028 生徒会長の右腕だった僕。引退後も会長のそばにい続けてたら…
「(パチパチパチパチ)
ありがとう。
生徒会長の私が、今日この日までやり遂げられたのは、ひとえに君達のおかげだと思っている。
修学旅行や体育祭、文化祭など、多くの行事があったが、みんなと協力して無事、成功させてきた。
日常生活においても、各教室の空調設備や図書室の本の増設、屋上の常時開放など、より良い学校を作るために、多くのことを成し遂げてきた。
私一人では決してできなかったことだと思う。
本当に、ありがとう。
(パチパチパチパチ)
………
…ふぅ。この椅子に座るのも、今日で最後か。
(…コト)
………コーヒーかい?ありがとう、副会長。
書記や会計もそうだが、特に君の活躍がなければこの生徒会は成り立っていなかったと思うよ。
………謙遜するな、君は私の右腕として、その手腕を存分に発揮してきたじゃないか。
特に文化祭のステージは圧巻だったな。
君が芸能人をゲストに呼んだり、集客のためのアイデアを出さなければ、あそこまで盛り上がらなかっただろう。
次期生徒会長として、これからも活躍を期待しているよ。
…まだまだ私には及ばない、か。
そんなことはないよ。君は私が選んだ男だ。その人間性やカリスマ、実力は私が保証する。
………
………
………
あー、それでだな。私は今日で、この生徒会を引退するわけだが…
………んー、えっとだな…
もしよかったら、なんだが………
(…コホン)
この先も私の右腕として、そばにいてくれないかい?
私には、君が必要なんだ。
………そうかそうか。ありがとう。
君ならそう言ってくれると、信じていたよ」
「…あ、それも食べたい。
あーん。
………
おい、どうした。早く食べさせてくれ。
あーん…
(パク)
うん、実に美味しい。やはりこのお店のパフェは絶品だな。
もう一口頼む。
あーん。
(パクパク)
…う~ん♪
………ん?毎日通ってて、受験勉強はいいのかって?
何を言ってるんだ、君は。
私には受験勉強なんて必要ない。
なぜなら、私は受験なんてしないからね。
………就職?
いや、就職もしないよ。当たり前じゃないか。
………いやいや。
実家の仕事を継ぐとか、そういうわけでもないよ。
第一、私の両親が大企業の社員で勤め人だというのは、君も知っての通りだろう。
ならば卒業後はどうするのかって?
………決まってる。君に家に住むつもりさ。
高校を卒業したら、親元を離れて一人立ちしなければならないからね。
だから、君の家で世話になるのは当然だろう。
………そんな部屋はないって?
別に、そんなの君と一緒の部屋で構わないさ。
君の家がほとんど両親不在なのは承知している。
まあ、君が私のパートナーである以上、両親に隠す必要もないが、気兼ねなく暮らせるという意味ではそっちの方がいいだろう。
なんなら、君が卒業したら別に部屋を借りるのでもいいよ。
まあ、どっちにしろ決めるのは君だから私がとやかく言うわけではないが。
とにかく、卒業したら私は君の部屋で一緒に暮らす。
私のお世話をする以上、そっちの方が都合がいいしね。
食事や家事はもちろん、私の着替えやお風呂も手伝ってもらうからには、一緒の部屋の方が便利だからね。
毎日の食事は食べさせてもらって、お風呂で体を洗ってもらい、君の子守歌で寝かしつけてもらう。
ふふふ、実に待ち遠しいな。
今は学校という制約がある以上、それができないのは仕方のないことだがね。
………卒業後は一緒には暮らさない?
何を言ってるんだ?
君は私の右腕になると言ってくれたじゃないか。
右腕。
文字通りの私の右腕だ。
人間は右腕がなければ生きていけない。
生きていくこと自体はできるだろうが、それでも生活に一定の不自由を強いられることには違いないだろう。
そんな右腕に、君はなってくれるといった。
それはつまり、私の生活のすべてを私の代わりに担ってくれるという意味だろう?
ああ、だが安心してくれ。
私はそこまで、物欲が高い方ではない。
ブランド物の高級バッグや腕時計を君にねだったりはしないさ。
いやそもそも、基本的に家の中で過ごす以上、外出する必要さえないと言える。
たまに今日のように外出して、おいしいパフェが食べられれば、それ以上の贅沢は言わないさ。
私の生活の一通りを面倒見てくれれば、それ以外は自由だ。
あ、もちろん浮気は駄目だぞ。
まだ経験はないが、おそらく私は嫉妬心が強い方だと思うからな。
生徒会の時も、書記や会計と楽しそうに話しているのを見ているだけで、もやっとしたものが浮かんだ以上、下手な浮気は止めておきたまえ。
………上手な浮気も勘弁だがな。
………
…思えば、長い間一緒にいた生徒会のメンバーでさえ、私の本質に気づいたのは君だけだった。
人一倍、誰よりも頑張っている私を見ながら、その実、本来まったく頑張りたくない人間であるのを見抜いたのは、ね。
私が頑張っていたのは、周囲の期待感に応えるもの。
周囲が期待するから、その周囲の期待に応えるため、私は頑張ってきた。
本当は何一つ、やりたいなんて思っていないのに、だ。
そんな私を見て、こんなことを言ってくれたよね。
『頑張らなくてもいい』って。
それを聞いて以来、私は君の前ではちょくちょく仮面を外すことにしたんだ。
仮面の中の私を知っているのは、君だけだからね。
生徒会室でお昼寝したり、屋上でお昼寝したり、空き教室でお昼寝したり…
実に優雅で無駄な時間だったな、あれは。
………さて、そろそろ出ようか。あんまり店に長居していると、お店に迷惑になってしまうからね。
………ほら、どうした?
どうしたって、どうしたはどうしただ。
早く私を運んでくれたまえ。
………違う違う、おんぶじゃなくてお姫様抱っこだ。
その方が、君の顔が間近で見られるからね。
愛しい愛しい君の顔を、ね。
…ん、ありがとう。
愛しているよ。
愛しくて恋しくて大好きで、誰よりも頼りになる、私の右腕くん」




