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099 月が好きな恋人は望遠鏡の先に何を見るのか?

「月が綺麗ですね。

………ええ、毎日見ていても、まったく飽きません。

知っていますか?

月は見るたびに姿形を変えるんです。

昨日、今日、明日。

いつ見ても月はその姿を変えるんです。

…それは、あなたが月をよく見ていないからです。

ほら、望遠鏡からのぞいてみてください。

………あなたが見ているその月は、今この瞬間の、あなたしか見ることができない。

交代して私が望遠鏡をのぞいても、それはあなたが見ている月とは違う月の形をしているんです。

毎日毎日刻一刻姿を変える月。

それが、私が毎日月を見ている理由です。

………別に、私達が付き合ってるからと言って、興味がなければ付き合わなくてもいいですよ。

私が好きでやっていることですので。

…そうですか。

あなたも物好きですね。

では、交代です。

今度は私に見させてください。

………

ところで、最近シャンプーを変えましたか?

…いえ、髪の匂いがいつもとは違うような気がしたもので。

………そうですか。

それと、今日は夕ご飯にスパゲッティでも食べたんですか?

………口の端に、少しソースが。

…いえいえ、たまたま気付いただけです。

あなたも、いつもとは違う顔を私に見せてくれるので」




「………竹取物語の昔話は知っていますか?

…はい、竹の中で生まれたかぐや姫。

かぐや姫は月へ帰る前、結婚したいと望む男性にこの世に存在しないものをねだるんです。

世に存在しないそれを持ってこれたら、結婚するからと言って。

この話は、かぐや姫が無理難題を言い渡すワガママ娘のように聞こえますが、しかしどうでしょう?

この世に存在しないものを持ってくるほど、自分に好意を持っているとしたら、それが本物の愛だと、そう思ったのではないでしょうか。

自分は月へと帰る身。

だからこそ、それほどの愛がなければ結婚しないと、男性達に告げたんじゃないんでしょうか。

この世には存在しない。けれど、もしそれを持ってこれたら、その人と永遠の愛を誓える。

そう思うと、かぐや姫の想いもひどくロマンチックに思えてきませんか?

…こうして私が見ている月の上で、かぐや姫は、今か今かとその時の男性達を待っているのかもしれません。

自分が望んだ贈り物を手にした彼らがやってくるのを。

………私は、月の上に立つあなたをここから見上げてみたいです。

月の上から手を振る姿を、まさにここから。

………冗談です。

…しかし、そんな途方もないことができたのなら、その想いを、その愛を、信じることができるのかもしれません。

かぐや姫のように」




「………月の上では兎を餅をついている。

これは与太話をして現代では知れ渡っています。

そんなことはあり得ないと、否定する人も大勢いるでしょう。

…しかし、本当に兎が餅をついていないと、証明することはできないんです。

今、私を月を見上げていますが、しかし、見ているのは表面だけで、その裏側を見ることはできません。

その裏側に何がいるか、何が起こっているか、私達から知る由がない。

もしかしたらその裏側で、兎が餅をついているかもしれない。

杵と臼を使って、ぺったんぺったん、十五夜のお餅を作っている。

…ないと断定するよりも、そういう妄想をする方が、面白いとは思いませんか?

………そうですか、面白くありませんか。

しかし、誰も知らない裏側というのは、案外すぐ近くにあるのかもしれません。

例えば、私が、あなたに狂おしいほどの愛情を抱いている、とかね。

………さて、どうでしょうね。

あなたの両手両足を拘束して管理したい。

常にあなたの後ろに付いていってあなたの全てを知りたい。

周囲にはびこる邪魔者たちを根こそぎ排除したい。

あなたの些細な行動に嫉妬して罪を背負わせたい。

あなたが触れたものすべてに愛着を感じたい。

言葉巧みに操ってあなたの思想を操りたい。

………と、そんなことを考えているかどうか、表から見ていても、その裏側は誰にもわからないんです。

誰にもそれは、わからない。

………月が綺麗ですね。

今宵はとても、月が綺麗です」



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