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リュドの村にて



「グオオオオオオー!!!」


森中にモンスターの咆哮がこだまする。すっかり興奮状態で目が赤く染まり、モンスターは私に狙いを定めていた。

私はニヤリと笑い、少し前屈みになってモンスターを見つめる。


次の瞬間、モンスターは私に向かって突進し、私は寸前で地面を蹴って飛び上がると、モンスターの攻撃を交わして背後へと回る。モンスターはそのまま正面の大木に激突し、ドシン!と気にぶつかる音が響く。



やはり興奮した様子で周りが見えていないようだ。ならば…。



「風斬りッ!!」


私は魔力を込めて構えたダガーナイフをクロスするようにモンスターの背に向けて振り翳し、斬撃を振う。その直撃に土煙を巻き上げてモンスターはダメージを受けるものの、まだ動けるようだった。



「流石にこの程度の斬撃で倒れるような相手じゃないか…なら!」


次に私はナイフを構えると、そのダガーナイフを二本纏めて投げ飛ばす。

ナイフはモンスターの両目に突き刺さり、モンスターは悲鳴を上げる。視界を奪ったものの、その程度でモンスターの動きは止まらず、尻尾を振り回して、側にあった岩を砕いて牽制している様子だった。


しかし、もはや相手は手負の獣。視界を奪ってしまえばこっちのモンだ!


私は地面を蹴って高く飛び上がり、空中で一回転して眼下にモンスターの頭上を確認すると、足先に魔力を集中させて一気に足を振り下ろした。



「必殺ッ!!隕石落としィッ!!」


ズシンという衝撃と共にモンスターの頭は地面に叩きつけられ、土を抉る。周囲に土煙が巻き起こり、モンスターは衝撃で頭蓋骨が粉砕され、そのまま動かなくなった。

私が使ったその技は魔力を一点に集中することで威力を増し、対象物を一撃で粉砕するという荒技である。技そのものはシンプルではあるが威力は抜群だ。しかし一般的には魔力をそのようにして格闘戦に応用することはあまりないので、裏技中の裏技である。



「よっと。」


私はモンスターの上から飛び降り、涼しげな様子で肩に乗った埃をはたき落とす。ちょっとやりすぎな気もするが、何にせよ自分の実力を確かめられたので良しとしよう。



「リ…リリア殿!」


あ、そーいやライルさんが居たのを忘れていた。

ライルさんは驚いた様子で馬車の影から出てくると、私の方へと駆け寄ってくる。



「いやぁ驚きましたよ…!!モンスターを一撃でやっつけてしまうとは…!」

「ライルさん、お怪我はありませんか?」

「おかげさまでワシは大丈夫ですじゃ。しかし驚きましたぞ…!」

「これでも元冒険者ですから、この程度のモンスター相手なら余裕ですよ。」

「そうでしたか…どうりでお強いわけですなぁ。」


モンスターの死体は、やがて塵となって消えてゆく。魔力を流し込んだことによってモンスターの肉体は分解されてしまい、残ったのはモンスターの体内にあった魔石の塊だけであった。


ダガーナイフを回収してから、私はそこに落ちていた魔石もついでに回収する。だが、その魔石は普通の魔石とはちょっと違う感じで、赤紫色のクリスタルのような石の中に、赤黒い輝く塊のようなものが入っていた。



「大きな魔石ですなぁ…ワシもこれほど大きいものは見たことがないですぞ。」


その魔石を目の当たりにし、ライルさんも驚いていた。まぁ何はともあれ、魔石の塊を入手できたことだし、これを売って金にしよう。でもギネールの魔法店での話を聞いたけどあまり高くは売れなさそうだからあまり期待はできないかも…。



「ライルさん。これから向かう村にこれを換金できるところってありますか?」

「小さい村ですか、店はそんなに多くはないんじゃが、確か商人ならおったはずですぞ。」

「街で聞いたんですけど、魔石って最近価値が下がってるとかなんとかって…買い取ってもらえるでしょうか?」

「どうじゃろうな?交渉してみんことには何とも言えんですな…。」


交渉次第か、あんまり期待できそうにないけど、捨てていくよりはマシか。

私はそう考え、リュックの中にその魔石をしまった。



一悶着あったものの、馬車は再び進みだした。私はまた荷台に乗り込み、森を抜けて草原の中を進む。私は地図を広げて向かう道順を確かめていた。



(王都を脱してから二日、ギネールから一番近いのがリュドの村…その後は街道を通ってから川を越えて次の街か…まだまだ先は長そうだな。)


やがてしばらくすると、家が密集した集落らしきところが見えてくるのがわかった。



「見えましたぞ、リリア殿!あれがリュドの村ですぞ!」


ライルさんはそう言って教えてくれた。

ようやく荷馬車は目的地の村、リュドという集落に到着し、村の入り口の前では数人の村人たちが待っていた。



「おーい!届けにきましたぞ〜!」

「待ってたよライルさん!みんな首を長くして待っていたんだ。」

「私もー!」


そこには小さな子供の姿もあり、ライルさんのパンはリュドの村ではかなりの人気がある様子だった。

私は荷馬車を降りると、そのままライルさんの手伝いに回った。馬車の前には大勢の村人たちが行列を作り、私はライルさんの隣でパンを村の人たち一人一人に手渡した。

あれほどたくさんあったパンは20分も経つ頃には全て無くなり、荷馬車の荷台は空っぽになっていた。



「ありがとうお姉ちゃん!」

「転ばないように気をつけてね〜!」


パンを手渡し、小さな女の子に私は手を振って送る。

なんかこういう経験初めてだから変な感じだな。でも、悪くはないな…。



「ありがとうございました、リリア殿!本当に助かりました!」

「いえ、お役に立ててよかったです。」

「こちらは約束のお礼です、どうぞ受け取ってください。」


ライルさんはそう言うと、金貨二枚と銀貨が数十枚入った袋を渡してくれた。



「ありがとうございます!」

「リリア殿はこの後はこのまま街まで行かれるのですかな?」

「そうですが…それがどうかしましたか?」

「途中までは乗り合いの馬車がこの村から出ておりますがの、馬車は明日の朝にならんと出発せんのですじゃ。」

「え、そうなんですか?」


マジか、乗り合い馬車は一応出ているみたいだが朝にならないと出ないのか…。



「徒歩でも行けますが、それでも流石に二日は掛かりますぞ。もしよろしければ、ワシが宿屋を紹介しますが、いかがですじゃろ?」

「是非お願いします!」


それは願ったり叶ったりだな。

私は早速、ライルさんに宿を紹介してもらい、翌朝まで格安料金で泊めてもらえることになった。おまけに夕食付きだ。ありがたい!


私は宿屋に荷物を預け、魔石を手に商人の下へと訪れた。商人は村の中央広場におり、そこで品物を広げて店を開いていた。



「すみません、買い取ってもらいたいものがあるんですが…。」

「どれ、見せてみな。」

「この魔石なんですが…」


私はモンスターの魔石を差し出した。その魔石を見るなり、その商人は突然目の色を変えて私に詰め寄る。



「こっこれは!?おいアンタ!!」

「はッはい?」

「コイツを何処で手に入れた?」

「何処でって…その魔石は倒したモンスターから出てきたものでして…」

「何?倒しただと…?」


驚いたような顔で商人の男は私を見る。何?私なんか変なこと言った?



「この魔石は普通の魔石とは違う!見てみろ、石の中に塊があるのがわかるだろ?」

「えぇ…それが何か…?」

「コイツはいわば魔力の結晶だ!大抵、魔力っていうのは体内、つまり肉体から出ることはない。出たとしても蒸発して消えてしまう…だがこれは違う!魔石の中に結晶化した魔力がそのまま入っている!こんなものは滅多にお目にかかれるもんじゃねぇぞ!!」

「そ、そうなんですか…?」

「俺も文献で読んだだけだから実物は今まで見たことはなかったが…まさかこんな所で本物にお目にかかれるとは…!」


すごい興奮した様子の商人に、私は困惑するのみ。

この魔石、そんなに貴重なモンだったとは…これはどの程度で買い取ってもらえるのか少しは期待できるかも。



「コイツを売ってくれ!」

「もッ勿論です!そのために持ってきましたので…おいくらで買い取っていただけますか?」

「50…いや100だッ!!100ゴールドで買った!!」

「えッ!?ひゃッ100!?売ります!!」


一瞬耳を疑ったが、期待以上の高値になったな。

私は魔石を商人に渡し、金貨が100枚入った袋を受け取った。思わぬ収入に顔がニヤける。これぐらいあればしばらくは金に困ることはなさそうだな、しかし無駄遣いはできん。貴重な資金だし、大事に使おう。



「ん?あれは…さっきの?」


宿屋へと戻る途中、さっき私がパンを配った女の子の姿があり、その娘は一人で立って泣いていた。

側に母親の姿はなく、このまま素通りするのも気が引けたので、私はその少女に声をかける。



「どうしたの〜?」

「グス…あぁ…さっきのお姉ちゃん…。」

「お母さんは一緒じゃないの?」

「ママは家にいるの……。」

「そっか、どうして泣いてるの?よかったら聞かせてくれる?」

「スン…グス…ミルクが…ミルクが居なくなっちゃたの…。」

「ミルク…?」


頭の中に牛乳を連想する私。多分違うだろうな。



「猫…。」

「猫?」


案の定、ペットの名前だったか。しかし猫にミルクって、きっと牛乳が好物の猫なのだろうな。



「君のペットなの?」

「ううん、野良猫…白くて片目のところが黒いの。いつも広場に居るの。でも居ないの…。」

「なら、待っていればそのうち戻ってくるよ。大丈夫だよ。」


私はそう言ってその娘を慰めるが、余計に泣いてしまい、まったく泣き止んでくれない。

参ったな、さすがにこのままにしてはおけないか…。



「しょうがない…その猫の行きそうな所、心当たりある?」


その後、私は猫探しをするハメになってしまった。

女の子から聞いた情報によると、猫はいつも決まって広場におり、それ以外の時は村の中をふらついていて、たまに村の外の池のそばに居ることもあるそうだ。


ひとまず可能性としては村の外にあるというその池に行ってみるか。


私は女の子から池のある場所を聞き、その足で池へと向かった。

その池は集落から十分ほど歩いた所にあり、池の辺りには桟橋がかかっていて、桟橋の先には一艘のボートが縄に繋がれていた。



「ここが池か、思ってたよりも大きいな。」


池の真ん中には離れ小島があり、その小島には一本の木が生えている。よくみると、その木の枝の上に猫がいるではないか。



「いた。」


白地に片目が黒い猫…女の子が言っていた特徴と合致する。あの猫がミルクか!まさかこんなにあっさり見つかるとは…。

しかし、どうやってあんな離れ小島まで行ったんだ?と疑問に思ったが、島の周辺をよくみると、そこには流木が浮いており、おそらくあれに乗って島まで流されてしまったのだなと理解できた。



「なるほど…島に行ったはいいが、帰れなくなってしまったか…。」


まったく世話の焼ける野良猫だ。

私はボートに乗ると、中に積まれていた2本のオールを掴み、島を目指してオールを漕いだ。


離れ小島まではそれほど離れてはいなかったので、すぐに辿り着けた。私はボートを島に寄せると、飛び出していた木の根に縄を縛り付けてボートを繋ぎ、島へと上陸した。



「おーいミルク!もう大丈夫だよ!一緒に村に帰ろ〜!」

「ニャーン」


猫のミルクに手を差し出し、降りてくるように促すも猫は怯えた様子で私の元に降りてこようとはしない。



「参ったなぁ…しかたない、かくなる上は…。」


私はダガーナイフを一本だけ抜くと、ナイフに魔力を込めて猫の乗った枝にめがけて軽く振るう。

威力は最小限に留めて…。



「風切りッ」


枝は切断され、猫も一緒に落ちてくる。私はミルクをキャッチし無事を確かめた。どうやら怪我はないみたいだ。



「まったく人騒がせなヤツめ、ほら、さっさと帰るぞ〜。」

「ミャーオ!」

「ん?」


木の上から下ろしたにも関わらず、ミルクはそれでも怯えている様子だった。

何がそんなに怖いのか、それは私が猫を抱えてボートに乗り込んだ時に判明した。



「さて、村に戻ろう。」

「ミャーオ!」

「どうしたミルク?ん?」


その時、バチャンと池の水面を何かが跳ねたような音が聞こえ、私はその方を確認する。



「何…?」


するとその直後、水中の中からその大きな影が水面上に姿を表す。水面から飛び出したそれは、ワニのような大きな口に鋭い牙が並び、胴体はまるで蛇のようで、魚のようなヒレが生えていた。



「あれはッ!ヨルムンガンド!?」


その生物の正体は一目でわかった。この池の主だ。水辺にいる獣や人を襲って水中に引きずり込むことで有名なモンスター、その名もヨルムンガンドだ。

コイツは普段は湖や池の底でじっとしていて、獲物が近寄ってくると水面に忍び寄って獲物を喰らう習性がある。つまりこのヨルムンガンドが狙っている獲物はこの猫ということだ。それどころか今度は私も狙われている!


ヨルムンガンドは執念深く、一度狙った獲物は絶対に逃さないと言われる。



「上等じゃん。」


私はボートの上で姿勢を低くし、モンスター(ヨルムンガンド)の気配を観察した。

ヨルムンガンドは水面から跳ね上がり、水面に波が起こり、ボートが激しく揺れる。相手を威嚇し、疲れて弱りきったところを一撃するという腹だろう。だが、そう簡単にいくかな?


ヨルムンガンドがボートに近づいてきた時、私は立ち上がると、オールを掴んで水面を叩く。するとその瞬間、ヨルムンガンドは逆に私の後ろ側に回り込んで水面から飛び上がり、私に襲いかかる。だが…。



「そうくると思ったよッ!」


私は足元に置いていたもう一本のオールの柄を踏むと、テコの原理でオールは跳ね上がり、ヨルムンガンドの胴体にオールがバシン!と当たり、動きが怯んだ。その瞬間、私はダガーナイフを抜き取り、風斬りをお見舞いする。



「風斬りッ!!」


ヨルムンガンドは空中で胴体と頭を真っ二つに引き裂かれ、水面に落下する。

勝負はあった。相手が油断した隙を付いて私は一撃でヤツの胴体を切断し、胴体下部にあるコア(核)を破壊して無力化したのだ。



「まったく、とんでもない主がいたもんだな…。」

「ニャーオ」

「大丈夫だよミルク、さ、あの娘のところに戻ろう。」


猫のミルクもすっかり落ち着きを取り戻したようで、私はその猫を抱えて村へと戻った。

そこではさっきの女の子が待っていて、猫のミルクを抱えて戻ってくる私を見ると、嬉しそうに喜んだ。



「ミルクー!!よかった!!」


女の子は安心した様子で、猫のミルクに小魚を与えた。

あれ?てっきりミルクって名前だから牛乳を与えるのかと思ってたけど…どういうことだ?



「ミルクは魚が好物なの。でも牛乳はあんまり飲まないよ。」

「え…そうなんだ…。」


名前がミルクなのにミルク嫌いとはこれ如何に?まぁこれ以上は突っ込まないでおこう…。

何はともあれ一件落着だな。気づけば日はすっかり暮れ始めている、いろいろあっもうクタクタだし、そろそろ宿屋に戻ろう。


宿屋に戻ると、既に夕飯が準備されていた。夕飯は村の郷土料理のシチューでとても美味しかった。



「リリア殿ォ〜!どうですかのぉ〜?」

「ライルさん?ちょっと飲み過ぎですよ!」


ライルさんはすっかりお酒で出来上がっており、顔を真っ赤にしていた。オマケに酒臭い…。



「この程度でワシゃ酔ったりしませんぞ!…ヒック!」

「なーにやってんだい!まったくしょうがない爺さんだねぇ!」


するとそこへ、宿屋の女主人がやってきて酔っ払ったライルさんを叱る。ライルさん上機嫌に私を褒めてくれていた。



「凄いんですよリリア殿は!モンスターを一撃でやっつけて…!」

「いつまでも酔っ払ってんじゃないよ!ホラ!さっさと戻りな!酔っ払いに出す酒なんてないんだからね!」


宿屋の女主人はそういうと、ライルさんを店の外へと摘み出した。その後酔っ払った状態のライルさんは他の村人に担がれて帰って行った。



「まったく困った爺さんだよ…」

「あはは…。」


ホントに困ったもんだよ、でもおかげでこの村まで来ることができたし、こうして美味い飯にもありつけた。



「でもライルの爺さんにはいつも助けられてんだ。あんなんだけどいい爺さんだよ。酒を飲むと誰でも絡んでくるのは悪い癖だけどね。」

「慕われているんですね。」

「あぁ、10年ぐらい前に土砂崩れで街道が塞がれてね、その頃は村は深刻な食糧難だったさ…でもあのライルの爺さんはリュドの村のためにパンを焼いて届けてくれたんだ。ここの村人たちはライルさんのパンをみんな気に入ってね、街道が復旧したその後もライルさんのパンが食べたいって声が多くて、それからはああやって定期的にパンを馬車で届けてくれるようになったのさ。」

「そうだったんですか。」

「あの爺さんはこの村の恩人さ。それにアンタには世話になったみたいだから、あたしから代わりに礼を言っとくよ。」

「いえ、私はそんな大したことはしてないですから…。」

「そうかい?でもあのライルの爺さんがあんなに嬉しそうにしているのを見るのは久々でさ、アンタが手伝ってくれたのがよほど嬉しかったんだろうよ。」

「…」


私、ホントにそんな大したことはしてないんだけどなぁ…まぁ喜んでくれるならいいか。


夕食を終え、私は早めにベッドに横になった。明日も早いし、さっさと寝よう。いろいろあってもうクタクタだ。

おまけに飯の後だからとても眠い。



それから夜は更けてゆき、翌朝を迎えた。

朝の日差しが窓から照り込み、私は目を覚ます。着替えを終えてから私は支度を整えて宿を引き払い、村の出入り口へと向かう。

そこには乗り合い馬車が停まっており、側にはライルさんの姿もあり、私を見送りに来ていたようだ。



「ライルさん?」

「リリア殿、もう行かれるのですな。」

「ええ、なるべく早いうちにヴァルナスに行きたいですから。」

「そうですか、短い間だったとはいえ、寂しくなりますのぉ…。」

「気が向いたらまたいつか戻ってきますよ。」


「お姉ちゃーん!!」


そこへ、昨日の女の子が猫のミルクを抱えて駆けつけてくる。



「あぁ昨日の!」

「お姉ちゃん、昨日はありがとう!これあげる。」


女の子はそう言うと、私にお菓子の入った袋をくれた。中には可愛らしい魚の形をしたクッキーが5つほど入っていた。



「これ、あなたが作ったの?」

「うん!ママも手伝ってくれたの!お姉ちゃんに渡したくて!」


なんて可愛い子なのだろう。私は思わず嬉しくなってしまった。



「ありがとう。あとで頂くね!」

「うん!ほら、ミルクも!」

「ニャーン!」


名残惜しいけど先を急がねば、ヴァルナスまではまだまだ長いのだから。

私は乗り合い馬車に乗り込むと、馬車は私を含めて数人の旅人を乗せて動き出した。



「ばいばい!お姉ちゃん!また来てねー!!」

「リリア殿!どうかお達者で〜!」


ライルさんと女の子に手を振って送られながら、私は二人の姿が見えなくなるまで馬車から小さく手を振っていた。

いろいろ騒動が落ち着いたら、またいつか来よう。私はそう思って女の子から貰ったクッキーを一つ取り出すと、それを口に運んで味わった。



「うん…甘い、美味いなぁ…。」







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