088 本命チョコを渡した彼女は、ホワイトデーにお返しを貰えないと彼に家に突撃して…
「(今日は3月14日。
今日、お返しくれるかな?
どきどき、わくわく)
<ガラッ>
(あ、来た。
私の方に………って、あれ?
隣の席の子に、何か渡してる。
………うん。そうだよね。
こんな人前で渡すつもりじゃないよね。
なんたって、私があげたのは『本命』チョコだもん)」
「(…ふう、すっきりした。
早く教室戻らなくっちゃ。次の授業始まっちゃう)
<スタスタスタスタ>
(あ、彼だ。
え、こんなところで?
そっかー、ちょうどいま私一人だし、タイミングとしては………ん?)
<スタスタスタスタ>
(あれ、通り過ぎちゃった。
そのまま歩いて………
先生、だ。
先生に、お返ししてる。
ま、まあ仕方ないよね。
たぶん、ここに来たのは偶然だし。
私のお返し、持ってないのは当たり前だよね)」
「<キーンコーンカーンコーン>
(…放課後になっちゃった。
まだ、彼からお返しは貰ってない………
で、でも、放課後に渡してくれるつもりなんだよね。
昼間は人いっぱいいるし、きっと恥ずかしかったんだ、彼は。
だけど、放課後になって私と彼しかいない今のタイミングなら、きっと………)
<ガラッ>
(あれ、誰か来た。
もう、なんで私と彼の時間を邪魔………って、あれ?
そういえばあの子、彼の部活の後輩ちゃんだ。
彼が後輩ちゃんを呼び出した感じっぽい。
一体何の用で………って。
後輩ちゃんに、お返し渡してる。
後輩ちゃん、嬉しそう…
………って、え?
二人で、教室出てっちゃった………)」
「<ピンポーン>
<ガチャッ>
…あ、えっと。こんばんは。
ねえ君。今日何の日か知ってる?
………そう、ホワイトデー。バレンタインのお返しをする日だよね。
もう、結構遅い時間だけど、どうして君、他の人にばかりお返ししちゃうの?
…わかる。わかるよ。
君って優しいから。『義理』とはいえ、一応相手の顔を立ててあげるのはわかる。うんうん。
でも、受け取るのはともかくとして、ホワイトデーにお返しするのは違うんじゃないかな?
チョコを貰うのは相手側の一方的な都合だけど、お返しするのは完全に君の意思だよね?
君の意思で、『義理』の相手にホワイトデーにお返しするのは、ちょっと違うんじゃないかなって思うんだけど…
―――本当なら、私がもらうはずなのに。
君の優しいところはとっても素敵だけど、そこまで優しいっていうのは、正直どうかなって思う。
そういう優しさをふりまいちゃうと、勘違いして君の狙ってくるかもしれないじゃん。
だから、ね?
<ドサッ>
君が優しさでみんなにあげてたお返しのクッキー、ぜーんぶ回収してきてあげたから。
………どうやってって…
まあ、最初はみんなにお願いして。
で、ダメだったら、それは………ね?そーいうことだよ。
…でも、いいよね?
もともとは私にだけ食べる権利があるお返しのクッキーなんだから、これを受け取っていいのは私だけなの。
本来の持ち主に返してもらうのは当然の権利だよ。
………でもでも、私悲しいな。
他のみんなには『義理』とはいえお返ししてるのに、『本命』の私にはいつまでたってもお返ししてくれないんだもん。
………チョコをもらってない?
いやいや、もらってないってことはないよ?
ちゃーんと君は、私のチョコを食べてます。
…気付かなかった?
君がバレンタインにもらったチョコレート、包みは違うけど中身は全部同じだったことに。
………本当はね。私もきちんと君に渡したかったんだよ?
でもちょっとだけ、ちょっとだけ面と向かって渡すのは恥ずかしかくて、時間だけが経っていって………
その間に君は『義理』チョコをたくさんもらってたよね?
相手の顔を立てる君のは優しさはとっても好きだけど、でもそれは受け取るまでの話。
実際にただの『義理』チョコを食べるなんてもってのほか。
だからね。君がもらったチョコ、全部私が入れ替えておいたんだ。
包みとかは受け取ったものと同じような感じにしといたけど、中は全部同じ、私の手作りチョコだったんだよ。
…美味しかったよね?
だからこうしてお返しのクッキー、用意してくれたんだよね?
………あ、せっかくだからこのクッキー、今食べてもいいかな?
せっかく君が用意してくれたんだもん。
君の前で食べてみたい。
<もぐもぐもぐもぐ>
…うーん。とっても美味しいっ!
ありがとう。『本命』チョコを渡した私に、こんなにおいしいクッキー用意してくれて。
………バレンタインに私が『本命』のチョコを渡して。
それで君は、『本命』の私にクッキーを用意してくれた。
君が私の『本命』チョコを食べてくれて。
私は君の『本命』のお返しを食べた。
これってもう、私の告白を受け取ってくれたってことも当然だよね?
チョコとクッキーていうお互いの愛を食べ合った仲なんだから、愛し合う恋人ってことだよね?
ううん。もう夫婦っていうのと同じことだよ、これは。
君と付き合えて結婚できるなんて、なんて幸せなんだろう。
それじゃあ早く式の日取りを…
<ガチャッ、バタン>
って、えっ。おーい。
なんでドア閉めちゃうの―?
早く日取り決めようよー。
………
もう、恥ずかしがちゃって…かわいい彼氏君♪」




