034 【YS】彼を愛する生徒会は今日も美化活動に励んでいる
「では、生徒会会議を始めます。
今日の議題は行内の美化活動…
もとい、彼に近づく泥棒猫の清掃についてです。
………では、書記。まずは報告を」
「は、はい………
え、えーと、朝、登校時に、彼の近所に住んでる上級生が、彼と一緒に登校してました…」
「あー、それってあいつだろ?
あのバカそうなギャル。
あいつ、まだあいつにまとわりついてんのかよ」
「………一度お灸をすえたというのに、彼女も諦めが悪いですね」
「あの程度のおしおきじゃあの子は諦めないわよ。
『近所のお姉さん』ていうアドバンテージを握っている限りはね」
「なら、一発こいつでぶん殴っとくか?
腕とか折っときゃ、さすがに黙んじゃねーの?」
「………狭い部屋の中でバッド振り回さないでくださいよ、副会長」
「ああ?別にお前に当たったわけじゃねーんだろうが、会計」
「はいはい、喧嘩はそのくらいにしときなさい、二人とも。
とりあえずまずは書記の報告が先よ」
「へーへー、わかりましたよ、会長」
「………失礼しました。会長」
「じゃあ、続けて。書記」
「は、は、はい………
えとえと、学校についてからは、同性の友人とちょっと話して、それから、授業中に、隣の席の女子生徒と、手紙でやり取りしてました」
「手紙って、女子かよあいつは。何女々しいやり取りしてんだか」
「………副会長は同じクラスなのに、どうして今驚いてるんですか?」
「あー、オレは授業中は大体寝てっからなー。
それに、あいつの席は窓際の一番後ろで、こっちは廊下側の前の方だし」
「あまり授業に不真面目なのはどうかと思うわよ、副会長」
「そりゃ寝てたのは不真面目かもしんねーけど、授業まともの受けてねーのはこいつらだって………」
「あなた以外のメンバーは成績優秀者よ。
多少授業に不真面目でも、成績が良ければお目こぼしがもらえるのがこの世の心理なのよ」
「あーやだやだ。成績で何でもかんでもきめつけられるんはさー」
「諦めなさい。副会長」
「はいはい、今度から真面目に授業受けますよーっと。
…で?その手紙でどんなやり取りしてたんだよ?
書記、お前ならどうせ、その内容も見てたんだろ?」
「は、はい…
あーっと、主に世間話のことが多くて………
でもでも、途中で女子生徒の方が、彼の好みのタイプとか、聞いてました…」
「へぇ………それで彼は、なんて?」
「あ、えっと…そこでちょうど彼が先生に当てられたので、返事は、書いてなかったです………」
「んだよこんちくしょう。大事なところで当てやがってあの先公。
今度一回、しばきたおしてやっかな」
「………しばきたおすって。さすがに退学を免れないんじゃないですか、それだと」
「さすがに部活の部長の失敗の時みたいに、私もカバーしきれないわよ。おとなしくしておいた方が賢明ね」
「へいへーい。
…つか、よくそんな文面まで見えたな。
今日は一体どこに隠れたんだよ?」
「あの………彼のすぐ後ろの、ロッカーです」
「………ロッカーの中って…本当にここには、こそこそするのが好きな方が多いですね」
「っていうか、あいつの後ろのロッカーって………オレのロッカーじゃねーか!
何勝手に隠れてんだよ。
っていうか、あのロッカー、中に荷物が大量に入ってなかったか?とても人が入れる感じじゃ………」
「あのあの………ほとんど、捨てました」
「おい、書記。何で人のもの勝手に捨ててんだよ」
「ひぃ………ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。
…あぅ、でもでも、食べかけの食べ物とか、何が入ってるかわからないペットボトルとか、古い漫画雑誌とか、異臭を放つジャージとか、ゴミなのかと、思って………」
「ゴミじゃーねだろ!」
「ゴミでしょ」
「………ゴミですね」
「いやいや、まだ食えるもんとかあっただろ、絶対。それに漫画はまだ読むし、ジャージだって洗えば………」
「………ちゃんと洗ってないから異臭を放つんですよ」
「まあ、そっちの清掃もご苦労様っていうことで。
それで続きはある、書記?」
「は、はい…
昼休み、ですけど…転校生と一緒に、ご飯食べてました」
「………この間学校に来た転校生ですか」
「いったい彼は何人、女の子を囲めば気が済むのかしらね。
同じクラスでもないのに、どうやって知り合ったのか………」
「えと…それで、転校生が作ってきたお弁当を、その………『あーん』して食べさせてもらってました…」
「ああっ!?
おいおい、お前それ黙って指くわえて見てたのってかよ!?
」
「まあまあ、書記の性格を考えたら、仕方ないことでしょ」
「仕方なくねーだろ。つか書記だけじゃなくてお前もさあ………」
「………まったく、嘆かわしいですね。食事の管理も、彼の健康にとっては大事だというのに」
「でも、確かにそれは見過ごせないわね。これは早急に対処する必要がありそうだわ。
近所に住む上級生。
隣の席のクラスメイト。
転校生。
どうしましょうね、みんな。この泥棒猫達を?」
「だから言ってんだろう。こいつでぶん殴れば一発で済むはなしだろってさ」
「………発想が野蛮すぎるんですよ、副会長は。
もう少し、クールに解決するべきです。
そう例えば、彼を牢屋の中に閉じ込めておいて、他の女性との接触を断つ、とか。
それで牢屋にいる間、私の愛をささやき続ければ、他の女性になびくこともなくなるでしょう」
「お前の方が怖いこと言ってんだろーが………」
「はいはい、二人とも落ち着いて落ち着いて。
彼の将来を阻害するような解決案は却下よ。
なるべく彼に気づかれないように、こっそり水面下で事を進めるのが一番なのだから。
そう、邪魔な蛆虫達を影で闇討ちするとか、それぞれの家庭を崩壊させて退学をやむなくするとか、ね」
「…あー、やっぱり一番怖いのは会長だわ」
「………副会長に同じく」
「ただのものの例えなのに失礼ね」
「会長の場合、例えになってねーっつーの。
…ほら、こないだクラスの委員長対処した時なんかさあ………」
「………ああ、たしかにあれは怖かったですね。私でさえ、やり過ぎかなと思ったくらいですから」
「会長、こ、怖かった………」
「いやいや、あれはあの女狐が………」
「………あ」
「ん?どした書記?」
「あ、えっと、カメラ、だけど…今、彼が校舎裏の方に………」
「………校舎裏、ですか?今は確か、部活の時間のはずでは?」
「どうして彼がそんなところに用事があるのか、原因はわかるかしら?」
「えと、えとえと………あ、下駄箱の中に、手紙、入ってたみたいで………それを読んで、向かってるんだと、思う」
「ヤンキーからの呼び出しか………ま、それはあり得ないか。副会長でもあるまいし」
「いや、オレはヤンキーでじゃねーって、いつもいつも………」
「………それよりも、先にこっちの対処の方が先でしょう。ヤン………副会長」
「おいこら。今ぜってーわざと………」
「確かに会計の言うとおりね。これは早急に対処する必要がある案件だわ。
書記はそのまま、彼の動向を追ってちょうだい」
「は、はい………」
「副会長は現場近くで待機。ああでも、こっちの指示があるまで何があっても動かないでね」
「ういーっす」
「会計はここで私と一緒に呼び出し相手の特定。いいわね?」
「………はい」
「それから………庶務はいつも通り、彼のナイトとして、ボディガードに戻っていいわ。何かあったら、あなたの判断で手を出しても構わないから」
「………………………ん」
「それでは今日も、私達が愛する彼の、彼に対する、彼のための生徒会を始めましょう」