046 幼馴染の道具屋から買ったアイテムが実は呪いのアイテムで…
「(………チリンチリンチリン)
いらっしゃいませ!当道具屋に………
って、君じゃん。挨拶して損した。
………えー、対応に不満?
でも、改まって営業スマイル出さなきゃいけない仲でもないでしょ。
何年君と付き合ってると思ってるの。
それより何?
今日も、いつもの薬と武器の整備?
………ああ、そっちの子の装備、ね。
新しくパーティーに入ったヒーラーだっけ?
どうも、こんにちはー!
ゆっくり選んでってね!
………え、なに?
そりゃ、新しい子には営業スマイルするよー。
だって、リピしてくれれば店の儲けになるんだもん。
………それよりまた新しい子、入ったんだね。
もうこれで五人目だっけ?
えーっと。女剣士と、魔女と、くノ一と………ああ、そうそう、軍師の女傑さん。
なになにー、女の子ばっかりパーティーにして、ハーレムでも作る気なの?
このこの―。
…もう、必死になって否定しちゃって。
本当はどうなのかなー?
………昔は全然、私以外の女の子なんて、まともに話せもしなかったのに。
ああ、そうだ。覚えてる?
確か子供のころ、二人で西の森に行った時にさ………
………え?ああ、この指輪?
この青色の宝石がきれいだよね。
いや、ちょうどさっき来た商人さんがさ、買い取ってくれって言って持ってきた指輪だよ。
………うん、それ、すっごく能力上がる装備みたいなの。
攻撃力と、防御力と、素早さと、魔法力が全部倍になるみたい。
…いやいやホントだって、自分でどんなステか見てみなよ。
………
…ホントだったでしょ?
このクラスの装備なんて、王宮御用達のお店でもなかなか見たいよね。
こんな指輪をこんな店に持ってくるなんて、よっぽど目利きないのかな、あの商人さん。
………ん?ああ。いつもの商人の人じゃないよ。
飛び込みで来て、今日初めて見た人。
見るからに黒っぽい恰好でさ、ちょっと怪しい感じだった。
…うーん、でもこれ、なんか変な能力入ってるんっぽいんだよね。
君が見ても、全部の能力はわからないよね?
まあ、道具屋の私の鑑定スキルでも全容がわからなかったから、当たり前でしょうけど。
だから、繁華街の方の大きな店の人に鑑定頼もうかと………
………え?欲しいの?
えー、でも。ちょっと怪しいよ、これ。
…まあそりゃ、こんな掘り出し物、次いつ入るかなんてわからないし、次来た時には、売り切れてるかもだけど………
………まあ、君がどうしてもっていうなら、売ってあげるけどさ。
でもその代わり、サービスしてあげないからね」
「(………チリンチリンチリン)
いらっしゃいませ!当道具屋に………
あれ?確かあなた、この前来たヒーラーの………
………え?あの子が大変なことに?
ど、どういうことですか?
………呪いにかかって…
………自我がきかなくなって…
………仲間を襲って暴れてる、と。
あっちゃー。やっぱりそうだったんだー。
………ああ、あなたも繁華街の店に行ってきたんですか。
…ええ、あの青い指輪の装備。
元々は王家に封印された呪いの指輪だったみたいで、前に王都が襲われた際に、盗み出されたものっぽいみたいですね。
呪いの根源は『憎悪』。
指輪をもって強く念じると、その人の憎悪が指輪に流れて行って、その憎悪が指輪を装備した人に呪いとして現れる、と。
そう王家の書物に書いてあったらしいんですよ。
私もあの後気になって色々調べてみたんですけど、やっぱりその指輪だったんですね。
………ええ、ええ。
呪いを解除するには、憎悪の呪いを込めた人間を探し出してその思いを元に戻すか、その人間を殺さなくちゃいけない…
…ああ、だから私のところに来たというわけですか。
あれを売ってきた商人を探すんですよね?
それなら、王宮の騎士団に行った方が早いです。
あの指輪の他にも、私のお店にいくつか怪しい物売ってきてたので、騎士団にその商人のこと伝えてあるんです。
騎士団の情報網なら、多分………
………いえいえ。早く見つけなくちゃいけないですよね。
それでは。
(チリンチリンチリン………)
………
………
………
…早く見つけなくちゃ、か。
見つかるわけないのに、ね。
あの商人だって、ちゃーんと呪いの指輪だってわかってて売りに来てるんだから。
稼げるだけ稼いで、今頃はもう、街から出て行ったんじゃないのかな。
街から出ちゃえば、騎士団の情報網だってそう簡単にはいかないでしょ。
………まあ、仮にあの商人を見つけ出したとしても、それこそ、意味なんてないんだけど。
だって、あの指輪に『憎悪』を吹き込んだのは、あの商人じゃないんだもん。
あの指輪は、ここに来た時点では何の呪いも入っていなかった。
どこかで呪いを浄化してから商人に渡ったか、それとも商人が直接呪いを浄化したのか………
ともかく、呪いの指輪でも、その根源たる呪いは入っていなかった。
あれに呪いを込めたのは、私。
私が直接、あの指輪に『憎悪』を吹き込んだ。
………君が悪いんだよ。
…君が、君が、約束を守ってくれなかったから。
子供の頃、あの子と一緒に西の森に行った時、二人で迷子になって、家に帰れなくなったことがあったよね。
私はわんわん泣いて、でもあの子もどうしようもなくて。
結局、心配になって探しに来た親たちが見つけてくれて。
帰り道、手をつなぎながら、言ったよね?
『俺が強くなったら、俺がお前を守れるくらいになったら…
一緒に世界中を冒険しよう』って。
でも今の君は、他の女の子とパーティーを組んで、いろんな場所で冒険に取り組んでいる。
そりゃあ私は、実家の道具屋を継いだけど。
でも、君が一言言ってくれれば、どこにだってついていったのに………
なのになのに、私を置いて行っちゃうんだもん。
だから、あの指輪は私の復讐。
指輪の『憎悪』は、私の愛の呪い。
私の愛で苦しんでね。
私がいっぱいいっぱい、苦しんだように。
君も、同じ目に遭ってね。
いつまでもいつまでも、私の愛を受けて。
好きだよ、愛してる。
ふふふっ」