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第4話 作戦参謀

 菲針さんの家を出て本格的に旅が始まる。結局菲針さんの家には特に使えそうなものはなく、調味料さえ消費期限ギリギリだったので新しく買い直すことにしました。マジで掃除して回鍋肉振る舞っただけじゃねぇか二度といかんわあの家。

 そして現在、俺たちは歩いています。これからあちこち歩き回って出会った遊徒を片っ端から破壊していくらしい。ただ菲針さん曰く、前に菲針さんが所属していた団体のアジトに機密の情報があるらしく、それを取りに行くために潜入するらしい。

 いやそんなの聞いてませんけど!? ただの旅って、ただの作戦参謀だって、ただの家事担当だって思ってたんですけど! あと人間離れした菲針さんと運動不足の俺の体力差がエグすぎて歩いてるだけでその事実を突き付けられています。


 そんなこんなで到着しました。よくわかんないけどビルの廃墟みたい。人いるのかこれ。ただ遊徒はたくさん蔓延っている。もしかして占拠されてるのか?


「ここからは少しのミスが命取りだ。遊徒の情報を記した文書はいくつかの拠点に分けて保管していた。私が知っているのはこことあともう一つ。情報はたくさんあったほうが良いだろう?」

「それはそうですけど、バレたらどうするんですか」

「それに関してはノープロブレムだ。ここに人間はいない」

「てことはあの機械兵器を盗んだのって菲針さんたちだったんですか?」

「逆だな。我々は盗まれた側だ。元々私が所属していた団体が厳密に保管していた。だが何者かのハッキングにより制御権を奪われ今に至る。しかし妙だと思わないか。なぜ奪われたはずの遊徒が奪われた団体のアジトを警備している」


 たしかに。アジトを警備させる意味が全く無いし情報も盗んでしまえばいい。ということは。


「恐らく私がいた団体も盗みに加担していると睨んでいる」

「そんな……!」

「そうなるとどうなるか」

「緋多喜さんの死は内部によるもの?」

「と、見立てている。まぁ飽くまで私の見解に過ぎんが。兎にも角にも情報を貰えるのなら有難い。静かに行くぞ」


 俺たちは遊徒に見つからないように潜入していく。流石元団員だったこともあり、菲針さんはマップ把握が完璧だ。警備がザルなところを確実に抜けていく。監視カメラの角度も把握しているようで、本部からの監視の目も見事に掻い潜っていく。そうして俺たちはとある部屋の前にたどり着いた。


「ここだ。この部屋の中に情報が記された文書が保管してある」

「どうやって開けるんですか。鍵とか持ってるんですか」

「無い」

「じゃあどうや──」

「ピッキングだ」


 菲針さんはショルダーバッグの外ポケットから針金を取り出し、手際良く解錠する。静かに扉を閉めて探索をする。菲針さんはドアの横にショットガンを立て掛け、棚を漁り始めた。

 部屋の大きさは五畳ほど。ドアから見て両壁に棚があり、正面に窓がある。俺も菲針さんとは反対側の棚を探そうと思い、目に入った一枚の紙に手を伸ばした瞬間。鉄の扉が弾け飛んだ。

 二人同時にドアの外を見るとそこには巨大な遊徒が一体佇んでいた。こんなに隠密に行動していたのになぜバレた。部屋の中にも監視カメラが無いことは入る前に確認済み。一体何故……。


「望兎!」


 菲針さんに名前を呼ばれて気付くとドアの前にいた遊徒がこちらに向かって走って来ている。俺はどうすることも出来ずに弾き飛ばされ、窓を破って外に投げ出された。


「望兎!」


 マズい。望兎が落とされた。文書は──いや今はそれより望兎だ。コイツを倒して望兎の元へ……クソッ、ショットガンが奴の背後に。回り込めるか? いやこの狭さは流石に無理だ。ナイフは意味なし、ハンドガンも意味はないだろう。とりあえずまずは近接で……!

 菲針は得意の総合格闘術の一つ、徒手格闘で遊徒を相手する。投げ技は恐らく不可能。突き技と蹴り技で応戦する。がしかし。


「流石に打撃じゃ傷にもならんか……しかしこのまま逃げて情報もショットガンも失うのは流石に気が引ける」


 菲針はどうにかショットガンを手に出来ないか奮闘するが、遊徒もショットガンを渡すのは都合が悪いと認識しているらしく、ショットガンを守るような立ち回りをしている。


「ちっ、無駄に賢く作りやがって。どこまでも憎たらしい存在だな」


 菲針が苦戦していると、窓の外から声が聞こえてきた。


「菲針さん! うつ伏せになって体制を低くしてください! 五秒数えたら一メートルほどジャンプしてショットガンの構えをしてください!」


 望兎……? 何を言ってるのか良くわからんが君を信じてみるとしよう。

 菲針は言われた通りその場でうつ伏せになる。遊徒は困惑していたが、チャンスだと思ったのか動き出す。その瞬間遊徒の足元に黒く小さい物が転がってきた。


投擲弾とうてきだん……?」


 それは最近発明された軽い素材で強力な爆発が起こせるため、特殊部隊の女性が携帯する爆弾だ。

 うつ伏せになってから五秒後、菲針は一メートルほど跳び上がり空中でショットガンの構えをする。すると遊徒の足元で投擲弾が爆発した。その勢いで遊徒とショットガンが宙に舞った。そこで菲針は感動する。


「流石だな……全て君の計算通りだよ望兎。爆風の反動で跳ねたショットガンは宙を舞い、見事に私の手の中に——」


 菲針はそのままの勢いで目の前のバランスを崩した遊徒の顔面に向かって一撃を打ち込んだ。


「ジャストフィットだ……!」


 上の部屋から銃声が聞こえた。あれは恐らく菲針さんのショットガンの音。なんとかうまくいったっぽいな。

 割れた窓から菲針さんが覗いて手を振っている。俺も無事を伝えることを含めて振り返した。ていうか落ちた地点にたまたま救護用のマットが置いてあって助かった。一回三途の川見えたもんな。あとあの投擲弾。初めて実物見たけど流石特殊部隊のアジトだった廃墟だな。よく見りゃいろんなところに転がってるの怖すぎんだろ。

 その後俺たちは大きな音を立てまくったので見つからないようにバラバラに逃げ、後で合流した。


「望兎、怪我はないか」

「なんとか大丈夫です」

「すまない。情報は見当たらなかった……」

「あぁ、これですか?」


 俺は菲針さんが求めていたであろう紙切れを提示して見せる。


「なぜお前がこれを持ってるんだ?」

「吹っ飛ばされる前たまたま手に取ったら持ったまま落とされたんすよ」

「フッ、出来したぞ少年」

「ま、助手なんで」

「あまり調子には乗りすぎるな?」

「すんません」


 そんな他愛もない会話をしながら今回の収穫の内容に目を通してみる。そこには対して有力情報はなかったが、目を引く情報がひとつ記載されていた。どうやら遊徒は人の体温を検知して追いかけてくるという。人の呼吸に反応してくるヒルかよ。だからあの時俺らの場所があの巨大な遊徒にバレてしまったのか。


「なるほど。つまりいくら身を隠しても、いくら逃げたとしても無意味ということだな」

「なんてむごいんだ。こんなもの世に出しちゃダメだろ」

「その通りだ。だからこそ私の手でコイツらを殲滅するんだ」


 遊徒を殲滅してこの世界に再び平和を取り戻す。それが俺たちの目的。というかこんなヤバい奴らを盗んで徘徊させてって、企てた奴は一体何を考えているんだ?


「さてと望兎。一度飴と食材の調達に行こうか。もう一か所同じような場所を知っている」


 そういえば二か所だけ知ってるって言ってたな。てか飴と食材って別の括りなんだ。でももう俺が料理を作るんなら飴はもういらなくないか?


「飴いるんすか? お腹空いたらどうせ俺がなんか作るんだし」

「飴は私の主食であり、大好物であるだけではない。私は飴を口に含んでいる時に何故だか身体能力が一時的に上昇するんだ。そのため切らすことはできない」

「え? 今以上に?」

「あぁ。なんとなく戦いに集中出来るんだよ」

「どんな体質だよ」


 なら飴も買うか。あ、あとそういえば。


「菲針さんこれ」

「なんだこれは。イヤホンか?」

「うーん、厳密には通信機かな。これ付けてれば離れてても通話できるから」

「ほう、トランシーバーのようなものか」

「そう。試しになんか喋ってみて」

「あーあー。もしもーし」


 開いたノートパソコンの画面に音の周波が表示されている。しっかり動いている証拠だ。俺の方にも菲針さんの声が通信機を通してバッチリ聞こえている。


「ん? 今この世界はWi-Fiとやらは通っていないんじゃないか?」

「あーそうだよ。都心は通ってるみたいだけど多分みんないろいろと連絡したりネット使ってて渋滞してると思うから回線はほぼ動かないと思うけど」

「なんで望兎のパソコンは動いてるんだ? Wi-Fiとやらを使わないのか?」

「あぁ、まぁ自分で作ったからね、デバイス。あとその通信機も」

「……へ?」

「てかポケットWi-Fiもあるけどどうせ管理会社もそれどころじゃなくなってスマホとかももうすぐ使えなくなるから新しく作んなきゃなぁ。てかひょっとして価格とかエグくなるんじゃね!? みんな食料とかそっちに費やして部品とか買わないでしょ。あとはあとは──」


 ……この少年は何を言っているんだ? これ系の機械って作れるものなのか? これは私があまりにも機械に疎すぎるだけなのか? あと一人の世界に入りすぎではないか?


「世間の人たちはみんな自分で作ってるのか?」

「たまにいるね。でも半田からプログラミングまでやってる人はあんまりいないんじゃないかな」


 改めてこの少年は並外れた頭脳の持ち主だ……。いや若干恐怖さえ覚えてしまう。私は少しこの月見里望兎という少年を甘く見すぎていたのかもしれん……。


「……望兎。こんな道端で機械を広げるのも何だろう。とりあえず買い出しに向かおうか……」

「そうですね、行きましょう」


 ようやく望兎の変人さに気づいた菲針であった。

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