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258 野球上手の姉弟。姉はかつての天才野球少女、弟は現在のエース。甲子園へと突き進むその裏で…

「(ヒュッ)

(カキーン)

(バシッ)

………

………

………

…お疲れさまでしたー!

………

…センパイ、練習お疲れ様です。

今日も疲れましたよねー。

………

…ええ。

予選まで日も近いですし、みんな気合入ってましたよね。

………ええっ?

ああ、まあ、ボクも部員の一人なわけですし、そこそこ気合が入ってなくもなかったというか………

………

…もう、やめてくださいよ、先輩。

『エース様』とか、全然そういう柄じゃないですから、ボク。

今回たまたまボクがレギュラーに選ばれただけで、上手い人なんてもっといますって。

そういうセンパイだって、4番を任されてるんですから、センパイの方がずっとずっと…

………

…ほら、センパイだってボクと同じような言い訳してる。

そういうとこですよ、ボクが言いたいのは。

…まあでも、ボクはともかく、センパイの実力は確かですよね。

ほらセンパイ、この間スカウトの人と話してたじゃないですか。

よそからスカウトが来るなんて、相当なものですよ。

………

…えっ?ボクのことも話してたんですか?

やだなあ、センパイ、いくらなんでもそういう冗談は………

………本当なんですか。

それはまあ、ありがたいというかおこがましいとかなんというか…

…コホン。

ま、まあとりあえず今は次の試合ですよ。予選。

予選を勝ち上がらないことには甲子園なんて夢のまた夢ですからね。

今度の試合、ボクと先輩で絶対に勝ちましょうね!」




「(スタスタスタスタ)

(スタスタスタスタ)

(スタスタスタスタ)

(バンッ)

よっ!お疲れー。

練習終わったとこ?

………そうなんだー。じゃあ一緒に帰ろ―。

…にしても、毎日毎日頑張ってるねー。

よくもまあ授業終わって疲れてるのに、そこから何時間も練習できるよね。

尊敬尊敬―。

………んー?

ワタシは帰宅部だよ。前に言ってなかったっけ?

………ああ。まあ、学校に残ってたのは、友達とかと喋ってたとかそんな感じ。

そういう友達付き合いとかいろいろあるの。そっちとは違って。

………部活?

うーん、別に入る気なかったかな。

だってほら、あんたみたいに放課後毎日毎日残って練習するとか、だるいからね。

………

それは昔の話でしょ。

『スーパー野球少女』とか、そりゃ昔は色々散々担ぎ上げられたけど、でもあんなの、女子の方がちょっと成長早いっていうだけの話だし。

今じゃもう全然よ、全然。

それに、女子じゃどっちみち野球部入っても試合出れないし、ソフト部入っても野球とは違うからね。

もうあの頃のワタシとは違うのです。

…まあでも、キャッチボールくらいなら付き合ってあげてもいいよ。

………えー、練習で疲れてるって?

もう、男なのにだらしないぞ。

(ぐりぐり)

………あ、そうだ。うちの弟、どう?ちゃんとやってる?

………

…ふーん、ちゃんとやれてるならよかった。

結構あの子、トロいところあるからさ、ちゃんとやれてるか心配で心配で。

………別にいいでしょ、心配くらいしたって。

どこかの誰かみたいなセンパイにいじめられてないか、心配で心配で。

………

…そ。上手くやれてるならよかった。

………

…えー、弟をそんな隠し子みたいに言わないでよ。

でも、一才違いって結構大きいよ?

それに男と女で、一緒に行動するっていうのもあんまりなかったしね。

それにそれに、昔は弟、野球もやってなかったからそっちが知らなかったのも無理ないでしょ。

………

…うんうん、そういうものだよ。

………

…ん、この荷物?

いいよ別に、これくらい自分で持てるし。

これくらいのもの持てないほどやわじゃないんだから。

………え、中身?

もう、女子にそういうこと聞いちゃダメだぞ。

そういう悪い癖、いい加減に直した方がいいと思うな」




「(ヒュッ)

(バシッ!)

………よしっ!

………

………ありがとうございましたー!

………

…センパイっ!

今日も何とか勝てましたねっ!

いやー、本当に今日の試合、危なかったですよ。

途中で負けちゃうんじゃないかってひやひやしました。

………いやいや、たまたまですよ、たまたま。

上手く0点に抑えられたのだって、味方の守備が良かっただけですって。

それより先輩の方がすごいじゃないですか。

なかなか相手投手を攻略できなかったのに、かろうじてセンパイが打ってそれがタイムリーになって、そのままそれが決勝点になったんですから。

今日勝てたのはセンパイのおかげですっ!

………今日勝って、次が準々決勝。

甲子園も見えてきましたね、センパイ。

…え、そりゃあそうですよ。

野球やってる人なら、誰だって甲子園は夢ですもん。

それにまた一歩、近付いたんですから。

それにそれに、センパイは今年で引退…

センパイが甲子園に行けるチャンスは、今年で最後なんですから。

より一層、負けられませんよ。

『ボクが甲子園に連れて行きます』なんていうのはさすがにおこがましくて言えませんけど。

でも、二人で頑張って、絶対に甲子園に行きましょうね、センパイ」




「(スタスタスタスタ)

………あっ、おつかれー。

ここから出てきたってことは、今日はここで試合だったの?

………ふうん、そうなんだー。

………

…ん?いや、違う違う。

今日はちょっと買い物に来てて、たまたま通りがかっただけ。

今日試合があるなんてことも知らなかったよ。

………

…そりゃそうでしょ。

試合があるのも知らなかったのに、応援に来るとかないでしょ。

それで、試合の結果は…まあ、聞くまでもないか、その顔を見れば。

勝ったんだ?よかったじゃん。練習が無駄にならなくて。

甲子園まであともうちょっとなんじゃない。よく知らないけど。

………

………あー、昔はそんなことも言ったっけ。

いやはや恥ずかしい。

『ワタシの夢は甲子園です!』なんて、テレビか新聞のインタビューで答えちゃって、ああ恥ずかしい恥ずかしい。

女子が試合に出れないのも知らないで、いったい何言ってたんだろうね、当時のワタシは。

………

…もうやめてよ。あの頃はかっこよかったとか言われてもさ。あの頃と今のワタシは違うの。

『ワタシが甲子園に連れて行く』なんていったのも、今じゃ黒歴史以外の何物でもないんだから。

そういうのは、弟とかと勝手にやってて。

ま、応援くらいはしておいてあげるからさ。心の中だけだけど。

(スタスタスタスタ)

あれ?あの人って………

………ああ、キャプテンさん。こんにちは。

ワタシそろそろ、帰るところなんで、お先に…

………え?

こっちじゃなくて、ワタシに用事、なんですか?

しかも二人でとか。

えー、なんだろ、ワタシとか告白されちゃう感じですかー?

あー、じゃああんたはあっち行ったあっち行った。

シッシッ。

(スタスタスタスタ)

………で、ワタシに何の用ですか?

まさか本当に告白とかじゃ…

………

………

………

…えーと?一体何のことですかね?

いきなりそんなこと言われても、よくわかりませんけど。

………

………

………

あー。はあ………

………

………

………

はー、そっかそっか、もう全部、バレちゃってるんですね。

はい、キャプテンさんの言う通りですよ。

今日の試合、うちの野球部のエースでマウンドに立ってたのは、ワタシです。

まー、そりゃあバレますよね。ワタシに弟がいないのなんて、調べればすぐにわかることですし。

………なんでってそれは簡単なことですよ。

野球部に入って甲子園に行く。

そのために、男に成りすました。

だから男のフリして野球部入ったんですよ。

…でも、なんでバレたんですかね?

ワタシ…いや、こうみえてボク、結構うまくやってたと思うんですけど。

………

…あっちゃー。着がえた後の姿見られたんですかー。

今日のこの球場始めて来たから、間取りにちゃんと気を遣ってなかったのが原因ですかね。

次からもっともっと、気を付けないようにしないと。

まあ、それはおいおい考えるとして、とりあえず今は………あ、キャプテンさん、ちょっとこれ借りますねー。

………え、このバットをどうするかですか?

それはもちろん―――

(ブンッ)

(ガツン)

―――口封じですよ。

ワタシの、ボクの正体を知ったからには、その口を閉じてもらわないといけない。

彼と、センパイと、甲子園に行くには、正体を知る人はみんな、邪魔者だから。

―――

―――

―――

…あーあ、これでキャプテンもリタイアか。

守備範囲が広くて強肩のキャプテンがリタイア。

また一人、いなくなっちゃった。

足の速いショートも、バントの上手いレフトも、投手もできるサードも、みんなみんないなくなっちゃった。

まあでも、悪いのはワタシでも、ボクでもない。

悪いのは、正体を知ったあいつらなんだから。

…とはいえ、諦めちゃいけない。

というか、エースと4番がいる限り、エースが抑えて4番が点を取れれば問題ない。

次の試合も勝って、次の試合も勝って、その次も勝てれば………

あの頃の夢は、絶対にかなえてみせるよ。

二人で一緒に、甲子園に行こうね。絶対に」

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