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第15話 風の刺客

落下したアリスは血を流しているが、息をしている様子だった。

 息はしてるけど、だがまだ致死状態だ。頭部からの出血が酷い。早速手当を……!


「──おい」


 その瞬間悪寒が走った。背後からの覇気を感じるその声は確実に俺に呼び掛けていた。恐る恐る振り返ると、頭から血を流しながら傷口を抑えている天狗が立っていた。面の一部は壊れているが、未だ素顔は分からない。だが今はそんなことどうでもいい。とにかく逃げなくては。そう思っているのに何故か、俺の足が動こうとしない。それに俺は呼吸をすることさえもその時忘れていた。


「よくも我を傷つけてくれたな……。それに何故その小娘が生きている……さては汝の仕業か?」

「あ、あぁそうだが? 俺がお前を倒してこいつを助けた。俺は、みっともなくないぞ!」


 俺は緊張していることを悟られないよう強気の態度を取ったが、思うように喋れず声がどうしても震えてしまう。


「そうか。それはご丁寧に教えてくれて感謝する。では……汝には(お礼)が必要だなぁ!」


 お面越しでも分かるその形相は俺に殺意を向けている。葉団扇を大きく振り被った天狗は喉が枯れるような大声で叫びながら振り下ろした。


『風神雷神!!!』


 天狗が葉団扇を扇いだ瞬間、電気を纏った暴風が俺とアリスを襲う。俺はただ重症のアリスを庇うのに精一杯だった。全身に電気が走り、背中に暴風を浴びる。意識が遠退いていきそうなのを懸命に堪える。しかし持たなかった。俺が地面に倒れ伏せそうな時、一瞬見えた黒い人影。聞こえた銃声と渋い声。僅かに聞こえたその声は俺を安心させてくれた。


「……待たせたね。菲針も無事だよ」


 お疲れ望兎くん。二人を守ってくれてありがとう。ここからは任せな。


「行けるか、菲針」

「勿論だ。望兎と志門の手当のおかげでまだ動ける」

「では手短に済ませるぞ」

「了解した……!」


 菲針と志門はそれぞれ飴とシガレット型の砂糖菓子を咥えて二手に別れる。菲針は前進して距離を縮める。


「また汝か! 今度こそ仕留めてやる。火災旋風!」

「それはこちらの台詞だ!」


 菲針は炎の渦へ飛び込むと、近距離でショットガンを撃ち、自分が通れる道を一瞬作り出した。着地と同時にリロードした菲針は止まることなく走り続ける。焦った様子の天狗は急いで葉団扇を横に扇ぐ。


『天狗風!!』


 そんな天狗の行動を冷静に見極め、すぐさま体勢を低くした菲針は滑り込み、天狗の足元を目掛けて少し間を置いてショットガンを撃った。当然それに気づいた天狗は空中へ飛び上がる。それこそが狙いだった。


「ようこそ。テリトリーへ」


 遠くのビルの屋上から放たれたスナイパーライフルの弾は空中の天狗を目掛けて一直線に飛んでくる。全てに気づいた天狗は即座に上へ葉団扇を扇ぎ、銃弾の弾道を変える。しかしその勢いでバランスを崩した天狗はそのまま地面へと落下する。そう。菲針が待ち受けている地面へ。

 落ちてきた天狗を得意の総合格闘術の投げ技で拘束し、顔面の目の前でショットガンを構えて観念させた菲針は一言放った。


「チェックメイトだ」


 観念したのか体の力を抜いた天狗は仰向けに寝そべる。天狗は天を仰ぎ、深い呼吸をしながらボソッと声を漏らした。


「我らの遊徒ピア(ユートピア)……」


 遊徒ピア。それはあの鳥使いも言っていた。つまりコイツらは仲間なのか? そしてその遊徒ピアとはなんなのか。

 菲針はちょうど落ちていたロープで天狗を縛り、いろいろ聞き出そうとしたが、その口が開くことはなかった。




 俺が目を覚ますと、そこは病院だった。今現在動いている数少ない街の小さな病院のベッドに俺は寝ている。


「アリスは!」


 勢い良く起き上がった瞬間、身体が痛む。気づくと俺の横には志門さんが座っていた。


「望兎くん、今は安静にしときな。アリスちゃんの方は菲針が見てる」

「生きてますよね!?」

「あぁ。君の起点のおかげで一命を取り留めた。本当に君の頭の回転は素晴らしいよ」

「よかったぁ……」


 なんだかどっと疲れが伸し掛かってきた。いや、これは安堵なのだろうか。しかしあまり悪い物ではないということはわかる。志門さんは俺が起きたことを確認すると荷支度を始めた。


「望兎くんが起きたことを医者に伝えに行くよ。それで俺はここで一旦お別れかな」

「えなんでですか? 一緒に行動した方が」

「群鳥の逃亡者が二人もいると返って見つかりやすい。それに俺にもやりたいことはあるんだよ」

「なんですか?」

「内緒。後、一人でも君たちと同じく遊徒の破壊をして回ろうと思う。それに望兎くんとアリスちゃんが居るなら菲針のことも安心だ。戦闘面も生活面も。じゃ、菲針のことを頼んだよ? 優秀な助手くん」

「……分かりました。またいつか会えますよね?」

「会えるでしょ。この世界は思ってるより狭い」

「そうですね」


 そう言って志門さんは病室を出ていった。数分後、ちゃんと志門さんが伝えてくれたのか医者たちが俺の元に駆けつけて諸々検査をした結果、無事に退院することが出来た。その後すぐにアリスの病室へと早々とした足で向かう。扉を開けるとそこには横になって目を閉じているアリスと、その横で座っている菲針さんが居た。


「菲針さん、アリスの容態って」

「あぁ望兎。志門に聞いたが退院おめでとう。アリスは未だ昏睡状態のままだ」

「そうですか……」

「あの天狗は警察が連れて行った。しかしアイツ最後に遊徒ピアと言ったんだ」

「それってどこかで……」

「鳥使いだ」

「つまり……?」

「確定でグルだな。そして私の見立てが正しければ、ほぼ確実に群鳥が関係している。恐らくだが、あの鳥使いは飛塚(・・)と名乗っていた。そしてあの風を操る天狗。間違いなく群鳥の天多(あまた)家の者と断定していいだろう」


 ——病院の入り口にて。

 病院から出た志門はポケットから箱を取り出し、一本のシガレット型の砂糖菓子を抜くと、口に咥える。これから一人で遊徒を破壊して回るには緻密な計画が必要だ。まずはあのバー「Noir(ノワール)」に一度帰って——。


「ちょっと待ちなよそこの君」

「なんだ?」

「ちょっくら付き合ってくれよ」


 不適な笑みを浮かべる不審な男はそう言いながら近づいてくる。警戒して戦闘態勢を取ろうとした瞬間、日が照るアスファルトの上に何者かの血液が飛び散った。

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