070 元戦闘用アンドロイドは終末世界で永遠に君と旅をし続ける
「お前は敵か?味方か?
…聞こえなかったのか?
お前は敵か味方かと私は聞いている。
私は戦闘用アンドロイド。
この地上の戦争において、あらゆる敵を排除するために生み出されただけの存在。
もし私の敵ならば…
………
敵ではなく、味方でもない?
なんだそれは?
敵でもなく味方でもない…
なら、お前は何だというんだ。
…ただの人間、だと?
今この地上に足を付けている以上、私の敵か味方のはずで………
終わった?戦争が?
人類は、ほぼ全滅?
………
………
………
なるほど。ここ8年4ヵ月18日、まるで敵兵と遭遇しなかったのはそれが原因か。
14年9ヵ月12日前より通信障害で本庁との交信が取れなくなっていたが、戦争が既に終結…
…別に、お前の言葉を100%鵜吞みにしているわけじゃないが、今の状況を照らし合わせれば、その可能性が高いというだけだ。
それで、戦争が終わったこの地上で、敵でも味方でもない人間は何をしている。
………旅、だと。ふうん。
…別に、人間の行動に興味などない。
ならば、私は元の業務に戻ろう。
………ん?もちろん私の敵を排除する業務だ。
そのためには、排除するべき敵を探さなければならない…
さっきも言っただろう。
私は戦闘用アンドロイド。
敵を排除することだけをプログラムされている、自立型ロボット。
戦争が終わった、終わっていないどちらにせよ、私にやることに変わりはない。
戦争が終ろうと、敵がいなくなったわけではないだろうしな。
………ん?一緒に?旅?お前と?
お断りだ。繰り返し言わせるな。
私は敵を排除するために生み出された存在だ。
故にお前と一緒に旅などしない。
…だがまあ、敵でも味方でもない人間のお前が、どう行動しようとお前の自由だ。
たとえ、お前が勝手に私に付いてこようが、私の邪魔さえしなければ、私にとってはどうでもいい。
敵でも味方でもない存在に対して、何の興味もなければ、何の価値もないのだからな」
「………起きろ、時間だ、人間。
…間の抜けた顔だな。
いつも思うが、なぜ人は休息しなけらばならない?
エネルギーが補給され続けられる限り、私のようなアンドロイドは永遠に動き続けることができる。
動かなくなったのなら、それは死と同義。
だが人は、動けるのにもかかわらず休息し、就寝し、休憩する。
動けるというのに動かない意味が分からない。
………寝ることがエネルギーの補給と同じ、か。
さっぱりわからないな。
そしてそれは、今人間がしている食事という行為も同じだ。
それこそエネルギー補給の最たるもののはずなのに、なぜいつも同じものを摂取しようとしない?
同じエネルギー補給なら、効率的に補給が可能なものだけを摂取し続ければいい話じゃないか。
なのに人は、液体だったり個体だったり、違うものを選り分けて摂取する。
実に非効率的で理解しがたいな。
………それが人だから、か。
確かにそうだな。
お前という人間がしているという『旅』というものも、非効率の極みだ。
目的もなく、ただ地上の上を移動し続ける。
この崩壊した地上の中で、何というものがあるわけでもないのにな。
…食事が済んだというなら行くぞ。
………別に、人間を待っていたというわけじゃない。
内部データと実際のこの地の差異を比べて、アップデートしてただけさ。
この地は特に、私の敵の攻撃の痕跡が多くて…
………ん、あれは?
敵の残兵アンドロイド、か。
数は28。
だが、私のバージョンよりもはるかに旧式のアンドロイドでしかない。
あんな奴ら、私の手にかかれば…
―――
―――
―――
…敵の全滅を確認。ミッションコンプリート。
さて、終わったぞ、人間。
………人間?なんだ、赤い液体まみれで?
…右足は欠損、両腕の損傷は激しい。呼吸もなし。
敵の弾を被弾、か。
それもそうだな。
あの旧式の敵なら、敵の区別が判断できず、人間を私の仲間だと思っても仕方ない。
戦闘能力の低い人間を、即刻撃つのは当然の行為だ。
まあ私のバージョンなら、敵と味方の区別はつくのだがな。
さて………」
「………ん、目覚めたか。
やはり間抜けな顔だ。
ふむ、どうやら頭部のメモリーに欠損が見られる。
だがまあ、それもわずかのようだ。
…どうしたのかって?
お前は一度死んだんだよ、人間。
そしてそれを私が生き返らせた。
だがしかし、それは人間でいう治療行為ではない。
…元々私には自己修復プログラムが搭載されている。自分で自分を直し、可能な限り戦い続けられるようにな。
それを元に人間を修理というわけさ。
自分の手足を見てみろ。
…そう、機械ベースの手足をお前の体に装着した。
それで問題なく動くはずだ。
………別に、お礼を言われる理由はない。
自己修復プログラムがなかったら、こんなことはしていない。
…やはり人間はおかしいな。
理由がないと言ってもお礼を口にするなど、理解不能だ」
「………この地も廃墟、か。
戦争によって崩壊した街。
原形をとどめた建物はわずかしかなく、その建物も倒壊寸前のレベルまで朽ち果てている。
やはり戦争が終わって、世界の全域は滅ぶ一方のようだ。
………どうした人間。急に立ち止まって。
…もう死にたい、だと。
なぜ死にたがる?
たかだか142年7ヵ月9日、この地上を回っただけじゃないか。
………何もない地を回り続けるのに疲れた、か。
お前の体は、私に修理によって86%が機械に置き換わっている。
故に疲れる理由などないはずなのだがな。
………殺してくれ?
…いいだろう。私が殺してやる。
じゃあな、人間。
(パンッ!)
―――
―――
―――
…ん、死んだか。
やはり、記憶メモリーが95%以上蓄積すると、どういうわけか人間は死を望む。
かれこれこれで、6250万3467回目の死だ。
私に殺せと言ってきたのは、965万4780回目。
3712万456回の自殺に比べれば少ないが、なぜ自ら死を選ぶのか、まったくもって理解不能だ。
32億7432万5643日の間、この人間とともにいるが、まったくもって理解ができない。
人間はいつ何時でも、まったく違う行動をとる。
同じ天気、同じ気温、同じ位置にいようと千差万別、私の理解を超える行動をする。
プログラムを刻まれた私とは違って、な。
さて、修復作業に取り掛かろう。
その修復作業が終われば、また………
………
………
………
………ん?
なぜ私は、わざわざ修復作業を行うのだろう?
なぜ、敵ではない人間を、殺してくれと言われたから殺し。
なぜ、味方ではない人間を、生き返らせてくれとも言われていないのに生き返らせる。
そんなプログラム、私には刻まれていないはず…
………
………
………
………まあ、いいか。
それは、修復作業が終わってから考えるとしよう。
この人間が生き返ったら、な」