。

流石におしっこチビるかと思ったわ…。もう吊り橋を渡るのがトラウマになりそうだ。


三分ほどその場で休憩した後、私は再びメイベルちゃんに案内されながら奥の方へと続く洞窟に入り、先を進む。



洞窟内を進んでいくと、途中から石レンガの作りに変わり、洞窟の雰囲気が変わった。ここも人工的に作られた地下道のようで、左右横の壁には小さな穴が空いている。見るからにトラップが仕掛けられているのは一目瞭然だ。



「これは間違いなく罠だね…。」

「足元の敷石に注意して!黒っぽい色の石を踏むと横の穴から矢が飛んでくるわ!」


怖い…当たりどころが悪いと即死トラップじゃん…。


ふと思ったのだが、メイベルちゃんここのダンジョン、もとい地下神殿に詳しいと言っていたが、仕掛けられているトラップのことも詳しいのか?



「ねぇ、メイベルちゃん。地下神殿に詳しいって言ってたけど、神殿内に仕掛けられてるトラップとかも知ってるの?」

「いや…全部は知らないけど…私が知ってるのはザンドたちが入ってきたルートのトラップだけだから…実際私もここのダンジョンに入るのは初めてよ。」

「マジですか…。」

「でも私、記憶力はいい方だから、道は正確に覚えているわ!」

「まぁ…道が合っているならいいけど…ってことはザンドたちもさっきの吊り橋を渡ってきたってこと?」

「アイツは吊り橋は渡らずに長い鞭を使って渡ってたわ。」

「鞭!?どうやって…?」

「天井の岩に鞭を伸ばして振り子みたいな感じで向こう岸に渡ってたわ。」


マジか、あの巨漢…。まぁ流石にあんなデカい図体であんなボロい吊り橋を渡ったら間違いなく落ちるだろうな。

しかしアイツ、見かけによらずそんな芸が出来たとは…盗賊やるよりサーカスで曲芸やってるほうが向いてそうだな。


とりあえず私はトラップの様子を確かめようと思い、足元に落ちていた中くらいのサイズの石を拾い上げると、それを近くの黒い敷石の上にそっと置いた。すると石の重みで敷石が沈み、同時に横の穴から矢が飛び出し、矢は向かいの壁に突き刺さった。


ドスッ!!



「…トラップは生きてるみたいだね…。」

「大丈夫よ…!黒い石をふまなければいいだけだから!ザンドは踏みまくってて防御魔法で防いでいたけど…」

「私も防御魔法使えたらなぁ…」


この世界では誰しも魔力というエネルギーを体内に有している。しかしそれは個人によって能力は様々で、魔力が強い者もいれば弱い者もいる。当然、魔力が高ければ使える魔法の幅も大きく広がる。ちなみに私の魔力は弱くも強くもない、中途半端な微妙な感じだ。しかし、魔力が弱くても工夫次第で戦闘力をつけることは可能だ。


故に私は少ない魔力だけを用いて一カ所に集中して一撃を放ち、あの時モンスターを粉砕することができたのだ。

まぁ私の場合は完全に我流だけどね。



まぁそんなことより、今はここを無事に通り抜けることだけを考えよう…。

私はさっきの吊り橋と同様に足元に注意しながら、黒い敷石を踏まないように慎重に石畳の床の上を進んでいった。



「ゆっくり…慎重に…」

「気をつけて!」


さっきの吊り橋に比べたらまだマシな方かもしれん。

それからどうにか私はそのゾーンを進み、次の洞窟の穴が目前に迫っていた。



「リリア!あと少しよ!あの穴の先を行けば階段がある!そこを登れば森の中の塔にでられるわ!」


やっと出口か、と、私は内心安堵した。しかし、その安堵も束の間…。



ガコンッ


「え?」


足元に違和感を感じた。見ると、足元の白い敷石が僅かに沈んでいるのがわかった。

私は一瞬、トラップを踏んでしまったと焦ったが、矢は飛んでこない。


その直後、ゴゴゴゴゴ…っと地響きが轟き、後ろの方からから巨大な岩の玉が姿を現し、私の方へと向かってその巨大な岩が転がってきたのだ。



「うわぁぁぁーッ!!!嘘ぉッ!!?」

「走ってッ!!リリア!!」


一難去ってまた一難。

最後の最後で隠しトラップに引っかかってしまうとは、黒い石だけって言ったじゃん!!


私は無我夢中で走った。後ろから巨大な岩に追いかけられながら、必死に走った。

やがて目の前に行き止まりが迫り、私はそこで立ち止まる。しかし背後からは岩が迫っていた。



「行き止まりッ!?嘘ッ?」


しかし、ここで私の頭上にいたメイベルちゃんが何かに気がつき、横を指さして私に教えた。



「リリア!横に穴がある!」


見ると、行き止まりの横には人1人入れるほどの大きさの窪みがあり、私はとっさにその中へと飛び込んだ。

だが、飛び込んだ直後にそこの足場が崩れ、私とメイベルちゃんはその穴の中へと落ちてしまった。



「ぎゃぁーーーッ!!!」


穴の中はスライダーのようになっていて、私たちはその中を転がり落ちていく。やがて穴を抜けると、私はとある場所へと導かれるように飛び出した。



「うわああああーッ!!!ぎゃふッ!!」


幸い、即座に魔力で衝撃を抑えたおかげで怪我はしなかったものの、顔面から着地し、私は軽く鼻血を垂らしてしまった。メイベルちゃんも無事みたいだが目を回している様子だった。



「痛てて…メイベルちゃん!大丈夫?」

「め…目が回るぅ〜…」


とにかく私たち二人とも大きな怪我はないみたいだが、それにしてもまた妙なところに迷い込んでしまった…。

その空間は立派な神殿風作りで左右には石像が並んでいて明らかに遺跡か神殿の重要な施設のような感じだった。



「ここ…何?」


明らかに普通の作りではない。部屋の中央には円形の台座があり、周りは柱が四本並んでいて水が流れていた。

そして中央には台形の小さな台座があり、その上には一冊の本が置かれているのがわかった。



「なんだろう?」

「何かしら…この本?」


私は不思議に思い、台座の上に置かれていたその本を手に取った。すると突然、その場合に風が吹き、本が青白く輝いてページがひとりでに開き始めた。



「え?なッ何!?」

「もしかして…これって!?うわぁ!!」


次の瞬間、その本は激しい光を放ち、一瞬だけ視界を奪った。

すると、光の中からまるで女神様のような綺麗な女性が目の前に姿を表す。その女性は私の前に降り立つと、私の方を見つめて微笑みかけた。



「初めまして、わたくしは魔導書に宿る精霊。」

「魔導書の精霊…?」


凄く綺麗な人だ。それに胸も大きい…。

輝くような長い銀髪にアメジストのような美しい瞳。白い布のような装束を纏い、手には先端に緑色のクリスタルのような玉が付いた杖のようなものを持っていていた。

視線が思わず胸元に向いてしまいそうになる。って、何を考えているんだ私は!この人は精霊だぞ!!そんなスケベな目で見てはいけない!!



「精霊…ですか。それで、お名前はなんと…?」


そう尋ねるも、その女性は首を横に振う。



「わたくしに名前などございません。わたくしはあくまで魔導書の所有者を守護する存在ですから。」

「そ、そうなんですか…じゃあなんとお呼びすればいいですか…?」

「そうですね、わたくしのことはお気軽に(精霊ちゃん)とでもお呼びください。」

「え?せッ精霊ちゃん!?」


こんな美人なお姉さんをちゃん付けで呼ぶって…私よりは年上っぽい見た目だけど、いいのか?



「ところで、貴方様のお名前をまだ伺っておりませんでしたね。」

「私は冒険者のリリアと言います…!こっちは妖精のメイベルちゃん。」

「リリア様にメイベル様ですね…それではリリア様、どうぞ御手を。」

「え?」


言われるがまま、私は突然現れた魔導書の精霊を自称する美女、精霊ちゃんに自分の右手を差し出す。すると彼女は私の右手をそっと握ると、彼女の手から暖かい気のようなものが流れてくるのがわかり、精霊ちゃんは私の記憶を読んでいる様だった。その感覚は私自身にもはっきりと伝わってきた。



「なるほど…リリア様。貴方様はとても清い心をお持ちのお方のようですね。」

「えッ?それってどういう…?」

「合格です。」


精霊ちゃんはそう言うと、突然、私の唇にそっと口付けをする。


え?


一瞬のことに私は固まる。突然のキス。いきなりファーストキスを奪われ、私も、何より私の頭の上に居たメイベルちゃんも顔を真っ赤にして驚いた様子でだった。



「えッ!?」

「ちょッちょっと!?精霊ちゃん!?」

「フフフッ。これで契約完了です。リリア様。」


精霊ちゃんは微笑んでそう答える。

契約完了?どういうこと??てかキスされた!!!



「今の口付けは契約の証。もはやわたくしは貴方様のもの。リリア様、どうぞ何なりとご命令を。」


精霊ちゃんはそう答えると、私に前に跪く。

なんてこった…まさかこんなことになるなんて…。


驚きと困惑の中、私とメイベルちゃんの視線は彼女の胸の谷間に向いていた。




こんなよくわかんない状況でもむっつりなんだな、私たちって…。






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