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249 数年前にいなくなってしまった妹。妹はお兄ちゃんのことが大っ嫌いで…

「…お兄ちゃんのバカ」




「もう私のことはほっといて!

あっち行ってよ、お兄ちゃん」




「お兄ちゃんなんて大っ嫌い!」




「………

………

………

………あ、目が覚めましたか?

こんなところで居眠りしていると、風邪ひいちゃいますよ。

………

…何か、悪い夢でも見てたんですか?

顔色が優れないようですし、さっきも随分うなされていたみたいですから。

………

…妹さんの夢、ですか。

妹さんとの間に、何かつらい思い出でも?

………

…妹さんとあまり仲が良くなかったんですか。

嫌いだって言われたり、避けられていたり、最後には無視を。

何か、そうされることに思い当たることは?

………ない、と。そうですか。

うーん、それはまあ、妹さんの性格というか考えというか、そのあたりに原因があるのであって、あなたに問題があるわけではないと思いますよ、きっと。

………

…え、ああ。それとつらい思い出の話はまた違うんですか。

では、何が?

………

…ふむ。その妹さんが、突然いなくなってしまったんですか。

置手紙とかそういうのもなく、突如として…

………

…あ、なるほど。

妹さんがいなくなったのが、ちょうど5年前の今日なんですね。

その日と同じ日付だからこそ、妹さんが夢に…

家出とかだったらまだいいですけど、何か事件に巻き込まれているとしたら、あなたとしては気が気ではありませんよね。

………

…え、あなたは家出だと思ってるんですか。

………

…ああ、いなくなったその日に、ちょうど妹さんと大喧嘩を。

それで、あなた自身のせいではないのかと、自分自身を責めているんですね。

………

…あなたが自分を責める必要は無いと思いますよ。

経緯はどうあれ、妹さんは妹さんの意思で家からいなくなったわけですから、それは妹さんの自業自得。

もちろん事件の可能性だってゼロではないんでしょうけれど、でもどっちにしろ、それはあなたのせいではないんです。

当日にした喧嘩だって、その前から仲が悪かったんですから、それが原因だって思い込むことはありません。

案外、妹さんは、あなたの事なんかすっかり忘れて、悠々自適に過ごしているのかもしれないんですから。

(ギュッ)

………大丈夫ですよ。

妹さんがいなくなった心のスキマは、きっといつか埋まります。

妹さんのせいで開いたスキマを、わざわざ妹さんで埋めなくてもいいんです。

その代わりになるものであれば、なんだってあなたの心を癒してくれるはずですから。

(ズイッ)

………

…え、ああ、ご、ごめんなさい。

落ち込んでいるあなたを見ていたらつい、抱きしめたくなってしまって。

急にそんなことして、ご迷惑でしたよね。

………

…そうですか。そう言ってもらえるなら、とっても嬉しいです。

………

…ん、ああ。もうこんな時間なんですか。

あなたはこれから…ああ、友人との約束ですか。

―――もう少し、一緒に居たかったのにな。

…あ、いえ、なんでもありません。

…ええ、それでは、また今度。

(スタスタスタスタスタ)

………

………

………

………まだ、忘れられてないのかな。

もういい加減妹のことなんか、忘れてしまったらいいのに。

その妹は、心底お兄ちゃんのことが嫌いで。

嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで、心の底から嫌いだった。

だからつらく当たって、喧嘩して、無視していた。

お兄ちゃんから離れたくて、家を出た。

家を出てからの妹は、それはもうかつてないくらいご機嫌に暮らしていた。

お兄ちゃんと一緒の家じゃなくて、お兄ちゃんの側じゃなくて、お兄ちゃんがお兄ちゃんじゃなくて。

人生でそれ以上ないくらいに、幸せに暮らしていた。

お兄ちゃんがお兄ちゃんでなくなったことに。

………

…そう、そんな妹のことなんか、もう忘れてもいいんだよ。

妹はもう、お兄ちゃんに思い出して欲しくもないんだから。

忘れてもらうことが、妹の幸せ。

お兄ちゃんの心から消えることが、至高の幸福。

妹という存在でなくなることこそが、たった一つの願い。

………

だから今私は、ここにいる。

あなたの側にいられる。

あなたに近付いて、付き添って寄り添って、するりとその心のスキマに入り込むことができる。

あなたの心に入るのが、私の幸せ。

あなたにとっていつも隣にいる人間になるのが、至高の幸福。

あなたのかけがえの存在になることが、たった一つの願い。

………

でも本当に、鈍感だな。

最後の最後まで、妹がお兄ちゃんを嫌いな理由がわからなかったんだから。

妹がお兄ちゃんを嫌いな理由。

それは、妹だとお兄ちゃんと結婚できないから。

その血縁がある以上、永久に結ばれることは永久になくなる。

だからずっと嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで嫌いで、嫌いだった。

でも、されど、しかし。


妹じゃなくなった私は、あなたと結婚できる。


お兄ちゃんがお兄ちゃんでなくなったからこそ、一生を添い遂げられる。


…本当に、鈍感な人」

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