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045 いじめられっ子がこの上なく愛情を感じる瞬間とは…

「(今日も、いじめられた)」




「(今日も、いじめられた)」




「(今日も、いじめられた…)」




「はぁ………

(今日も学校か…

今日もきっと………

ううん。今日は、ないといいな)

………

………

………

痛っ………

あ………

(上履きに、画びょう………)」




「<キーンコーン、カーンコーン>

<タンタンタンタン>

<ガチャッ、バタン>

ふう………

(トイレは、一人になれるから落ち着く…

でも、あんまり長くはいられない。

長くいると………)

<バシャーン!>

あう………

<ビチャ、ビチャ、ビチャ、ビチャ>

(水、上からかけられた………)」




「………

…えっと、その、あの…

もう、あの、お金持ってなくて………

払え、ない、です………

<バンッ>

ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。

今すぐ持ってきます。

今すぐ持ってきますから…

ちょ、ちょっとだけ、待ってくださいお願いします。

<タッタッタッタッタッ>

(どうしようどうしようどうしよう…!

早く、お金持ってこないと。

用意できないと、何されるか、わからないよ………)

<タッタッタッタッタッ>

<タッタッタッタッタッ>

<タッタッタッタッタッ>

(もう、学校きたくない…

もう、いじめられたくない………)」




「………はあ。

(今日も、嫌な一日だった………

机に嫌な落書きされるし、

授業中消しゴム当てられるし、

昼休みに何度も購買に行かされた…

少しでも抵抗すると、怒鳴られたり叩かれたりされる)

………なんで私だけが、こんな目に…

(私が、何か変なことをしただろうか。

いや、多分、私は何もしていない。

たまたま、彼に目を付けられただけ。

運が悪かっただけ。

ダーツの投げた先が、私に当たっただけなんだ)

………そんなの、わかってるけど…

(どうしたらいいんだろう。

なんて、もうどうしようもない。

親にも相談できないし、同級生は彼に同調するか、見て見ぬふりをするだけ…

卒業まで、私が我慢するしか………)

………え。あ。

(誰だっけ、この人…

あ、確か、教育実習生の………)

………

え、いや、えっと、その………

(『いじめられてるのか』って、もしかして、声に出てた…?)

あと、えと………

(ここで『いじめられてる』なんて言ったら、いじめがひどくなるのかな………

ううん、絶対ひどくなるだけ。

だから、いじめられてるなんて、答えられるわけ…)

…え!?あ、はい!

そう、です………

(うわうわうわ。

強く聞かれて、『はい』って言っちゃった。

どうしようどうしようどうしよう。

うわーうわーうわー。

やばいやばいやばいやばい………!)」




「(今日も、いじめられなかった)」




「(今日も、いじめられなかった)」




「(今日も、いじめられなかった…)」




「(早く来ないかな………

早く来ないかな………

早く来ないかな………)

<………ガラッ>

(あ、来た………!)

………あ、あの。

ちょ、ちょっと…来て、もらえませんか?

………

………

………

…ここなら、誰もいないですよね………

………えっとそれで、ここまで来てもらったのは、あなたに、聞いてもらいたいことが、あって………

………

………えーっと、その、あの。

私、いじめられてた時は、ものすごく辛かったです。

毎日毎日、理不尽なこと言われて、理不尽な事させられて、理不尽な目に逢って………

毎日毎日、地獄みたいな、日々でした…

いつ終わるんだろう、とか。

いつまで耐えればいいんだろう、とか。

そんなこと、考えられなくなるくらいに………

卒業まで続くかと思ってて、

卒業してからも、別の人に同じことされるって思ってて…

でも。

でもでも。

それまで続いていたいじめが、表沙汰になって。

色々、大騒ぎになって………

なんやかんやで、いじめられなくなって…

いじめがなくなった直後は、全然現実味がなかったんです。

それまで日常でされていたことが突然なくなって、頭が追い付かなくなってたんだと思います。

でも、徐々に、頭でも理解し始めてきて………

ああ、もういじめられないんだなって、心でわかり始めて…

これで本当に平和な日々が来たんだなって、思いました。

だけど。

だけどだけど。

それからの日常の方が、私にとっては地獄だったんです。

いじめられていた私を、みんな腫物のように扱って。

両親も急に態度が変わって、まるで別人に入れ替わったみたいになって。

誰のことも信用できなくて、

誰のことも信頼できなくて。

一人ぼっちになってしまったんです。

でも、ちゃんとわかってるんです。

一人ぼっちだって思うのは、全部、私のせいだってことは。

私がそう思うから、一人ぼっちなんだって。

けど、しょうがないと思いませんか?

私はずっといじめられてきて、人との関わり方がわからなくて。

みんなが当たり前にできることが、私にはできなくて。

私はもう、いじめられることでしか、人と関われないんです。

だから。

だから、だから。

いじめていたあなたが停学になって。

あなたがいない学校では、ずっと、心が空っぽで…

あなたがようやく来て、嬉しかったんです。

………

あの、あのあの。

お願いします。

また、私をいじめてください。

私をいじめて、私のことを、見てください。

もう私を、一人ぼっちにしないでください」




「(今日も、いじめられた)」




「(今日も、いじめられた)」




「(今日も、いじめられた…)」




「<………ドサ>

………え、これ。生ごみ…

食べろって、ことですか………?

は、はい…

(まずいまずい。

まずいまずい。

でも………)

………えへへ」




「…キャッ!

<バタッ!>

(殴られた………

すっごく、痛い…

また、包帯増やさなきゃな………

でもこれで、

また体に、彼の傷が増えちゃった)」




「………はい、これ…

言われた通り、10万円持ってきました…

(………よかった。

ちゃんとお金用意できて………

言われた通りに、できた。

ああ…

彼は私をちゃんと見てくれている。

私は私で、ちゃんとここに生きている…

私は、私は………)

………幸せ」

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