066 マネージャーを困らせるワガママモデル。でも本音を見せるのは僕にだけで…
「(パシャッ、パシャッ)
………
お疲れ様でーす。
今日も撮影、ありがとうございました。
………いえいえそんな。皆さんの協力あってこそですよ。
じゃあそろそろ、控室の方戻らさせていただきます。
…ありがとうございました。
(スタスタスタスタ)
(ガチャッ、バタン)
…あー、疲れた疲れた。
何枚も何枚も撮るなっつーの。
こっちは完璧にやってんのに、機材だか何だかの問題で時間とらせんなよ。
………マネージャー。
…おーい、マネージャー、聞いてんのー?
………いるんならさっと返事しろっつーの。
ミルクティー、ある?
………ん。ちゃんといつものやつだね。
この前みたいに、似ていると間違えないでよ、本当。
危うく違うの飲みそうなんだったからね、あの時は。
………プハァー。
あー、美味しい。
…ねー、なんかお菓子ある―?
………って、これ何?
…いや、チョコなのは見てわかるけど、こないだコンビニで出た新商品あるじゃん。
あれが食べたかったんだけど。
………「言ってない」って、こないだあんたと話した時話題に出したでしょ?
気利かせて買ってきなさいよね。このくらい言わなくても。
………食べないとは言ってない。お腹減ってるんだし。
………
…何?食べ過ぎ?
いーじゃん、別に、私の体なんだし。
………あー、もううっさい。
どうせこの後ジム行って死ぬほど体動かすんだから、エネルギー補充したっていいじゃん。
(コンコン)
…はーい。
(ガチャッ)
あっ、編集長さん。
今日は本当にありがとうございました!
…私、この雑誌に出れるの昔からの夢だったんですよー!
今回は本当に、声をかけてくたださってありがとうございます!
……えっ。こないだ旅行行ってたんですか。
いいなー、今度私も連れっててくださいよー。
…お土産?
ありがとうございますっ!
嬉しいです。ちょうどこういうの食べたいと思ってたんですよー。
………はい。はい。
ではまた、今度ともよろしくお願いしまーす!
(ガチャッ)
………はー、息くさっ。
あんなに顔近づけてくんなよな、あのクソデブ。
底辺雑誌に載っても全然こっちのステータスにならないっつーにさー、態度うざすぎ。
…しかも何このお土産。
ご当地饅頭って、古くさっ。
誰がこんなの食うかっつーの。
マネージャー、適当に処理しといてね。
…あれ、靴ちょっと汚れてる。
あーあれだ、さっきスタジオにまいてあった砂だ。
…マネージャー、拭いて?
これお気にの靴だから、さっさときれいにして。
………はーやーく。
…あっ、そーだ。
ついでについでに、爪も切って?
ちょっと伸びててうざいって思ってたんだよねー。
ちゃんと切った後、やすりで磨いてね。
あれやらないと靴下に引っかかるからさー。
………なに、その不服そうな顔。
あんたは私のマネージャーなんだから、私の言うことちゃんと聞きなさいよ。
………え、何?話?
いきなりなに?
まーた、今度の休みに仕事入ったとか、そういうの?
そういうのは本当に嫌って何度も何度も………
………
………は?
あ、ごめん、聞き間違い?もう一回言って?
………交代って、あんたが?
なんで?
私のマネージャーはあんたしか………
…もう付き合ってられないって………
はあ?
モデルのワガママ聞くのがマネージャーじゃん。
それがあんたの仕事でしょ?
それでやめるとか、仕事放り投げてるのと同じで…
…明日からは別の人?
ふざけないでって。
私何にも………
ちょ、ちょっと、話はまだ………
(ガチャッ、バタン)」
「………お疲れ様でーす。
お疲れ様でーす。
お疲れ様でーす。
お疲れ………あ、マネージャー………
…あー、とりあえず控室の方、どうぞ。
(ガチャッ、バタン)
………それで、何の用?マネージャー。
いや、元マネージャー。
いやいや、今はもうマネージャーですらないんだっけ。
うちの会社、クビになっただよねー。
…どう?無職になって毎日毎日暇を持て余してるんじゃない?
…それにしても、私の次についた子にセクハラしたって騒がれて、すぐに辞めさせられた気分はどう?
セクハラしていい思いしたんだから、満足してるんじゃない?
………でっちあげねー。
さあ?私には何のことだかわかんなーい。
たとえその子が、事務所入ってから私の子分みたいに私の言うことなら何でも聞くような子だとしても、マジ意味わかんなーい。
でも、別にいーじゃん。
あんたに私のマネージャー以外の仕事なんて、できっこないんだし。
………そ、あんたには私以外のマネージャー以外、できる仕事はないの。
その仕事をしたくないっていうんなら、無職でもなんでも満喫してればいいじゃん。
…え、ああ。私にはまだ、新しいマネージャーはついてないよ。
事務所があてがってくるマネージャー、全員そりが合わなくてさ、とりあえず今は日替わりで変わってってる感じ。
本当あいつら、全然私のこととか把握してなくてさー。
それに休日でもバンバン仕事入れて来るし、ちょっとこっちが良い顔するからって調子乗んなって話。
………あっ、そーだ!
なんならあんた、また私のマネージャーやらない?
うちの会社はクビになったけど、私個人であんたを雇ってあげるからさー。
給料も前の倍は出してあげる。
…ん、いいこと思い付いた!
住むところだって、今より広いところの方がいいでしょ?
私と同じマンションに引っ越すっていうなら、その家賃も出してあげる。
だってそうすれば仕事以外でも、呼んだらすぐにこき使えるし、名案じゃない?
………不服そうな顔ねー。
でもいいのー?
今のあんたに、再就職の道なんてあるのかしら?
私、結構顔広いんだよ?
同じ業界で再就職しようったって、私がちょーと猫なで声出せば、簡単に潰せるぐらいにはネットワーク広いよ?
まああんたが、これからやっすーい安月給の生活の中、ぼろっちいアパートで寂しく生きていきたいっていうなら、話は別だけど。
………いいじゃん、私のマネージャーやってれば。
私には、あんたしか………
………
私さ、すっごいむかつく姉がいたんだよね。
テストもできてスポーツもできて、昔からすっごい比較されてさ。
親も、ちょっとでもわがまま言うと手出すような感じで、昔から自分を押し殺して生きてきたんだ。
ずっとずっと、人に対して良い顔し続けて、仮面かぶって、いい子ちゃんを演じて。
何年も十何年も皮をかぶり続けてきたんだ。
…でも、あんたみたいにちょっと口が悪くて結構抜けてる奴だとさ、こう、なんていうか、仮面付けるのめんどくさくなったんだよね。
私が仮面とって性格変わっても、それに対しては一切気にする感じじゃなかった。
だから、さ。私が素を出せるのは、あんたの前だけなんだよね………あー、もう。
とにかく、あんたは私のマネージャーやるしかないの。
私のワガママ効いて、私のパシリになって、私の召使いになればいーの。
口答えしないで、黙って従ってないさいよ。
わかった?
わかったんなら返事くらいしてよ。
私だけの、マネージャー」