表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/7

逃亡決行




「陛下!!大変ですッ!!馬車が!!姫様の馬車が!!」


その一報は直ちに城にいた国王に齎された。血相を変えて玉座の間に駆け込んだ護衛隊の騎士は馬車が何者かに襲われた旨を国王に伝え、直ちに増援の衛兵が現場に送られた。しかし既に馬車の中にユリア姫の姿はなく、馬車の周辺の森を捜索するもユリア姫は見つからず、やがて日が暮れていった。



「姫はまだ見つからんのか?」

「ただいま、騎士団が全力を上げて捜索に当たっておりますが…未だ…。」

「馬車を襲った者たちの正体はわかっておるのか?」

「そちらに関してもただいま調査中でして、わかり次第、騎士団から報告が入ることになっております…。」

「なんということだ…よりにもよってこんなめでたい日に…!」

「陛下、どうかお気を確かに!」

「ミネロスには問題が発生したと伝えよ…。余はしばらく眠る…。」

「わかりました。」


国王は意気消沈した様子で玉座から立ち上がると、従者とともにその部屋を後にした。

翌日、捜索隊が編成され、捜索範囲を森の外にも広げて彼らは早朝から懸命な捜索を続けていたが、一向になんの手がかりも掴めず、捜索は難航していた。


その後、森の外れにある集落に停めてあった幌馬車の中から、ユリア姫が着ていたと思われるドレスと、ヒールの靴が発見された。捜索隊は集落の周辺と村中を隈なく探し回るも、その集落にも姫の姿はどこにもなく、その日の捜索は打ち切られた。


城では騎士団長と衛兵隊長が会議を開き、捜索状況や事件の全容について話し合っていた。そこにはナタリアの姿もあり、当時の状況など証言を行い、説明が行われた。



「集落付近の馬車の中からユリア様のドレスと靴が見つかったが、それ以外に手がかりはなしか…。」

「はい…。馬車の持ち主の男にも聴き取りを行ったところ、ドレスと靴は森の中で落ちているのを見つけて拾ってきたそうです。」

「どの辺りで拾ったと言ってた?」

「現場からさほど遠くない木こり小屋の側で見つけたと言っています。」

「重要な手がかりだな。小屋の周囲も探したのか?」

「はい。小屋の周囲も含め、付近一帯を捜索しましたが…残念ながら他に手がかりはありませんでした。」


「護衛隊長の話だと、突然森の中から煙玉のようなものを投げ込まれて一瞬のうちに護衛騎士たちが気を失って倒れたらしい。おそらく催眠煙の類であろう。」

「しかし妙だ、本来ユリア様御一行が通る場所は一部の人間しか知り得ない機密情報だ。なのにまるで待ち伏せていたかのように馬車は襲われてユリア様は攫われた…情報が漏れていたとしか思えん!」

「騎士団の中に裏切り者がいるというのか!ありえん!騎士団は皆、ユリア様に忠誠を誓っている!絶対にありえんことだ!!」

「では何処から情報が漏れた?今回の事件、あらかじめ計画されていたようにしか思えんぞ?」

「ところで、馬車を護衛していた騎士たちの様子はどうだ?」

「幸い、護衛騎士たちには死傷者や怪我人は一人もいませんでした。皆、意識は回復しております。何も盗られていないところを見ると、おそらくユリア様の誘拐が目的と見て間違いはないでしょう。」

「ユリア様の安否は依然不明のままか?」

「はい、残念ながら…。」

「おそらくユリア様はどこかに監禁されている可能性もあります。身代金目的の誘拐であれば誘拐犯のほうから連絡が来るかもしれませんが、そのような連絡も今のところ一才ありません。」

「クソ…ユリア様は今何処におられるのじゃ!?」


重たい空気が会議室に流れる。それはナタリアとて同じ気持ちだった。自分が付いていながら姫様を守ることができなかったナタリアは強い自責の念に駆られていた。



「私が付いていながら…姫様が…クソッ!!」


やり場のない自分への怒りに、ナタリアは机を叩く。そばに居た部下の衛兵もナタリアの心中を察した。



「私はなんて無力なんだ…!」

「ナタリア様…」


ナタリア・フレイメルは王家に代々支えるフレイメル公爵家の公爵令嬢で、幼い頃に姫様に危ないところを助けられて以降、姫様に感謝と尊敬の念を抱き、生涯姫様を守り忠誠を尽くすと誓った。長かった髪をバッサリと切り、騎士団入ったナタリアは努力の末、姫様の従者としての地位を得た。ナタリアは姫様に支えることに誇りを持っていたのだ。



「姫様は私の全てだ…あの人だけは絶対に守らないといけないんだ!」


そして、彼女は決意する。ナタリアはすぐにその足で国王の下に向かうと、国王に直訴した。



「陛下!このナタリアが必ずや姫様を探し出して連れ帰ります!どうか私に姫様捜索の許可をください!!」


三日経ち、騎士団で編成した捜索隊は一向になんの成果もあげられないまま時間だけが過ぎていた。国王は一部の望みをかけ、ナタリアに捜索の許可を与えた。



「よかろう、ナタリア・フレイメル。其方にユリア姫捜索を命ずる。ただし、見つかるまでここには戻ってくるな。」

「はっ!感謝します、国王陛下!」


ナタリアはその日のうちに支度を整えると、ユリア姫捜索の為に城を発った。武器は姫様から送られた剣だけを持って…。


「姫様、どうか無事で居てください。今ナタリアが助けに行きます…。」


心の中でそう呟き、ナタリアは旅だった。








--------------------------------------







「ん〜味はまぁまぁかな…?」


そこは何処かの森の中。私は捕えた小さな魔獣を焼いてその味を確かめていた。塩をかけただけだが、味は悪くはない。悪くはないが、食感があまりよくない…。


既にあの日から四日が立ち、私はすっかりサバイバルな生活を送っていた。食料などは城からもってきたパンや肉などがまだあるが、極力は自給自足がモットーなので、早い段階から狩猟で獲物を獲って食べるようにしているのだ。



「ご馳走様でした。」


獲った命は無駄にはしない。それがサバイバルの鉄則。お城で暮らしていた頃とは全く違う生活環境ではあるものの、案外どうにかなるもんだな。






遡る事6日前、私はある人物と人目につかない城の一室で接見していた。



「ここなら大丈夫ですよ。この部屋なら誰にも話を盗み聞きされる心配はありませんし。」


私がそう言うと、その人物は顔の変装を解く。そこにいたのは、先日地下牢から釈放されたあの盗賊の男だった。

盗賊の男は庭師に変装して城内へと潜り込んでいたのだ。



「流石ですね、変装して潜入とは。」

「俺のは変装魔法だからな。だが長時間別人の顔を保つのは根気がいる。まぁそんなことはどうでもいいか。」

「それで、計画の準備のほうはどうなっていますか?」

「バッチリだ。俺の仲間たちが協力してくれる。もちろんアンタのことは誰にも話していないから安心してくれ。それとコイツを渡しておく。」


男は提げていたカバンの中からある物を取り出し、私に渡す。



「これは?」

「特製のガスマスクだ。当日はそれを持っていけ。襲撃の時に催眠ガスを使うから、襲撃が始まったらそいつを顔に付けろ。」

「わかりました。あ、それとこの荷物を預かってもらっていいですか?」

「荷物?」


私は荷物を詰め込んだリュックを出し、それを預ける。その荷物は私の家出セット一式で、中身は食料や調味料、換えの下着や路銀などが詰まっていた。



「これを預かってほしいのです。」

「アンタの荷物か?」

「はい。中身はわたくしの下着なども入っているので見ないでくださいね?好奇心で覗くなんて見下げたことはしないと信じていますよ。」

「わかってるって、好奇心で覗いたりなんてしねぇよ…。そんなに信用ねぇのか…?」

「念の為です。それとこれは前金です。残り半分は計画が成功したらその場でお渡しします。」


私は金貨が数十枚入った袋を男に渡す。



「了解。馬車が森を抜けるタイミングで俺たちが催眠玉を投げ込むから、煙で護衛が倒れたらガスマスクを付けて馬車を出てくれ。その後、森の中で落ち合おう。」

「わかりました。」


金貨を受け取り、男は再び庭師に変装すると、荷物を預かって部屋を出ていった。そして当日、計画は実行に移され、見事に成功する。



馬車を出た後、私は煙の中を抜け、森の中へと駆け込んでいた。これで私は王族でも姫でもなくなる。そんなことをしみじみと感じ、振り返ることはせず森の中を駆けた。



「はぁ…はぁ…ここまで来れば大丈夫かな?」


ガスの影響がないところまで来たので、私は装着していたガスマスクを外す。流石にマスクを付けたまま走るのは息苦しい。



「おい、こっちだ。」


そこにいたのは、あの盗賊の男だった。私は男に案内されながら森の中を駆け抜けて少し開けた所へと案内された。そこには古びた小屋があり、そこには馬を繋いだ幌馬車が用意されていた。



「他の方々は?」

「すぐに引き上げた。ここには来ないさ。仲間には馬車に催眠玉を投げるだけの仕事だとしか言ってないから安心しろ。」

「こんな怪しげな仕事なのに内容も聞かないでよく引き受けてくださいましたね。」

「アイツらは金さえ貰えれば中身なんて聞かなくてもなんでもやる。俺と同じような奴らさ。」


なるほど。それは好都合な人たちだ。大金を払った甲斐があるな。



「荷物は馬車の中に用意しておいた。コイツは国境を越える為の通行許可証だ。名前はそれでよかったか?」

「ええ、ありがとうございます。」


受け取った偽造の通行許可証には私の偽名「リリア」という名が書かれている。もちろん偽名も自分で考えたものだ。

私はリュックの中から残りの報酬である金貨の入った袋を取り出して男に渡した。



「約束の残りの報酬です。」

「ありがとよ、これで当分は盗みに入らなくて済むぜ。ところでアンタ、これからどうするんだ?」

「とりあえず隣国に渡った後は冒険者にでもなろうかと思います。」

「そうか…全く大したお姫様だな…。ここまで大胆なことを思いつくとは。」


呆れる反面、驚いた様子で男はそう答えた。

私は幌馬車の中でドレスを脱ぐと、用意していた服に着替えた。それはドレスなのだが、歩きやすいようにパニエは取ってあり、スカートの丈を少し短くしたものだった。靴はヒールのままでは歩きにくいので登山用のブーツを用意していたのでそれに履き替えた。



「これでよしっと…。」


着替えが済み、ドレス上から黒いローブを羽織るとその上から荷物を詰めたリュックを背負い、出発の準備を整えた。



「よいしょっと。」

「しっかし、まさかお姫様の逃亡を手助けすることになるなんて、思いもよらなかったな。そんなに結婚が嫌なのか?」

「ええ、好きでもない男と結婚させられるぐらいなら死んだほうがマシですから。」

「それもそうだな。だが、いずれにしろ城から追っ手が来るのは時間の問題だぞ?」

「ご心配なく、その辺も考えていますので。」

「そうか…それじゃあ俺たちに出来るのはせいぜいここまでだ。あとはアンタ次第だぜ、姫様。」

「はい。ご協力感謝します。」


私はそう言い、男にお礼を述べて握手を交わした。その後、私は盗賊の男に森の外まで送ってもらい、男と別れた後、ローブのフードで顔を隠し、旅人を装って乗り合い馬車に乗り込んだ。

馬車の旅は一日がかりで、乗り合わせた他の旅人から食べ物を恵んでもらったりしながら、私は馬車の終点の街まで向かった。



そこはアドロン伯爵家が統治する領地、ギネールの街で、王都ほど大きくはない中規模の街だが、中心部は栄えており、通りには露店や食い物屋や飲み屋、カフェなどが立ち並び、人々で賑わいを見せていた。



「ここが王国で二番目に大きな街、ギネールかぁ…」


初めて来たような感想を呟く私であるが、実はこの街を訪れるのはこれで二度目である。一度目は王族として視察に赴いた時だったか、あの時は露店の屋台飯が食べたいと思ったが食べることさえ叶わなかったな…。父に言っても「そんなものは王族が口にする物ではない」の一点張りで、ナタリアにも反対されたっけ…。


でも今は私一人。何を食おうが誰にも文句は言われない!



「よぉーし!食いまくるぞぉー!」


テンションウハウハ、早速私は街を巡り、屋台グルメを堪能した。お城では食べた事もないようなグルメの数々に、私はすっかり夢中になった。



「あぁ…ウップ…流石に食い過ぎたか…。」


街の広場にある噴水の淵に腰掛けながら、私は串を口に咥えていた。しかし美味しかった…。これが俗に言う庶民派グルメ…いや、私自身けっこう庶民派かもしれない。ともあれ、少し食い過ぎだな。宿代のこともあるしあまり路銀は無駄遣いはできない。


ひとまず食べ歩きはここまでにして、宿屋を探そう。この街でもっとゆっくりしたい気持ちもあったが、モタモタしてると追手の衛兵が私を探しに来るとも限らない。とりあえずこの街で一晩過ごして翌朝には街を出よう。


まるで刑務所を脱獄した元囚人のような気分だな…まぁ私にとってはお城=刑務所なのであながち間違いではないか。




宿屋を探すも、どこがいいのか迷うな。なるべく安くて清潔なところがいい。

とりあえずこの街のギルドを当たってみよう。旅人にオススメの宿屋の情報があるかもしれないし。


私はその足でギネールの冒険者ギルドを訪れた。流石は大きな街のギルドなだけあってそこそこ大きい。

そこにはガタイの大きな大男や魔法使いのような装束の女、エルフなどさまざまな人種の人々の姿があり、私は目立たないようにこっそり入ってギルドの受付に向かった。

受付カウンターには受付嬢がおり、私はオススメの安い宿屋はないかと尋ねた。



「宿屋ですか、それなら当ギルド二階にございます。一泊20ゴールドで冒険者の方だけでなく旅人の方も利用頂けますよ。」


一泊20ゴールドとな?尋ねたところ一般的な宿屋の宿泊料は一泊二食付きで30〜35ゴールドほどらしいので、それらと考えると安い方だ。



「一晩お願いします。翌朝に発つので。」

「はい!ありがとうございます!こちら鍵をお渡ししますね。お部屋はあそこの階段を登って二階になります。」


私は料金を支払い鍵を受け取ると、階段を上がって鍵と同じ番号の部屋に入った。

部屋は綺麗で窓が一つと、簡素なベッドが一つだけあり、私は荷物を床に下ろすと、そのベッドに上にうつ伏せに倒れ込んだ。



「はぁ〜…ふかふか…」


お城のベッドと比べたらそこまでふかふかではないものの、野宿するよりはだいぶマシなほうだ。ベッドで眠れるだけありがたい。


宿屋に荷物を置いてから、私は再び街へと繰り出していた。当面の必要なものを買い揃えるため、店を巡る。

まず最初に立ち寄ったのは古書店である。メインストリートの路地裏の一角にあり、何か参考になるものはないかとその店を訪れた。



「いらっしゃい…ゆっくり見ていってくださいね。」


店の中には本がたくさん並べられ、歴史書や魔導員試験の参考書など、よくわからないものまでたくさん揃っていた。なんだかすごい店だなぁと思ったが、店主は高齢のお爺さん1人のようで、店内には私以外のお客さんはいない。


店内に乱雑に並べられた本の中から、私は一冊の本を手に取った。



「“食べれる野草、キノコの見分け方”かぁ…これはいいかもしれない。」


サバイバルには欠かせない本だな、中身も絵で分かりやすく説明が詳しく書かれている。これにしよう。



「すみません、これください。」

「あいよ、お嬢ちゃん、随分と変わった本を選んだねぇ。」

「興味深い本だと思いましたので、おいくらですか?」

「30ゴールドだけど…お嬢ちゃんには特別に8ゴールドでいいよ。」


おっと、いきなりの大幅値下げ。美少女ルックスが役に立ったな。てか、定価が宿賃よりも高い本って…。

私はお金を支払い、本を受け取った。ひとまずこれさえあれば食い物に困ったときにはどうにかなりそうだ。



「まいどあり〜。」


古書店を後にし、次に向かったのは魔法道具のお店だった。店内には数人の客がおり、陳列棚には様々な薬の入った瓶や薬草、用途の不明な怪しげな道具などが並んでいる。なんかこういう雰囲気のお店、嫌いじゃない。



「体力回復のポーションかぁ、三本ぐらい買っとくか。」


三本で三ゴールド、ポーションって単価が安いんだな。

そんなことを考えていると、突然店の奥から荒げたような声が聞こえてくる。



「なんでよッ!?定価の半額って…!ありえないでしょう!!」


お、なんだなんだ?

杖を持った魔法使いのような水色の髪のエルフの少女が、なにやら店主と揉めている様子だった。



「しょうがないだろう。このところ魔石の物価が下がっているんだ。」

「ああもう!じゃあいいわよッ!他の店当たるからッ!!」


そう言うと、そのエルフの魔法使いは怒って持ってきた魔石を掴んだまま店を出ていってしまった。

魔石ってお金になるのか?でも今の話を聞いたところあんまり稼げなさそう…。


私はポーションを買って魔法道具店を後にし、他の店を巡って必要なものを買い揃えた。

店を全て巡り終える頃にはすっかり日は傾きはじめていたので、そろそろ宿屋へと戻ることにした。お腹も空いたし、昼間あれだけ屋台グルメを堪能したのにもう腹が減っている…。私って燃費悪いなぁ…。


しかしその帰り道、私は後ろから何者かが付けてきているのを感じていた。まさか追手がもうこの街に?!だとしたら早すぎる…しかし他に思い当たる節がない。


相手が何者にせよ、むしろこれは好都合。自分の実力を確かめるには丁度いい。相手の正体を確かめるついでに腕試しだ!

私はローブの中に手を入れると、腰の後ろに差した二振のダガーナイフの柄にそっと手をかけ、路地裏へと誘導する。後をつけているのは二人組の男のようだ。


路地裏へ誘導された男たちは、そこで目を疑う。そこは行き止まりで、そのうえそこに私の姿はない。

私の姿を見失い、二人の男は驚いた様子でその行き止まりの周囲を見回している。



「私をお探しですか?」

「!?」


私は背後から男たちに声をかけた。私の声に驚き、彼らは後ろを振り返る。見たところ、追手の騎士ではなさそうでとりあえずは安心だが、どうやらストーカーはこの二人組だけのようだ。



「いつの間に…?」

「私になにか御用ですか?」

「……ッ」

「あなた達は誰です?なんの目的で私を尾行していたんですか?」

「そうか…初めから俺らの尾行にも気づいていたってことか…」

「ええ、バレバレでした。素人でもわかりますよ。どうせ旅人を狙うチンケな盗賊でしょう?あなた達。」

「何ィ?!チンケな盗賊だとぉ?」

「この女ぁ!バカにしやがってッ!兄貴ィ!やってやろうぜ!」

「お嬢さんよぉ、大人しく金を置いていけ。そうすれば命までは取らないでおいてやる。」

「まったく…身の程知らずとはよく言いましたね。よりにもよってこの私を狙うだなんて…。」

「なんだとぉ?この女ぁ!調子に乗りやがって…!」

「言っときますけど、私、強いですよ?」

「上等だ、女だからって手加減はしねぇぞ…?」


相手の男二人は完全に私の挑発に乗り、ナイフを抜いてみせた。なるほど、コイツら要は小銭稼ぎのしょうもないチンピラか。私のような旅人を狙っては金品を脅し取ることをしているのだろう。


だが、そんなことは私には関係がない。私はずっとこの時を待っていた。鳥籠(お城)に居た時からずっと夢見ていた。



「切り刻んでやらぁぁ!!」


男の一人がナイフを振り翳し、私の方に向かって襲いかかる。その瞬間、私はダガーナイフを抜き、光のような速さで男の背後に周り、その男の首を斬りつけた。



「な…に…?」


その盗賊の男は一瞬のことに、自分に何が起こったの理解できないまま、首から血を吹き出してその場に崩れる。

勢いよく飛び出して行ったので、私は被っていたフードが脱げてしまい、フードの中にしまっていた長い金髪が露になってしまった。



「ひッ!ひぃいッ!!」


残ったもう一人の男はすっかり腰を抜かしてしまい、私が一睨みするとその場から逃げ出して行った。

まったく情けない盗賊だ。まぁ所詮、弱そうな旅人を狙って襲ってくるようなザコな連中だし、私が本気を出すまでもないか。何はともあれ、自分の腕を確認できただけでも収穫だな。


腕試しとはいえ、この人生になって初めて私は人を殺してしまった。でも前世でも敵対者は容赦なく殺してたのであんまり罪悪感のようなものは感じない。これはあくまで正当防衛なので問題はないのだ。


しかし大変なことになったな。こんなところ誰かに見られたら面倒だ。誰か来る前にさっさと逃げよう。

そのまま私はその場を離れ、人が来ないうちに宿へと逃げ帰っていった。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ