087 演技の道を進む彼女の練習相手になっていたらいつの間にか夫婦に…
「…ずっと前から、あなたのことが好きでした。
付き合ってください。
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好きです。あたしと付き合ってください。
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あたしさー、あんたのこと好きなんだよねー。
とりま、お試しってことで、ちょっと付き合ってみない?
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お前を愛している。
あたしのものになりな。
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………うーん、なんかどれもしっくりこないなー。
ねえねえ、君はどの演技が良かった?
…え?さっきも言ったじゃん。
今度の文化祭でやる劇の練習だって。
私、主演に選ばれちゃったからさ、それの練習付き合って欲しいって。
恋愛を軸にしたストーリーなんだけど、告白するシーンのセリフがいまいちしっくりこなくて。
それで、君に感想聞いてるの。
体育館のステージで大勢の人の前で演技するから、絶対に失敗したくないの。
………ああ。台本は部長が書いてるんだけどさ、時間がないから大雑把なストーリーだけ決めて、後はアドリブでやれってさ。
うちの部長、本当に適当だからさ、いつものことだけどまいっちゃうよ。
………で、どのセリフが一番良かった?
………
…わかんなかったの?
もう、じゃあもう一回やるから、今度は君が彼氏の役になりきってよ。
その方が臨場感出るし。
こっちが告白して、OKするシーンだからね。
………コホン。
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あなたことが大好きです。
もしよければ、あたしと付き合ってください。
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…ん、OKね。
やっぱり清純っぽい感じの方が感情出しやすいかな…
………何?呆けた顔しちゃって。
…あ、なになにー?
そんなに告白の演技がマジになってた?
そっかそっかー。君を練習相手に選んでよかったよ。
…じゃあじゃあ、別のシーンの練習にも付き合ってよ。
今度のシーンはね、二人が付き合った後に、親友達に報告に行くっていうやつ。
私の友達、多分まだ教室に残ってると思うし、早く行こ?
………うん?そうだよ。私の友達に、ね。
だって他の部のメンバーはそれぞれ稽古中だろうし、邪魔したら悪いって。
それに、本当に私の友達に報告しないと、練習にならないでしょ?
じゃ、レッツラゴー!」
「………二人で遊園地なんて、初めてだね。
今日のデート、とっても楽しみにしてたんだ。
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キャー!
あ、あそこにお化けが………
こ、こっちには生首が…
キャー!
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ほら見て見て!私たちの街が一望できるよ!
てっぺんまで登ったら、もっともっと遠くまで見られるのかな…?
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………ん、よしよし。
お化け屋敷と、ジェットコースター、観覧車にも行ったし、あと行ってないのは…
………どうしたの?疲れた?
…じゃあそうだねー。そろそろお昼にしよっか。
二人でお昼食べるシーンもちゃんとやっておきたいし。
あ、あそこに屋台ある!
食べ物と飲み物、適当に買ってるねー。
………
………
………
お待たせっと。
超でかいホットドックあったから、二人でシェアして食べよ?
飲み物もおっきいやつにストロー2つ貰ってきたから、半分こね。
………ん?そうだよ。
今日は遊園地デートの練習。
今入ってる劇団でやる公演なんだけど、私も端役で出ることになってね。
遊園地に来たカップルの役で、主人公の悪役にやられちゃう役。
そんなにシーン自体は長くないんだけど、役もらえたからにはちゃんとしようって思ってて。
…あ、そうそう。
その練習にね、すっごいプロデューサーも時々顔見せに来てるの。
ドームやるような舞台とか、製作費何億円とかかける映画とかやってるプロデューサの人なんだよね。
その人に少しでも見てもらえらば、私もチャンスがあるかな?
………えー、そこはあるって言ってよー。
一応、今は私の彼氏役なんだからさー。
…んー?
あー、まあ、私のシーンはそんなに多くないんだけどね。
でも、遊園地にデートに来たカップルの役だから、こうしてデートの練習するのは役に立つはずでしょ。
ほら、よく言うじゃん?
練習は本番のように、本番は練習のようにやれってさ。
練習だからこそ本番っぽいものが必要なんだよ。
こういうこと頼めるの、君しかいないからさ。
………そうだよ?君にしか頼めないの。
君も光栄に思ってよね。
…あっ。そうそう。
私の唯一の台本のセリフがさ、自分のお父さんに彼を紹介して、「お父さんも悪く思ってないはずだよ」っていうやつなんだ。
だから今度、私と一緒に実家の方来てよ。お父さんに紹介するから。
それも演技の練習ってことで、ね?
………大丈夫大丈夫。私のお父さん、結構フランクな人だし、君のことも悪く思わないはずだから。
…あー、でも、前に彼氏いるのか聞かれた時、「自分を超えられるような奴じゃなきゃダメだ」とか言ってたような………
…ううん。なんでもないなんでもない。
とにかく、その時はよろしくね。
私の彼氏役として、さ」
「………あら、おかえりなさい。あなた。
お風呂にしますか?ご飯にしますか?
そ・れ・と・も………?
うふふ。冗談です。すぐごはんにしますね。
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最近のお仕事はどうですか?
毎日毎日残業で、とても頑張っていますが、私としては、少し心配です。
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家にいる時くらい、ゆっくり休養なさってください。
おやすみなさい、あなた。
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………むぅ。難しい…
難しいよー。
彼を愛する奥さんの役。
…好き…愛してる………
どう表現したらいいんじゃー!
………あ、ごめんごめん。
君がいるのを忘れてたわ。
…ありがと。やっぱりお腹減った時は、ご飯に限るね。
(パクパクムシャムシャ)
ほう、ほれへね。
…はは、ほへんほへん。
………ゴクン。
それでね。撮影もクライマックスに近づいてきたんだけど、監督も良いの撮りたいのか、何回もリテイクしてくるんだよ。
まあ、私が主人公のドラマだし、それにこだわるっていうのは別にいいんだけど、リテイクしても何を変えればいいのかわかんないんだよね。
監督もリテイク出すには出すけど、どこが悪いかは全然言葉にしてくれないし。本当、やんなっちゃう。
まあでも、もう少しで撮影も終わりだし。
最後まで突っ走るだけだけどね。
………君には感謝してるよ。
こういう私の練習に、全部付き合ってくれてさ。
私達昔からの腐れ縁だけど、なんだかんだ言って、長いこと付き合ってるの、君だけなんだよね。
君も、私くらいしか友達いないでしょ?
………またまたー、だったらスマホのアドレス帳見せてよ。10件もないんじゃないの?
…やっぱり。
………君相手に練習すると、実感が沸くっていうか、色々と想像しやすいんだよね。
告白するにはどんな気持ちか。
デートしたらどんな風にはしゃぐのか。
夫婦生活を送ったらどんな生活になるのか。
君相手だと、本当に想像がしやすいんだ。
君相手に練習してきたからこそ、連ドラの主演張るくらいには成長できたと思ってる。
本当に、ありがとうね。
そして、これからもよろしく。
………あっ、そうそう。
こないだ役所に婚姻届け出しに行く練習したじゃん。
あれ、芯がこもってったって監督も喜んでくれんだよね。
練習で本当に窓口に婚姻届け出したから、その時の気持ち思い出しながらやってみたら、大成功。
結婚式のシーンも、本当に良かったって。
やっぱり実際にやってみるとそうでないのとは、えらい違いだよね。
練習の方の結婚式では、私のお父さんは号泣してたけど、ドラマの方のお父さん役は全然泣けてなくて、何回もリテイクしてたし。
いっそ、あたしのお父さんが出ればいいじゃんって思ったくらいだもん。
こうして一緒に暮らす新婚生活も、君と住む練習あってこそ、ドラマに活きるってもんだよね。
撮影もクライマックス近いけど、夫婦生活の練習もまだまだやるつもりだからね。
ぜーんぶちゃーんと、付き合ってね。
こういうこと、君にしか頼めないからさ」