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040 家族で姉でもある忍者の村長はあなたを絶対に一人前と認めてくれない

「それでは、承認試験を始める。

合格条件はいつものように、明日の夜明けまでに誰にも捕まることなく、この里の森から脱出すること。

鬼役の私達はお前が出発してから数刻後、お前の追跡を開始する。

合格すればお前は一人前の忍者であることを認められ、里にために様々な任務を受けることができるようになる。

全身全霊、ありとあらゆる手段、己の能力をすべて使って、最善を尽くすように。

では、試験開始」




「………入るぞ。

…まだ陽が落ちたばかりだというのに、もう布団で横になっているのか。

………隣、失礼するぞ。

………

…また、落ち込んでいるのか?

今日の試験は残念だったな。

お前も途中までは頑張ったんだが、あの隠れ身はいかん。

うまく周囲の木々に隠れているようで、違和感が半端なかったぞ。

おかけですぐに、私が発見できた。

…以前の試験よりは粘った方だけどな。

だが、まだまだ修行が足りないようだ。

これからも精々精進しろ。

………

こらこら、いつまでも落ちんでるんじゃない。

お前はいつだってそうだ。

誰かに怒られたり、修業がうまくいかなかった時、こうして布団にもぐって泣いている。

ああ、そういえば、みんなに配るはずの菓子を一人で食って怒られた時もあったな。

あの時のお前の、「どうしてわかったんだ」っていう顔は傑作だった。

甘い菓子の香りを充満させていたんだから、気付いて当然だというのにな。

………昔はそういう時決まって、夜寝ている私に泣きついてきたもんだが、今だってそうしてくれて構わないんだぞ?

…子供じゃない、か。

それは違うだろう?

いつもこうやって、私の方がお前の布団に入ってくるもんだから、自分から行く必要がなくなっただけじゃないのか?

………

ふん。図星のようだな。

だが、まあ、それが迷惑という話では決してない。

お前が私の隣で寝ていると色々忘れて安心できるように、私もまた、お前の隣で寝ていると安心できるからな。

………こうして抱き着きながら、全身でお前の匂いを感じているとな、その日どんなに心がざわめいていても、すっと心が柔らいでいくんだ。

………

………親に捨てられた私とお前は、この里で家族同然に過ごしてきた。

朝起きる時も、昼遊ぶ時も、夜寝る時もずっと一緒だった。

こうして私の方が大きくなり、里の長を任されるまでになってからはそういう時間も少なくなったが、私とて平気なわけじゃない。

いつだって時間があれば、お前とこうして一緒に過ごしたいと思っている。

…だがまあ、さすがに里の長ともなると、なかなかそういうわけにもいかない。

長とて修行をおろそかにはできないし、里の外に任務に出向くこともあれば、皆のまとめ役となって動くことも多々ある。

だからこうして夜眠る時だけが、唯一の安息の時間なんだ。

そんな安息の時間くらい、お前と一緒にいてもいいだろう。

………

…私の隣にいたいって?

ふふ、それはとてもとても嬉しい言葉だが、無理に頑張らなくとも、お前はお前でありさえすればいい。

たとえ仮にお前がどんなに忍者としての能力が欠落していたとしても、私はお前を絶対に見放さない。

なに、確かにここは忍者の集まる里だが、この里で育ったからといって、必ずしも忍者になる必要はないんだ。

忍者だけがすべてじゃない。

忍具を作る仕事だってあるし、任務をこなしてきた忍者を世話するのだって立派な仕事だ。

私は忍者になったが、お前が忍者じゃないからといって、隣にいられないわけでもないさ。

お前はお前だ。

他の誰でもない、私の弟である、唯一のお前だ。

だから、今日も安心して眠るといい。

私の胸の中に抱かれて、な」




「………

………

………

…眠ったか。

本当なら私もお前の隣で眠りたいところだが、そうもいかないか。

………

…お前の匂いは、私と混ざり合って特別な匂いになっている。

毎日のようにそれをかいでいる私は、はっきりとその匂いを覚えている。

お前がどんな行動をしようとも、一日以内であれば、はっきりとその匂いを私は感知できる。

故に、私がいる以上、お前がどれだけ試験を受けようとも、合格することは決してできない。

………すまないな。

私とて、お前に今日のような思いを繰り返しさせたいとは思わない。

…だが、いわずともわかってくれ。

忍というのは常に死と裏切りの世界。

いつ誰が死に、誰が裏切るかわからない。

私は、そんな世界にお前を巻き込みたくはないんだ。

もし仮にお前が忍者になって、任務の中で野垂れ死んでしまったら………私がどうなってしまうか、とてもじゃないが想像もつかない。

昔からお前は、忍者にあこがれていた。

だから私が先に忍者になって、長にまで上り詰めたんだ。

………これまでどのくらい死と裏切りを繰り返したかわからない。

だがそれも、すべてお前のため。

お前と死ぬまで一緒にいたいがために、やってきたことだ。

これからも私は、お前を裏切り続けるかもしれない。

でもその代わり、私と一生、共に歩いてくれるよな?

愛する我が弟よ」

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