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262/272

262 とある地でのドラゴン娘の語り草。勇者と共に世界を平和に導いた彼女はそこでかつての栄光の軌跡を振り返り…

「…なあ、お主は覚えているか?

ほら、かつて我とお主が魔獣達の大軍を相手にした時があったろう。

一個一個は我らの足元にも及ばない存在だったが、それが数千、数万となれば話は別だった。

我は空中、お主は陸の魔獣を相手取っていたが、我がいくら炎を放とうとお主がいくら剣を振ろうと、敵兵は一向に減る気配がなかった。

どのくらい戦った頃だったかのう。

お主の剣が折れて、我の翼に牙が穿たれ、しかしなおも迫りくる敵兵の数々。

あの時はもはやお互い駄目かと思った瞬間だったが、そんな時にお主が言った言葉じゃ。

『これが終わったら獣肉の山もりを食べよう』

なんとまあ滑稽な言葉と思ったもの。

ただ、そのあまりにもな言動に我も肩の力が抜け、そこからはお互いがお互いの背を守ることで何とか事なきを得た。

わからんもんじゃな、他者との絆というものは。

我らが出会った頃には想像の欠片もできないことじゃったよ。

確かそう、お主が我の縄張りにやってきたのが事の発端じゃった。

最初はお主、我が世界を破滅に招く諸悪の根源じゃと、本気で思っていたのだったかな?

我は竜族の最期の生き残り。

地上最大最強とも言われる一族の末裔。

そんな我がすべてを裏で牛耳っておるのだと、心の底から信じ切っておったからに。

話し合いは話にならず、とにもかくにも、戦いの火蓋は切って落とされた。

諸悪の根源扱いはお主の勘違いだったが、しかし地上最大最強という通り名は決して紛い物ではなかった。

だからこそ、お主という強者に出会えたことに、驚きと同時に喜びもこみ上げて来たものじゃ。

それまでの我は、同族以外のやつらには決して負けなかった。

他の種族など、そこら辺の石ころと変わらない路傍の石と同じじゃった。

しかしお主が現れ、対等の戦いができたことは、歓喜するほどの喜びじゃった。

結局戦う内に勘違いが解け、勝負はうやむやになったが、果たしてあのまま勝負を続けていたらどうなっていたかは今はもう闇の中じゃな。

全てが謎のまま、深い奥底にしかない真相。

果たして、お主はどう思うかの?

………

(ザッザッザッザッ)

………なんじゃお主らは?

あやつとは比べ物にならない貧相な格好をしておるからに。

ここに何の用かの?

………

…は?お主、今なんと言った?

ここは我をあやつとの神聖な場所じゃ。

どうしてもここを荒らすというのなら、お主ら、覚悟はできるのだろうな?

(ピューッ)

………ったく、身を翻して去っていきおったわ。

………すまんすまん。

少々下卑た賊が来て追ったからに。

だが追い払ったから安心じゃ。

………えーと、何の話をしておったのだったかな。

お主は覚えておるか?

………

ああ、そうそう、お主の雄姿についてじゃたな。

今でもまるで昨日のことにように思い出せる。

この世に混沌をもたらしていた最凶最悪の闇の渦。

全ての攻撃をすり抜け、あらゆる魔力波を無に帰す出鱈目な存在。

これ以上ない全くと言っていいほど勝機が見えない相手じゃったが、その時の我は決して敗北する様を想像していなかった。

なぜなら、お主が隣におったからの。

お主が近くにいればいるほど、不思議と負の想像は浮かんでこず、むしろ正の想像がごまんと溢れかえってきた。

世界に平和が訪れたら、お主とどう過ごすかさえ、頭の片隅をよぎっていた。

お主と相対すれば決して何者にも敗北しまいと、心の奥底から思っておった。

………そう、確かにあの時、我らはあの混沌の闇の渦に勝利した。

世界を破滅に招く全ての諸悪の根源を、この世から取り払うことができた。

だが、そんな勝利とは引き換えに、お主の命はその地で散ってしまった。

全身全霊、命を賭した最後の一振り。

己の魔力を剣に込め、他の力を全て代償にした剣劇。

それによって、目の前の敵は倒れたが、それはお主も同じだった。

華々しく、神々しく、そして凛々しく散っていったあの時のお主の様は、我のこの目に焼き付いておる。

そう。あれこそが、お主を見た最後の瞬間だからの。

………なあ、どうしてお主はあの時命を懸けてまで、世界を救ったのじゃ?

自らの命を引き換えだとわかっていながら、剣を振ったのじゃ?

竜族は長寿の一族。

ゆえに、我よりもお主がこの世に去ることは初めからわかりきっていたこと。

だが、あの瞬間で、あの時に命が費えるとは、思いもしておらなかった。

今ではもう、お主が眠るこの場所で、墓守をするくらいしかやることがない。

………お主は、どうしてあちらに先に行ってしまったのじゃ?

我はもっともっとお主と戦い、語らい、残る余生をのんびりと添い遂げたかった。

愛を育み、子を成し、光る未来を過ごしたかった。

………なあ、どうしてなんじゃ?お主よ?

………

………

………

………

………

………

………

………

………

………

………答えぬのであれば、我もそろそろ、そちらを赴くというのも、いいかもしれんの。

ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ。

ハッハッハッハッハッ。

ハッ………」

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