053 世界最強の女勇者は愛する弟のためなら全てを投げ出してしまう
「よし。ご飯できたよー。
…はいはいはいはい、焦らない焦らない。
ご飯は逃げないんだから。
手、洗ってきなさい。ご飯はそれから。
「えー」じゃない。
いいから洗ってくる!
………
よーし、洗ってきたね。
それじゃ、両手を合わせて…
いただきます。
…どう?おいしい?
………そっかー、よかった!
ごめんね。いつもいつも一人でご飯でさ。
一人の時もちゃんと料理してる?
…ほんとにー?
家にある食材、お肉とかばっかで野菜とか全然なかったんだけど。
もっといろんなもの食べなくちゃだめだぞ。
………むー。
いつになったって君は私の弟だよ、弟。
弟の面倒を見るのが姉の役目だもん。
………ごめんごめん。いっつもいっつも君をほったらかしにしてる私が言えたことじゃないか。
でもだって、いっつもいっつも騎士団の人とか会館の人が仕事持ってくるだもん。
今日だって、昨日までの仕事を早く切り上げてなかったら、まだ前の街にとどまってただろうしね。
十年に一度の勇者だからって、仕事押し付け過ぎだってのー。
…うん、本当にごめん。君を一人にしちゃって。
………うーん、じゃあどこか行きたいとことかある?
今日はたぶんもう仕事ないだろうし、どこでも行きたいところ連れってあげるよ。
…また海?
君はいっつもいっつもそればっかり言ってるよねー。
うーんでも、海は遠いしなー。
ここからだと、4、5日はかけないといけないし…。
………え?まあ私は仕事とか仲間との旅で何回も見てるけどさ。
でも、海なんてただの水の塊だよ?
どうしてそんなのが見たいって思うのかな………
………はいはい。それはまたいつかね。
海以外の場所だったら………
(ドンドンドンドンッ!)
…はあ、またか。
ごめん、ちょっと出てくるね。
多分今日も、でかけたまま帰ってこられなくなると思うから。戸締りはちゃんとしておいてね」
「………
………
………
…そろそろ、かな。
………来た。
(スタスタスタスタ)
…あなたたちね。最近このあたりの集落を襲っているっていうゴブリン達は。
このまま何もせずに帰るって言うなら帰してあげる。
もしそうじゃないなら………
…え、何?多勢に無勢?
多勢って…あなたたち高々30って数しかいないじゃない。
そんなので多勢だなんて言えるなんて、勇者もなめられたものね。
―――いくよ。
―――――
―――――
―――――
………3分も持たなかったね。
残りはあなた一匹。
それじゃあ………
…え。家族に手を出す?
いやいや、ここであなたを仕留めれば、手を出すも何も………
…仲間が黙ってない?
………
………
………
………わかった。見逃してあげる。
だから、私の弟だけは………
………行っちゃった。
は、早く帰らないと。
(タッタッタッタッ)
(タッタッタッタッ)
(タッタッタッタッ)
(…バタン!)
弟君、いる!?
………ああ、よかった。
…え、いや、何でもない何でもない。
弟君が無事なら、本当に何でもないから」
「はあ、だっるーい…
なんで私が、新しく発見されたダンジョンなんて行かなくちゃいけないのか…
そりゃあ、この間の旅の途中にこのダンジョン見つけたのは私なんだけど。
それにしたってなんで本人が行かなくちゃ………
(ゾロゾロゾロゾロ)
………んー?誰?あなたたち?
あー、その恰好、見たことある。
どっかの盗賊団の服だよね、それ。
趣味悪い格好して、恥ずかしくないの?
それで?そんな悪の盗賊団のあなたたちがこのダンジョンにどんな用?
………ふーん。
まあ確かに、一番ダンジョンの奥にお宝があるっていう噂はあるけどさ。
そんなの眉唾だと私は思うけどね。
っていうか、お宝盗んだらダメでしょ。
私は別に見つけても持ってく気はないけど、あなたたちが盗むって言うなら見逃せないかな。
それでも入るって言うなら………
………
………え、誘拐?弟を?
え、え、そんな………
お、弟は大丈夫なの?
ねえ、ねえ?
………わ、わかった。宝はすぐに持ってくるから、弟には絶対手を出さないで!
―――――
―――――
―――――
………はあ、はあ。
これでしょ、あなたたちが探していたお宝。
…え、途中のお宝?なんでそれをあなたたちに………
………わかったから。わかったら。
…はい。これで全部よ。
本当の本当に全部だって!
それで、弟は?弟はどこにいるの?
………家ね、わかった。
(タッタッタッタッ)
(タッタッタッタッ)
(タッタッタッタッ)
(…バタン!)
弟君!
………よかった。よかった…
…うん?
………そっか、ずっと家にいたんだね。
ううん。大丈夫大丈夫。何もなかったから。
本当に何もなかったから、大丈夫だよ」
「………この扉の先が、魔王の配下たる四天王のいる部屋ね。
ずいぶんと趣味の悪い扉だこと。
こんなに金銀財宝をちりばめて、悪趣味に程があるわ。
(ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…)
…うわ、部屋の中も悪趣味。
変な置物ばっかり置いて、頭の中どうなってるのよ。
………それで、そこに座ってるあなたが四天王でいいわけ?
ずいぶんと弱そうな見た目してるけど、あなたが世界に災いを起こす原因っていうなら、容赦しないわ。
―――覚悟。
―――――
―――――
―――――
…30秒も持たないとか、あなた本当に四天王の一人なの?
これなら前に戦ったバカでかい力男とか、膨大な魔力を操る魔女の方がよっぽど強いじゃない。
それどころか、その辺のゴブリンよりも弱いんじゃないの?
まあ別に、弱いのに越したことはないんだけど。
じゃあそろそろとどめを………
………
………え…
殺す………?弟を………?
………え、え………?
そ、そりゃ、魔王の手下は数多くいるけど………
いや、待って待って!
殺さないで殺さないで、私の弟を!
あの子は私のたった一人の家族なの!
両親も死んじゃって、本当の本当にたった一人の家族なの!
あの子がいなくなったら、私は私は………
………え、殺さないでくれるの?
本当の本当に?
………う、うん。わかった。
そうすれば弟は殺さないのね?
それじゃ、すぐに行ってくるから。
―――――
―――――
―――――
(………ギィ)
………国王、ちょっとよろしいですか。
いえいえ、大した用じゃありません。
ちょっと、その首をいただきに来ただけです。
(ブンッ、スパッ)
―――――
―――――
―――――
………はあ、はあ…はあ、はあ。
ほら、ちゃんと国王の首は持ってきたわ。
だからこれで、私の弟は………
………うん、うん。わかった。
これからもあなたの言うことを聞き続ければ、弟は生かしてくれるのね?
私は、これからも貴方の言うとおりにします。
………
(タッタッタッタッ)
(タッタッタッタッ)
(タッタッタッタッ)
(…バタン!)
………弟君、弟君。
(ギュッ…)
…うん、ごめん。もうちょっとこのままでいさせて。
弟君がちゃんといるってこと感じたいから。
(ドンドンドンドンッ!)
こんな時間に誰が………って、りゃ、あれだけ派手にやれば、来るのも早いか…
………ねえ。二人でどこか、遠くに行こっか?
…うん。ちょっとこの家には、いられなくなっちゃからね。
どこがいいとかある?
………海ね。
そうだね。海に近いところにしよっか。
誰もいないところなら、ちょうどいいか。
(ギュッ…)
………弟君。
私は、弟君のこと愛してるから。
絶対絶対、君のことを守るから。
だって私は、君のたった一人の、お姉ちゃんなんだから」