248 バレンタイン当日。一個ももらえずに帰ろうとするところをクラスメイトに呼び止められて…
「(トボトボトボトボ)
…おーい。
何しけたツラして歩いてるの?
授業も終わってようやく解放されたところなんだし、元気だしなって。
(バンッ、バンッ)
…って、全然死んだ魚みたいな顔治んないね。
どうしたの?何かあった?
………
………
………
………黙秘権か。
うーん、そうだねー、じゃあ私が当ててみようかな。
………
…あ、わかった!
今日バレンタインじゃん。
もしかしてもしかして、一個もチョコ貰えなかったとか?
………
…うわー、わかりやすいくらいに図星の顔だー。
しょうがないなー。
(ゴソゴソ)
………はい、チョコレート。
………
…えー、文句なんか言わないでよー。
いくら30円出せば買えるものだからって、チョコはチョコでしょ?
喜びなって。
………
…いや、そりゃあね?
私だってバレンタインにあげるならもっとましなチョコ用意したかったよ?
でもでも忙しくてさ、そんなチョコしか用意できなかったの。
だからそれで勘弁してって。
………
…何が忙しいかったのかって?
そりゃもちろん、バレンタインだからでしょ?
バレンタインともなると、他の人達もチョコ用意し始める頃なんだよねー。
一週間くらい前からかな?
友達のチョコの買い出しに付き合って、君にあげる用のチョコを選んでる友達は、気付かれないようにこっそり財布盗んだんだ。
もちろん財布自体は返すんだけどね、チョコを買えないようにお金だけ抜き取っておくの。
ちょうど足りないくらいだけ残しておいて、それ以外はこっそりと拝借しておく。
…あ、もちろん。そのお金は後で返しておくよ?
人のお金取ったら泥棒なんだし。
…で、自分で手作りするような子の家には作ってるところにお邪魔してね。
手伝うと見せかけて、的外れなレシピを教えてあげたり、作ってる途中に塩混ぜて台無しにしたり、チョコそのものをつまみ食いのていで食べっちゃりしてね。
おかげでちょっとだけ太っちゃったよー。
ほら見てよ、このお腹のお肉。
ぷにぷにとか超イヤだー。
…それで、昨日は君用のチョコ作ってる子の家に忍び込んで、完成したチョコを壊しておくんだ。
変なところに隠している子もいてさー、探してる途中で電気ついた時には本当焦っちゃったー。
………あ、そうそう、その途中で自分で用意しているの忘れてて、寄り道したコンビニでそのチョコ買ったんだ。
交通費とかで財布マジピンチだったから、そのチョコしか買えなかったんだよね。
家帰ってお金取りに行くことも考えたんだけど、さすがにそんな時間なかったし、今日のこと考えるとあんまり夜更かしもできないかなって思ったんだ。
…そして、今日。
今日は今日とて大変だったよー。
朝は3時には起きて、まず誰よりも最初に学校に登校して。
君の下駄箱と机、あとロッカーを定期的に巡回。
後輩とか先輩とか同輩とか、昨日までに対処できなかった子が入れたチョコを、発見しては叩き潰してすりつぶして焼却炉で燃やしてさー。
あ、用務員さんに見つかりそうになった時は焦ったなー。
焼却炉って、勝手に火つけちゃダメなんだね、焼却炉なのに。
まあ焼却炉がダメなら、下水道に流しちゃえばよかったんだけどさ。
…で、チョコ置く派の人のチョコはそんな風に処分しつつ、君に直接渡そうとする人を徹底的に粛清粛清。
結構強引でワガママな子もいたけど、ちゃんと話してわかってもらえてよかったかな。
中には泣き叫ぶ子もいたりして怖かったんだけどね。
なんでチョコ渡せないくらいで泣くのか、意味わかんなかったなー。
…まあでも、そんなこんなで君に渡るチョコが全部全部差し押さえることができて良かったよー。
いやあ、本当疲れた疲れた、今日一日。
でもでも、その苦労のおかげで、君へのチョコがなくなったとも思えば、達成感とかかなり出てくるよ。
あー、甘いもの食べたいなー。
…って、別にそのチョコ食べたいって意味じゃないからね。
私、そこまで食いしん坊じゃないし。
あっ、そうだ、そんな安いチョコになっちゃったお詫びに、そのチョコ、私が手ずから食べさせてあげる。
こんな可愛い可愛い女の子の手で食べさせてもらえるなんて、感謝してね。
(ビリッ)
じゃあ口開けてー。
はいっ、あーん」