050 ダウナーギャルのレンタル彼女は彼を一生レンタルし続けたい
「(スタスタスタスタ)
…どうもー。こんにちはー。
あなたが、レンタル彼女予約した人?
………そう。
今日はご利用いただき、誠にありがとうございまーす。
時間は3時間コースで間違いないですか?
…はい。オプションで延長も可能なので、その時は言ってくださいね。
それじゃあ、今から3時間ってことで。タイマー入れます。
(ピッ)
…じゃ、はい。
………
…『なに?』って。腕組みますから、腕上げてください。
………え、そういうのはいいんですか?
はー、珍しいですね。こういうの頼む人って、大概腕組みたがるものなんですけど。
むしろ組まない方が文句言われるし。
………
…まあ、こっちもサービスですからね。どんな相手だろうとそれくらい別に…
でもあなたがそれでいいって言うなら、組まないってことで。
………で、どこ行きます?
ここからだと、映画館とかカラオケが近いですけど。
………私?
いやいや、あなたの行きたいところでいいですよ。
レンタルしてるのはあなたなんですから。
………へー。それまた珍しい。
『私も楽しめる方がいい』っすか。
ふーん。じゃあ、とりま映画でも見に行きますか。
こっから近いですし、あんまり時間も無駄にしたくないでしょうし。
…じゃ、行こ?
(スタスタスタスタスタ)
………え、好きな映画?
いや、あんまり私、普段は映画とか見ないし。
今どういうのがやってるのかもよく知らないっすね。
なので、別に何でも楽しめると思いますよ。
………まあ、そりゃ、漫画とかドラマは人並みには見ますけど。
あなたはそういうのどうなんですか?
………
あ、それ知ってる。今話題のやつですよね。
…へー、その作品の映画やってるんですか。
まあじゃあ、その映画ってことで。
(スタスタスタスタスタ)
………
………
………
…じゃ、私チケット買ってきますね。
………え、行ってきてくれるんですか。
いやいや、ここは私が…
………あーはいはい、わかったわかった。
それじゃあお願い。
(スタスタスタスタスタ)
………
………
………なんか、いつもと違う人」
「(タッタッタッタッ)
………あの、すいません。
ちょっと時間遅れちゃいまして。
私今日、レンタル彼氏をお願いした………
…ってあれ?もしかして………
あー、やっぱりそうだ。
こないだの私のお客さんじゃん。
うわー、今のあんた、あの時と全然顔違うし。
メガネかけてなくて、服もおしゃれになってて、カッコいいじゃん。
でも、プロフの写真見ただけじゃ全然わかんなかったなー。イメチェン?
………いやそりゃ、私もお客さん相手にする時は気合い入れるけどさ。今みたいなあんたの変身ぶりほどじゃないって。
それにしても、レンタル彼氏やってるくせにレンタル彼女レンタルとか…
いや、私も同じなんだけどさ。
…つか、そういう格好できるんなら、この間もそうすればよかったのに。
………まあ、私も今日はそこそこの格好なんだけどね。
とりま、今日は私の彼氏としてよろしくー。
………
…ん?手?
………いや、いいよ私は。そういうのは別に求めてないし。
それより、これからどこ行く?
あんたは、行きたいところとかある?
………って、ああ。確かに、この間とまったく同じやり取りだわ。
何やってるんだろうね。私達。
………うん。じゃあそこでいいよ。
それじゃあレッツゴー。
(スタスタスタスタスタ)
………え、私がレンタル彼女始めたきっかけ?
…んー。別に、大した理由はないよ。この年でそこそこ稼げそうなのがこれだったってだけ。
そういうあんたはなんで?
………へー。女心を知りたいから、ね。
それじゃあ、今まであんまりモテなかったってわけだ。
…そりゃそうでしょ。女心知りたいのなんで、モテないやつに決まってるじゃん。
………私?
…あー、まあ、あんたと同じ、かな?
これまで彼氏どころか、告白されたことすらないって感じ。
………
…か、かわいい?私が?
からかうなよ。あんま恥ずかしいこと真正面から言うなって…
………連呼すんなよ。マジはずいから………
あー、もう!とにかく行こ行こ!
今日は彼氏として、思いっきり楽しませてね」
「(スタスタスタスタスタ)
…あの、あなたがレンタル彼女頼んだ人?
………どもども、今日はレンタル彼女のサービスをご利用いただき誠にありがとうございまーす。
………
………っぷ。ぷはははっ!
いやー、もう何回目だろうね。あんたとこのやり取りやるの。
…しかしあんたも物好きだよねー。
レンタル彼氏やった相手に、レンタル彼女として何回も会うなんてさ。
私も人のこと言えないんだけど。
それじゃあ今日はどうしよっか?
こないだはバッティングセンターで、その前は水族館だったから、今日はプールでも行く?
ちょっと離れたところだけど、でかくていろいろ楽しめるプールがあるんだよね。
…うん。オッケー。
じゃあしゅっぱーつ。
(スタスタスタスタスタ)
………この辺歩くのも何度目だよって感じだよね。
まあ、あんたと歩くのならまんざらでもないけど………
………
…ねえ、ちょっと昔話してもいい?
ん。ありがとう。
………あたしさ、昔いじめられてたんだよね。同級生の男子に。
まあ幼い頃のいじめで、そんな大きな被害っていうのもなかったんだけど、当時の私としては大問題でさ。
っていうのも、そのいじめてた男子が、ちょっと気になってた男子だったんだよね。
なのにその男子なのにいじめられてさ、もうわけわかんないって感じで、傷つくだけ傷ついて…
…その時からかなー、あんまし人のことが信用できなくなってきたのは。
その男子からのいじめも次第になくなって、平和な日常に戻ったんだけどね。
その頃から、周りの言うことに裏があるんじゃないかって、段々と思い始めるようになったんだ。
一回そういうの疑問に思うとさ、幼い頃だからスルー出来なくて。
それでも日常は普通に過ぎていって。
その疑問が消化できないまま、成長していって…
そこからもう、ぼっちの完成だよね。
いや、別に一人でいるのが苦だったとかそういう話じゃないよ。
一人でいるのって結構気楽だし、周囲に気遣わなくていいのはストレスないし。
………でもさ、時々思うの。
周りの人は、一体何を考えて生きてるんだろうなーって。
…こないださ、私がレンタル彼女始めたのはなんとなくだって言ったけど、本当はそういうのが知りたかったのかもしれない、って思うんだよね。
…いや、レンタル彼女始めたところで、何がわかるんだって話んだけど。
………でもさ、なんかあんたといると、そういう疑問あんまり感じくなくなってたんだよね。
ちょうどいいっていうか、心地いいっていうか………
まあ、なんだろ。あんたといる時間は好きっていう話。
………あー、なんかごめん。急に変な話して。
今はあんたが、私のことレンタルしてるのに。
………
………ん?どしたー?急に真面目な顔しちゃってさ。
それこそ、告白する前みたいな………
………え?好き?
私のことが?
………
………
………
………ご、ごめん!
ごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめん!
(タッタッタッタッ)」
「(スタスタスタスタスタ)
………ん。今日もよろしくね。
…うん。今日は、私があんたをレンタルする。
………うん。行こ」
「………んー、今日は遊園地楽しかったね。
ジェットコースターに、お化け屋敷に、観覧車。
どこもかしこも超面白かった。
………
………あー、なんつーか。今更だけどごめん。
この間は、あんな突然帰っちゃって。
それなのに、今日は何もなかったみたいに会ってくれて、ありがと。
………え、帰った理由?
えー、今それ聞く?
まあ、私が悪いからしょうがないか…
………あの時帰ったのは、まあ、急にあんたが変なこと言ったから。
い、いや別に、好きって言われて気持ち悪いと思ったとかそういう話じゃなくてさ。
…この間も話したけど、私昔いじめられてたせいでさ、あんまし人の言うこと信じられなくなったんだよね。
好きっていうのも信じられなくて………
しかも私もレンタル彼女なんてやってるから、心なく「好き」なんて言うことも多くてさ、もうなんか、そういうのが全然わからなくなって…
そんなタイミングであんたに「好き」なんて言われたから、なんかこう、頭がぐっちゃぐっちゃになっちゃったんだよね。
だから、あの時は本当にめんご。
(ピピッ)
…ん、そろそろ時間だね。
じゃあはい、これ。今日の分の料金。
………それと、これも。
…それ?見ての通り封筒。
中身はお金。
そのお金。今までレンタル彼女で稼いできた分と、それまでの貯金、で、家のものほとんど売ったお金の全部だから、そこそこあるでしょ。まさに札束ってくらい。
…そのお金が何だって?
………あのね。そのお金で、これからのあんたの人生、レンタルしたいの。
もちろん人生丸ごとっていうのには全然足りないけど、その都度お金は渡すからさ、だから………
あなたの人生をちょうだい?
………私は、好きとか愛してるとか、そういう言葉は言えないし、言うのも言われるのも信じられない。
でも、お金は確かにそこにあるもので、確かに価値のあるもので、みんなにとって同じように価値のあるもの。
それが私の好きっていう気持ち。愛の形。
私は、あなたに一生傍にしてほしいの。
だから、私はあなたにお金を払い続ける。
レンタル彼氏として、ずっと私と一緒にいて?」




