257 何度も命を狙われるお嬢様に今日もまた彼はボディーガードとして雇われる
「………
………
………
(コンコン)
………どうぞ、お入りくださいまし。
(バタン)
………おやおや、これはこれは。
またあなたの顔が見られることになろうとは。
もしかしてあなた、私のことが好きで私のことを付け回していらっしゃるのかしら?
おお、怖い怖い。
………
…冗談ですわ。本気にしないでくださいまし。
そういう真面目一辺倒では、人とのコミュニケーションがうまくできませんことよ。
………
…さようで。
まあいいですわ。
それより、今回あなたに連絡しましたのは、またあなたに私のボディーガードを務めて欲しいからですわ。
明後日、私は船上にて行われるパーティーに参加しなければなりませんの。
その船上において、私に事を成そうとする不届き者から守ってほしいのです。
………
…致しませんよ。そんなこと。
いくら不届き者を警戒しているからといって、それでパーティーに不参加とは当家の沽券にかかわりますもの。
この私に意見するなど、少しはご自分の身分を弁えたらどうなのかしら?
ただでさえあなたは、私を付け狙っている不届き者達を、何度も何度も取り逃がしている弱輩なのですから。
………
…ああ、でも。その身体能力と勇気ある豪胆さは買っておりますの。
だから今回のように何度も何度も、あなたの力を借りているのですわ。
………
…ええ、もちろん。無事に守ってくださった暁には、いつものように報酬をたんまりと。
命あっての物種。報酬をけちるなどという真似は致しませんのでご安心を。
(ジリリリリリリッ)
…あら、失礼、電話ですわね。
それでは今回のパーティーも、あなたの手腕に期待しておりますので。
ごきげんよう。
(バタン)
(ジリリリリリリッ)
………はい、もしもし。
ああ、あなたですの。
………
…ええ、ええ。
それはもう、手はず通りで構いませんわ。
………
…はい?
それはもちろん、先日申しあげたとおり、本気でやってくれて構いませんわ。
遠慮する必要などみじんもありません。
そう、それこそ、本気で私の命を奪うつもりでやってくれて、かまいませんことよ?
………
…ええ、ええ。
では、船上のパーティーにて。
ちゃんと私のことを狙ってくださいまし、殺し屋さん。
(カチャッ)
………ふふ。
『死んでもいいのか』ですか。
もう少し味のある言い方はできないのかしら?殺し屋さんというのは。
…死んでもいいのか問われれば、命を落とさなくてもよし、そして命を落としてもよし、ですわ。
命を落とさなければ、また殺し屋を雇って、あのボディーガードを雇うことができる。
ボディーガードと私は共同体。その仕事の間中、濃密なひと時を過ごすことができますもの。
しかしまた、命を落とすことになっても、それはまた僥倖の出来事。
だってそれは、あのボディーガードの目の前で命が尽きるということ。
最後の一瞬、命の灯火が燃え尽きるその瞬間まで、ボディーガードとの時間を共にできる。
…そして、私がいなくなった後も、ボディーガードの心の中で私は永遠を生き続けることができる。
ゆえに、命を落とそうが落とさまいが、結果として私の目的は達することができるのですわ。
私という存在が、あのボディーガードにとってかけがえのない存在になるという目的は、ね。
………
…さあさあさあさあ、取り急ぎ、ドレスを選ばなければいけませんこと。
あのボディーガードと過ごす時において、貧相な格好で過ごしたくはありませんもの。
あのボディーガードの目に焼き付くくらい、とびっきり派手なドレスを用意しないといけませんこと。
…パーティーが、楽しみですわね。
本当に」




