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035 普段はしっかりしているクールな恋人。けれど病気になった途端…

「(トントントントン)

…これであとは、調味料入れてっと………

………ん。ああ、君か。

もうちょっとでご飯できるから。もうちょっと待ってて。

…今日のメニュー?

親子丼とサラダ。

あ、サラダにかけるの、ゴマダレでいい?

ん。わかった。

………うん。ありがと。

家族とか、従妹にも評判いいやつ。

だから、楽しみにしてて。

………ああ、替えのシャンプー?

そこの上の棚に入ってるよ。

…いや、そこじゃなくて、その右隣の。

(ゴトッ…)

………って、あぶなっ。

もう、あんまり無理に取ろうとしないで。

転んで怪我でもしたら、元も子もないんだから………」




「ケホッ、ケホッ。

ゴホッ、ゴホッ………

…うん、風邪。もろに引いた。

身体だるい………

…うん、今日は寝てる。

………薬?ううん、まだ飲んでない。

…あ、ちょっと待っ………

(チョン)

あ、ごめん。袖、掴んじゃって………

………えっと、その。

まだ、ここにいて?

…うん、薬とかは、あとでいいから………

………

………

………

………ちょっと話しても、いい?

ありがと。

…昔さ、盆とか正月に実家帰った時、よく遊んでた従妹がいたんだけど、ある年、その子が大きな風邪ひいてさ。

布団かぶりながら、私に「離れないで」って言ってたんだよね。

周りの大人とかは、「風邪がうつるからよしなさい」とか言ってたんだけど、その子強情で。

まあ私も、その子と仲良かったし、実家にいる間は付きっきりで看病してんだ。

風邪とか、病気になるとさ。体だけじゃなくて、メンタルも弱くなるんだよね。

それこそ、誰かのぬくもりがないとダメなくらいに。

………ん、その子の風邪?

うん、数日寝てたら治った。

まあ、私としては、実家にいる時間、全部看病に費やしたけど、全然苦じゃなかった。

ずっとあの子のそばにいたから、今すっごくあの子の気持ちがわかる。

………手、つないでてくれる?

…ん。ありがと。

君の手、冷たいね。

冷たくて、気持ちいい。

とっても安心する。

もうしばらく、このままで、ね?」




「(………ガラガラ)

………ん?

あ、やっほー。

…うん。ちょっと、車に当たっちゃって、足を、ね。

骨折だって。

見ての通り、全然ベッドから動けない感じ。

………完治まで、数か月くらいって言ってた。

………

…ごめん、せっかく来てくれたのに、何のもてなしもできなくて。

確かもらってきたお茶がそこに…

………あ、ごめん。全部、やってもらっちゃって。

………

…あ、えっと、ごめんっていうのごめん………あ。

………ごめん。

………

このまま、ずっと動ないままだったら、どうしよう…

………いや、そりゃ医者は治るっていうけどさ。万が一とか、そういうのがあるわけじゃん。

このまま悪くなって、この状態が続いたらって思うと………

………

………

………

あー、従妹の話、おぼえてる?

うん、そう、その従妹のこと。

その子さ、前に一度、骨折したことあるんだよね。

私と一緒に遊んでる時にさ、ボールが道路に出ちゃって、それ追いかけてそのまま………

それで病院に入って、今の私みたいになってたんだよね。

………

…私がお見舞いに行くとね、その子すっごい元気なんだよね。

いつも通りに、いつも以上に元気で、お見舞いの甲斐がなくなるくらいに。

でも、ね…

病院の人とかに話を聞くと、一人の時に、こっそり泣いてたんだって。

周りに気づかれないように、本当に一人の時だけ。

身体が動かないってのはさ、時間が動かないってことなんだよね。

もちろん時計の針は動いているし、窓の外で日は昇るんだけど、それでも、その人の時計はほとんど動かないんだよ。

身体が動かないのと同様、心の時計も。

一人の時になると、それをすっごく実感した。

ああ、あの時のあの子は、こんな気持ちだったんだなって。

………このまま、足が動かないままだったらどうしよう。

動かないままで、ずっとベッドに横になったままだったら………

(…ギュッ)

君の体、あったかいね。

………え。

もし動かないままでも、一生君が面倒見てくれるの?

毎日、お見舞いに来てくれるんだ。

そっか、そっかぁ………

(…ギュッ)

………今日はぎりぎりまで、こうしててくれる?」




「………

………

………

手術、しなきゃなんだって。

…そう、この間家で倒れた時、お腹痛かったんだけど、盲腸だったみたい………

あの時は、救急車呼んでくれて、ありがと。

助かったよ。

…本当に、君に助けられた。

………

…手術って、どうしよう。

…簡単な手術なんだけどね。それでも、失敗する可能性はゼロじゃないんだって。

…どうしようどうしよう。

もし、失敗したら、私は………

………

だから、そういう問題じゃないって―――

…ごめん、大声出して。

………

………

………

従妹の話、してもいい?

これまで何回か話してきた従妹なんだけどさ、実はその子………もうこの世にいなんだよね。

従妹の時も、病院で手術だったんだ。

手術前はとても簡単な手術だって、言ってたのに。

それなのに、あの子は、もう………

………お願い。

手術終わるまで、ずっとそばにいて。

誰かが隣にいないとダメ。

君が隣にいないと、どうにかなっちゃうかも。

君の温かさを感じてないと、辛いの。

君を感じていないと、張り裂けそうなの。

私の中から何かが飛び出て、私じゃなくなっちゃう…

………手、出して。

うん、そう。

ちょっとそのままで…

(ギュッ)

ふふっ。君と手と私の手、縛っちゃった。

これで、離れないよね。

君の手が触れてるところ、すっごくあったかい。

君の気持ちが、そこから流れ込んでくるみたい。

手術が終わるまでは、このままで、ね。

大事な大事な君がいれば、手術もたぶん、成功するから。

神様だって、きっとそうしてくれるよね?」

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