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090 人生で何もかも奪い続けてきた罪人の彼女は、隣の牢屋の彼からも奪い取る

「(スタスタスタスタ)

(バタン)

(ガチャリ)

………やあ、お隣さん。初めまして。

…誰かって、おいおい。さっき入ってくる時見ただろう?

私はお前の隣の牢屋に入っている者だ。

これまたずいぶん貧相な輩が入ってきたものだが、お前は何の罪でここに来たんだ?

………ふうん。友人を殺した罪でか。

喧嘩か何かしたのか?

それとも金か?女か?裏切りか?

…ほお。冤罪か。お前はやってないと。

だが、ここに入れられた以上、お前の罪はお前のものでしかない。

………看守にいくら大声で訴えようとも無意味さ。

この国の法は腐りきっている。

平等なんて法はこの世にはない。

裏切りや賄賂、恫喝の中において適当に選んだけの人間を「罪人」として牢屋にぶち込む。

世間の奴らにそれで「正義」をアピールし、懐を温めることしかあいつらは考えてないさ。

ま、運が悪かったと思って諦めるんだな。

………私か?

クック。珍しいことにこの私は冤罪なんかじゃない。

気に入らないと思った奴を10、20、30………100人は殺したか。

あいつらにしては真面目に仕事をした結果、私はここにいる。

ま、野放しにしておけば自分たちの利益が損なわれるからっていうのが本音だろうがな。

クックック。

…そうは見えない?

お前は何もわかってないな。

見かけと中身が違うなんてことはよくあることさ。

…これからしばらくよろしくな。

お隣さん」




「………ほう。お前はあの国の出身か。

この国からはずいぶんと離れた都市じゃないか。

あの国はここよりずっとマシな国で、平民が飢えることもないと聞いたことがあるがな。

………故郷を離れたくなったか。

それで牢にぶち込まれたんじゃ、たまったものじゃないだろうな。

…そうそう、あの国と言えば海で獲れる………

(ガシャン)

…なんだ、看守?

今はこいつと喋ってるんだよ。

お前、また私に殴られたいのか?

半殺しじゃ済まさ………

(スタスタスタスタ)

…っち、行っちまったか。

ったく、あの看守。いつもちょうどいいタイミングで邪魔してきやがって。

………ん、楯突かない方がいいだと?

悪い悪い。

私と喋ってたら、しゃべり相手のお前もどんな仕打ちが来るかわかったもんじゃないよな。

………は?私の心配?

クックックック。

アーッハッハッハッハッハッハッ!

………いやすまないすまない。

お前があまりにも素っ頓狂なこと言うものだからな。

つい笑ってしまった。

…そうかそうか、私の心配か。

私を心配したのは人生がお前が初めてだよ。

………親?

親なんて私には存在しないさ。

私はスラム出身でな。

生まれてきた時点で路地裏に捨てられていた。

小さい私が生きていくには選択肢は2つだった。

奪うか、身を売るか、その2つだ。

選択肢が与えられるだけまだマシだがな。

近くにいた同じような年の奴はほとんどが選択肢さえ与えられず、奴隷か死になる運命だった。

で、私は前者の選択肢を選んだ。

奪って奪って、奪い続けることで生きながらえてきた。

私にとって、他人は奪うための存在でしかない。

………こんな状態では、お前からは何も奪えないがな。

こういう私だから、心配するだけ無駄なことさ。

いくら心配をしたって、いつか、お前の何かを奪うかもしれない。

とてつもなく、大事なものをな」




「(スタスタスタスタ)

(ガチャッ)

………看守?隣の牢屋か。

………

………おいおいどうしたんだ?

看守と一緒に出てきて。しかも手錠がないじゃないか。

これまたどういう…

………ほう、出られることになったのか。

それはそれは、おめでとう。

お前の冤罪が晴れて、よかったじゃないか。

………どうした?やけに不思議そうな顔して。

もっと喜んだらいいんじゃないのか?こういう時は。

まあ、もうこれで関わることもなくなるだろう。

外に出ても元気でな。お隣さん」




「………

………

………誰だ?

貴様か、看守。一体何の用だ?

………面会?私に?

一体誰が…

(スタスタスタ)

………お前だったか。お隣さん。

いや、もうお隣さんじゃないか。

しかし、どうしてお前さんがまたこんなところにいるんだ。

しかも面会って。

看守に金握らせてまで、わざわざ豚箱に来るなんて、さ。

お前は冤罪だったんだろう?

そんな奴が、私に会いに来るなんて…

………ああ、そうか。聞いたのか。

まあそりゃあ、元々はお前の罪になるはずだったものな。

その罪が、お前じゃなくて私がしでかしたこととなれば、恨み言の一つでも言いたくなるというものか。

…そうだよ。お前の友人を殺したのは、この私さ。

通りを歩いていたらむかつく顔がいたものでな。

そこでそいつを………

………時期が合わない?

そうだな。確かにお前の友人が殺されたのは私がここに入ってからだ。

だが前にも言ったろう?この国の法は腐りきってると。

適当に金を握らせてやれば、少し外の空気を吸うくらいわけないのさ。

今まさに、お前がここにやってきた方法と同じようにな。

………罪をかぶってる?私が?

クックックック。

だとしたらどうするというんだ、お前は?

たとえお前の推測通り、お前の罪を私がかぶってるとしたら、お前はやっぱり冤罪じゃなかったってことになる。

また私のお隣さんになりたいというのか?

………

…まあそうだろう。

誰が好きこんでこんなところに入るやつがいるかという話だ。

それに、私はすでに大勢の人間を殺している。

一人や二人その罪が増えたところで、結果は何も変わらない。

………ああ、そうそう。来週にも私の死刑が執行されるらしい。

色々と長年やってきた私だが、ついに幕を閉じる時が来たというわけだ。

私の死刑は衆人の中で行われるんだとさ。

お前の冤罪の原因たる奴の死刑、せいぜい見に来るがいいさ。

………さて、もうお前を話すことはない。

最後の時間くらい、精々ゆっくりさせてもらうよ。

じゃあな。

(スタスタスタスタ)

………

………

………

(スタスタスタスタ)

………なんだ、看守?

また誰かの面会か?

それにしては一人のようだが。

………別に、ただの気まぐれさ。お隣さんのよしみという奴かな。

それに、あいつの罪が本当に私であるかどうかななんて、お前らには関係ないことだろう?

実際に金を握って利益を得たお前にだけは言われたくないな。

…まあしいて言うなら、あいつの心を奪いたかった、なのかもしれない。

これまで奪い続けてきた私から、まんまと奪い取っていったあいつ。

最後くらい、奪い返してやろうと、な。

…死刑の日、もしあいつが現れたのなら。

あいつに飛び切りの笑顔を見せて、死んでいってやろう。

私の心を奪ったあいつから、その心を奪うために、な」

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