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052 人狼を狩るクールな狩人は、一人ぼっちのあなたとどうしても一緒にいたくて…

「………そこのお前。止まれ。

そう、お前だ。そのままの体勢で動くな。

少しでも動こうとしたら、この銃口が火を噴くぞ。

………やはりお前、人狼だな?

その体つきといい特徴的な耳といい、普通の人間ではないのは確かだ。

人狼にしてはずいぶんと小柄だが………ん?

お前、その顔の傷どうしたんだ?

何かでひっかいたような…それに体もずいぶんと………

………

………

………

…行け。

………いいから、行けって言ってるんだ。

私の気が変わらないうちにな。

もたもたしていると、弾の餌食になるぞ。

(ガサガサガサガサ)

………行ったか」




「………おい。お前人狼か?

人狼なら………って、お前あの時の…

まだこんなところをうろついていたのか?

最近村人が何人かやられてから、狩人の仕事も増えているし、いつ他の仲間に撃たれても知らないぞ。

………私か?

ああ、まあ確かに、人狼を撃つのが狩人たる私の仕事だ。

だが私が撃つのは、人を食った人狼だけだ。

人狼だからというだけで撃つのでは、殺戮者と何ら変わらない。

まあもちろん、お前が私に襲い掛かろうとするなら、すぐにでも引き金を引いてやるがな。

………ん? ああ、そのことか。

いやなに、お前が人を食ってないことは、見ていればわかる。

まずお前のその体格。

人を襲おうとしても、意表を突かない限り襲えない体つきだよな。

それに私と遭遇しても、最初に逃げるそぶりをして、襲おうという気概がない。

…で、これが一番の理由だが、お前のその顔の傷、他の獣にやられたんだよな?

爪でついたようなひっかき傷。

人間を相手にしてたら、まずつかない傷だ。

…人狼だからといって、中には人を食わない変わり者もいる。

体格だったり性格だったり理由は様々だが、そういう奴らも少数だが存在する。

人を襲わない以上、私が撃つ理由足りえないというわけだ。

………だが、さっきも言ったと思うが、仲間の狩人はその限りじゃない。

視界に入れた途端撃つ奴の方が大半だ。

私達の村は、長年人狼に多くの人間を殺されているからな。

根絶やしにしようという考えを持つにいたるのは、まあ、わからないでもない。

だからあまりこの辺にいない方がいいぞ。

私はお前を撃たないが、他の仲間はお前をすぐに撃つ。

死にたくなかったら、ここにはいない方がいい。

(………パーン)

………仲間が近くにいるみたいだな。

ほら、さっさと行くんだ。

(ガサガサガサガサ)

………

………あいつみたいのが多くいれば、私の村も、あいつらも平和に暮らせるんだがな」




「(ガサガサガサガサ)

………ん、誰だ?

…って、お前か。

私の忠告を無視するなんて、相当の自信家かバカのどっちかだな。

ただまあ、私を襲おうというなら絶好のタイミングだともいえる。

見ての通り今の私は、銃も何もない丸腰だからな。

今お前が襲い掛かってきたら、ひとたまりもない。

………襲う気はない、ね。

まあ、言うだけなら簡単だ。

…別に、隣に座りたいなら座ればいい。

どうせ襲われたら反撃できないからな。どっちにしろ変わらない。

………ああ、今日は仕事じゃなく、単に休暇だよ。

休みの日まで銃を持っていたら、気が持たないからな。

…まあここ何日か、仕事の方をさせてもらえないだけなんだが…

いや、こっちの話だ。気にするな。

…で、お前は相変わらず人狼のくせに人を食ってないのか?

そこら辺の獣の肉を食うよりは、まだ怪我なしで食えると思うが………

…ふーん。そうか。やはりお前は変わり者だな。

何か理由でもあるのか?人を食わない理由が。

………両親が人間に殺された、か。

その瞬間を直に目撃して、人間が怖くなったと。

………私と同じだな。

私の両親は、人狼に殺された。

私の親は二人とも狩人でな。

毎日毎日、森に行っては村のために人狼を仕留めていた。

だが二人とも、人狼だからと全員を皆殺していたわけじゃない。

人間を襲った人狼だけをターゲットにしていたんだ。

中には、見逃していた人狼も数多い。

…そんなある日だ。いつものように森に出掛けたはずの両親は、日が暮れた後も私の下に帰ってこなかった。

後で聞いた話だが、両親は人狼を見逃した後罠にかかって、その仲間の人狼に襲われて命を落としたそうだ。

………私は人狼が怖い。

怖いからこそ、人狼を殺す銃を手にした。

だが同時に、親の信念も知らず知らずのうちに受け継いでいたみたいでな。

冷酷な殺戮者には、向いていなかったようだ。

………ん?

そうだな。人狼を恨んでいないと言ったら嘘になる。

だが、お前は謝るなよ。

謝ったところで私の憎しみは消えないし、両親が帰ってくるわけじゃない。

だから人間の私はお前に謝らないし、人狼のお前は私に謝るな。

………一緒にいたい?

おいおい、何を言ってるんだお前は。

人間と人狼は相いれない。

人狼が人間を食って、人間が人狼を撃つ限りはな」




「………はあ、はあ…はあ、はあ…

(ガサガサガサガサ)

…ん?ああ、お前か…

ちょうど、よかった………

(ガシ)

………ああ、すまんな。支えてもらって。

ただ、疲れた。そのまま座らしてもらえるとありがたいんだが…

…ありがとう。

………ふう。

いや、ここ何日かまったく寝てなくてな。

ろくに食ってなくて、体力も尽きて、このざまだ。

………ああ、知ってるのか、村の話。

ああ。私の住んでいた村は、今大騒ぎだ。

『大量の人狼が出た』とな。

…いや、私は狩人として森をさまよってたわけじゃない。

実は少し前に、私は村の狩人の職業をはく奪されたんだ。

人狼をちょくちょく見逃していたことが村の奴らにバレてな。

長年村のために働いていたというのに、無慈悲なやつらだよな。

それどころか、人狼の仲間なんじゃないかと疑われて、村八分の目に遭ってしまった。

故に、村にある私の家も財産も、すべて村に取られてな。

今の私はただの根無し草というわけだ。

………お前にわかるか?

それまで普通に生活していたのに、突然村を追放された人間の気持ちが。

昨日までは仲良くしていた村の住人達が、急に手のひら返しをされる気持ちが。

人間の私は、一人ぼっちになってしまった。

…そんな時だ。ふっと脳裏に浮かんだのは。

話した回数も数えるほどしかない。

年だって全然違う。

そしてなにしろ、そいつは人間ですらないというのは実に滑稽だ。

だが、そいつのことが妙に頭に離れなくてな。

空洞になった心に入り込むように、そいつのことで頭がいっぱいになった。

…でも、そいつは人じゃない。

人間は、人じゃない奴とは相いれない。

そう、だから私は………


人狼になったんだ。


………どうやってって、実に簡単な話だよ。

私は姿形も人間そのものでしかない。

しかし人狼だって人間とそう見た目は変わらない。

人間と人狼の違いとは何か?

それはもちろん、人を食うかどうかだ。

人を食う奴は人狼。

私は狩人として、そんな人狼を撃って撃って撃ちまくってきた。

…私は人狼のような牙は持っていないが、この銃がある。

だからこの銃を使って、私は村の奴らを………

………

………なあ、お前は人狼だ。

そして、今の私も人狼だ。

人間と人狼じゃない。

人狼と人狼だ。

同じ人狼同士なら、一緒にいられると思わないか?

お前が人を襲えないというのなら、今度からは私が人を襲ってお前の食事を持ってきてやる。

お前にとっては、いい話じゃないか。

だから、これからはずっと私と一緒にいてくれよ。

私は、お前がいないと一人ぼっちになってしまう。

一人ぼっちの苦しみは、お前の方が先輩なんだろう?

お前がいれば、お前は一人ぼっちにはならない。

人狼と人狼同士、いつまでもいつまでも、仲良くやっていこうじゃないか」


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