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073 かつての家庭教師の教え子は担任のボクに自分だけを見てほしくて…

「………これからの学生生活に希望を胸に抱いております。

そのためにも先生方、先輩方のご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします。

―――新入生代表挨拶。

(パチパチパチパチ)

………ふう。

…あ、先生。どうでしたか、私の挨拶は?

………いえいえ、終始緊張しっぱなしでした。

今でも心臓がバクバク言っていますよ。

…いいえ、それこそ先生のおかげです。

家庭教師時代、つきっきりで私の勉強を見てくれたおかげで、今の成績があるんですから。

しかし、こんな偶然というのもあるものなんですね。

昔の家庭教師の先生が、進学した学校で担任になるなんて。

私や先生の地元にある学校とはいえ、こんな偶然、そうそうあるものではありませんよ。

私としては、こうして先生と再会できたのは感激の極みですが。

………そんな昔のこと。

いえ、最後の日に涙別れしたのは、なにも先生と会えなくなったのが寂しくなったとか、そういうわけでは………

まあとにかく、この学校でもよろしくお願いしますね、先生」




「…あ、先生、今ちょっと………

…え、ああ。先生、美術部の顧問なんですね。

だからそんな画材を抱えてるんですか。

すいません、急いでいるところを。

…いえ、こちらは大した用事があったというわけではありませんので。

………美術部ですか?

…いいえ、私は絵に興味は………

………ええ、ええ。他を当たってください。

では、失礼します。

………

………

………

…昔はもっと、先生と話ができたのに」




「…あの、先生、この間のテストの件で………

………ええ、ええ。

この点数がとれたのも、先生の教えの賜物です。

それで、何問か間違えた所がありまして………

(………)

あなたは同じクラスの…

ああ、先生に用事ですか。

(………)

(………)

(………)

…あの、先生、それでですね………

えっ?

そう、ですか………

…いえ、その方の赤点の補習なら、仕方ありませんよね。

いえいえ。

私の方は、自力で何とかしますので。

…はい、はい。それでは。

………

………

………

…どうして。

私だけの、先生なのに」




「(コンコン)

………はい、どちら様でしょうか。

あ、その声…

(ガチャ)

…やはり先生ですか。

会いに来てくれたんですね。ありがとうございます。

部屋の中へどうぞ。

(バタン)

………調子ですか?

相も変わらずですよ。

日中は陽がな、この部屋にこもって過ごしています。

何の刺激もないので、変わりようがありませんよ。

…学校ですか?

いいえ、学校に行く気はありません。

………

それは、先生が私のことを見てくれないから。

………

また、それですか。『ちゃんと私のことを見てくれる』って。

何回目でしょうね、それを先生が言うのは。

私が部屋に引きこもるようになって、先生は何度もここに来てくれました。

その度にそう言ってくれて、私はその言葉を信じて、何回か学校に行きました。

けれどもで先生は、学校では先生で、私以外の人のことも見るじゃありませんか。

クラスの生徒や、顧問の部活の部員。

授業を受け持っている他のクラスの人達だってそうです。

私は所詮、何十、何百人の内の一人でしかない。

………またそうやって嘘を言って。

もう、私は騙されませんよ。

学校の先生である限り、先生は学校の教員の一人でしかない。

………『どうすれば信じてくれるか』ですか。

そうですね。先生が、本当に私だけを見てくれるというのなら………

先生、ちょっとこっちに来てください。

…はい。それで少しかがんでください。

(キュッ)

…何って、首輪ですよ首輪。

リード、見えてますよね?

これからはずっと、私の傍を離れないでください。

この物理的な紐だけじゃなく、精神的にも、私のそばに。

そして、私のそばで、私だけを見ていてください。

私だけと会話をしたり、私だけに勉強を教えてください。

だって、先生は私だけの先生なんですから」

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