074 【YS】彼を愛する生徒会は修学旅行の思い出をかく語り合う
「それでは、生徒会会議を始めます。
今日の議題は先日の修学旅行の件についてです。
…まずはみんな、修学旅行お疲れ様。
色々と大変だったわね」
「………ええ、色々あるとは予測していましたが、予想以上でしたね」
「まだ、身体重たい………」
「そうそう、お土産いくつか持ってきたの。
良かったら食べながら会議しましょうか」
「あ、これ………」
「………有名店のスイーツじゃないですか。しかも何時間も並ばないと買えないという…
いつ買う時間があったんですか…」
「時間配分は旅行の基本よ。
いかにスキマ時間を使うかで、どのくらい楽しめるかが変わってくるのだから。
…庶務も良かったらどう?」
「………………………ん」
「副会長は?
…ん。どうかした、副会長?」
「いや、なんつうかさあ…」
「あら、副会長甘いもの嫌いだったかしら?
それにしては、この間どら焼きバクバク食べていた気がするけど」
「そーじゃなくて。
何でお前ら、なんで普通に修学旅行のこと喋ってんだって話だよ」
「あらあら、修学旅行に行った後に、修学旅行の話をするのがそんなにおかしいかしら?」
「いやいや、だってお前ら学年ちげーじゃん。会計はともかく、なんで他の3人は学年ちげーのに付いてきてたんだって話だっつーの」
「?」
「………?」
「…………………………」
「なんだよそろいもそろって、『何言ってんだ』って言いたげな顔しやがって」
「………この方達にとやかく言うも今更ではありませんか。副会長」
「いや、そりゃそうだけどよー…
行きのバスなんかさ、普通に書記がバスん中座ってた時はマジビビったわ。
幽霊か背後霊かって思ったぜ、一瞬」
「確かに書記は、そういうはかなげな雰囲気があるものね」
「しかもそれでいて、先公とか同じクラスの奴ら何の疑問も持たねーし、こっちの方がおかしいかと錯覚しちまったよ」
「………うぅ、おかしくなんか、ないもん」
「はいはい、書記をいじめるのはその辺にしなさんな。
でもそれなら、庶務の方がもっと不思議なんじゃない?」
「いやまあ、庶務はなあ。もうどこいても不思議じゃない感じだからさ」
「………確かに、バスの上や車体の下に張り付いていたって言われても、『庶務ならば…』ともう驚きませんね」
「…………………ん」
「つか一番おかしいの会長だろ。
生徒会長のくせして堂々と学校サボりかよ。
いっつもいっつも人のこととやかく言うくせに」
「あら?私はきちんとした手続きを取っているわよ?
来年度における、修学旅行先に下見だと言ってね」
「いやいや、そんなん生徒会長がする意味が…」
「………だから副会長、この会長に言うのは今更ですって」
「まあ、そりゃそうか」
「そもそも、あなたにそんなこと言われる筋合いはないのだと思うのだけれど」
「はあ?なんでだよ会長。
修学旅行中はオレだって結構おとなしく………」
「現地のヤンキーとやりあってたんでしょ?
情報は入っているわよ」
「まじかよ。そんなの誰が………書記、もしかしてお前か?」
「…ひぃ。そ、そうです………」
「………書記を責めても仕方ないでしょう」
「そうそう。弱い者いじめはやめた方がいいわよ。
…まあ、事情は伝え聞いているわよ。
彼につっかかろうとしたヤンキーを撃退したんでしょ?
別にそれでとやかく言う気にはないわよ」
「…ふん。別に、オレは向こうの態度が気に入らなかっただけだっつーの」
「………それで木刀でぼこぼこにしたとか、明らかに過剰防衛ですけどね。
………ああもしかして、副会長が今持ってる木刀、その時の木刀ですか。剣先が微妙に赤ずんでいますけど」
「本当だ。
ダメじゃない副会長、証拠はちゃんと処分しておかないと」
「証拠とかいうなよ。まじもんの犯罪者みてーじゃねーか」
「………犯罪者じゃなくてヤンキーですけどね」
「いやだから、オレはヤンキーじゃねーっての」
「まあ、そういわけだから副会長はいいとして、会計も今回は随分とやんちゃしたわよね」
「………何のことでしょうか?」
「あらあら、とぼけるの?
夜、ホテルの貸切風呂で彼と二人っきりになっていたじゃない?
それも、鍵をかけた密室の中で」
「はあ?なんだよそれ。抜け駆けかよ会計」
「………違いますよ。
あれはたまたま。あくまでも偶然の産物です」
「鍵や従業員に色々小細工しておいて、偶然の産物とはおかしな話ね」
「………はあ。書記はうまくまいたと思ったんですけどね」
「ていうか会計。二人っきりになったらなったで、部屋の中に閉じ込められていたんでしょう?
庶務がいなかったどうなっていたことやら…」
「…………………ん」
「………別にかまいませんよ。
彼と密室空間にいる以上、それ以外のものは必要ありませんから。
彼と二人だけの世界。それ以上の世界がどこにあるというんですか?」
「うわー、やだやだ。こういう頭の中メルヘンなやつ。飯とかどうすんだっつーの」
「…その状況で食事の心配とか、あなたは動物みたいね、副会長」
「ああ?人間だって動物の一種でしょうが、会長」
「間違えたわ。野獣みたいね、副会長は」
「はあ?今なんつったコラ!」
「…でも、今回一番頑張ってたの、会長だと、思う………」
「あー、まー、そーだなー。会長に当たるのも筋違いって話か」
「そうそう。もっと私を敬っていいわよ。おサルさん」
「ああ!?おいおい。今のは聞き捨てなんねーぞ!」
「………まあまあ、副会長の知能がサル並だという話はいったん置いておくとして」
「どさくさに紛れて会計も何言ってんだ」
「………確かに、会長には感謝してもしきれませんね。
今回も、いろいろご暗躍しなさったようで」
「まあな。現地であいつにナンパした女かっぱらったり、班のメンバー毒盛ってフラグ立てないようにしたり。極めつけはあれだよな」
「…う、うん。彼の部屋に夜這いしてこようとした女子、ぎったんぎったんに倒してた」
「いや、それは失礼ね。皆さんきちんとお話ししたうえで丁重にお帰り頂いただけよ。
別にやましいことなんて何もしてないわ。毒だって、別に劇薬を混ぜたわけじゃないんだし」
「そういうギリギリアウトのことすんのに躊躇ねーってのが怖え―っての。
一人とぼとぼ戻ってきたやつ見たけど、そいつの顔真っ青だったぜ。
一体どんな話したらああなるんだっつーの」
「………会長だけは敵に回したくないですね」
「…ど、同意………」
「…………………ん」
「はいはい。雑談はこのくらいにしておきましょう。すでに終わったことを語り合っていても仕方ないわ。
ここから先は未来のことを考えていきましょう。
…それで、書記。修学旅行が終わった今、彼にアプローチしてくる女狐はどのくらいいるのかしら?」
「…え、えと。メールでラブレター的なの、送ってきたのが、8人で………旅行後に急接近してきてる人が、20人、くらい」
「…はあ。修学旅行中、色々フラグは折ってきたつもりだけど、いったいどこでその泥棒猫達と接触したのかしら」
「歩くフラグ男みてーなもんだから、あいつは」
「とにかく、そいつらは早急に対処する必要があるわ………
そうよね、みんな?」
「だな」
「………その通りですね」
「…う、うん………」
「…………………ん」
「…それでは、私達が愛する彼の、彼に対する、彼のための生徒会を始めましょう」