244 売れ残りの奴隷二人。片方が買われる。そしてもう片方が買われた時の二人の関係は…
「………
………
………
………なあ、生きてる?
…ん、まだ生きてるね。
………だって、そりゃそうじゃんか。
こんな狭い檻に二人押し込まれて生活してて、食事も何日かに一回で、いつころっと死んでもおかしくないんだからさ。
…本当、暇だよなあ。
ただ売られるのを待ってる奴隷っていうのは。
逃げられないように檻の中に入れるのはしょうがないにしても、何にもすることがないと本当に暇だよ。
………大丈夫だって。
見張りの奴らも大概サボってるんだし、さっき一回見回りに来た後で、そうそうすぐには戻ってこないだろ。
こうして話すくらいしか、暇つぶしがないんだからさ。
…にしても、最後に飯食ったのいつだっけ?
大分前に野菜クズ入れられてから、もうろくに食ってないよな。
水だってまともに飲んでないし、本当にいつ死んでもおかしない。
一応は奴隷として売られるためにいるんだから、飯くらいは何とかしてほしいよ、まったく。
君もそう思うでしょ?
………
…ふーん、全然大丈夫とか、奴隷根性座ってるね。
まあ下手に反抗したら、それこそ終わりだし、賢明な判断だけど。
………いやでも、こんな状況で腹も減ってないって、やばくない?
ちょっとおでこ借りるよ?
(ピタ)
…うわ、あっつ。
何だ君病気してるんじゃん。
身体震わせてるの、単に寒いだけじゃないみたいだね。
………平気って、痩せ我慢しなくてもいいよ。
ほら。
(ギュッ)
これで、少しはあったかいでしょ。
病気になるなとは言わないけど、調子悪いなら素直に言ってほしいな。
唯一の話し相手なんだから」
「………
………
………死んでない?
………はっは。
まあ、そうだね。
死んでたら返事もできないんだし、意味のない質問だったね。
…けど、随分と長い間ここにいるね、お互い。
他の奴隷はポツポツ売れてるっていうのに、まさに売れ残り。
まあ売られたところでどうせ死ぬまで働かせられるんだから、どっちでもいいけど。
君との話も、いつまでできるかわからないな。
………
…売られた理由?
あれ、まだ言ってなかったっけ?
まあ別に、大した理由なんてないよ。
うちの親が税金払えなくなって、金の代わりに売られたっていうだけ。
君もそんな感じなんでしょ?
………まあ、そうだよね。
奴隷になるやつらなんて、親に売られたか、親に捨てられてさまよっていたところを連れ攫われたくらいかの、どっちかしかない。
どちらにせよ家族がろくでなしっていう事実は変わらない。
………変わらないよ。
売られる前に他の家族ためだとか、お前のおかげで助かるとか言われたとしても。
子供を捨てたっていう事実は変わらないんだ。
家族に見放されたら、あとはもう後ろ黒い世界を生きるしか道はない。
………
うちの親は元々商人でさ、世界を旅しながら色々なものを商売していたんだ。
君は南の港町出身だって言ってたけど、もしお互い、奴隷として売られていなかったとしたら、表の世界で会ってたかもしれないね。
お互い、全然別の立場で。
………
もしも。
もしも、全然違う場所で出会ってたら、普通に会って、普通に話して、普通に恋をして、普通に生涯を二人で暮らしていたのかな。
………
…なんてね。
君とは少し、長い間はしゃべり続けたようだ。
これからも君と、ずっと………
(ガシャン)
(スタスタスタスタ)
(ガチャ)
………え。
買い手が、現れた…?
女だけ………?
は、はは………
…どうらや、君とはおさらばだね。
いつだって、別れは唐突過ぎる………
別れなんて、そんなものか…
………ねえ。こうして散り散りなる以上、お互いのことは忘れよう?、
どうせこの先、ろくな運命なんて待っていやしない。
楽しい思い出なんか、忘れた方が身のためさ。
楽しいことを振り返れば振り返るほど………あとが辛くなる。
君のことはもう忘れる。
だから、君もこっちのことは思い出さないでくれ。
………さよなら。
(ガシャン)」
「………
………
………
………まだ生きてる?
…よかった。まだ生きてた。
(ガチャ)
………何って、檻の鍵を外しただけだけど?
さあ、君はここから出ていいんだよ。
………なぜって、君のことを買ったからさ。
…実はさ、ここから出た後、買い主が盗賊に襲われてね。
どうやら買い主様は、相当あくどい商売に手を付けてたみたいで、そのしっぺ返しにあったらしい。
盗賊の目的は買い主が持ってた宝石類で、奴隷には興味がなかった。
持ち主がいない以上、奴隷ではなくなったというわけ。
そこで買い主が隠してた宝石の一部を持ち出して、ほうほうのていで逃げ出し、今に至るというわけ。
………なんでって。さっきも言っただろう?
君を買いにきたって。
………
奴隷として売られたのに、その奴隷ですらなくなった以上、後に残ったものなんてなにもない。
…そうしたらふと、君のことを思い出してさ。
君には忘れろって言ったくせに、ひどい奴だよな。
いいよ、罵ってくれても。
これから始まる君との生活の最初なんだし、それくらいは笑い話さ。
奴隷と主人の生活のね。
………ああ、奴隷と主人だよ。
言ったろ?奴隷として君を買ったと。
だから、これからも君は奴隷さ。
奴隷と主人、主従関係があってこそ、初めてつながりが生まれる。
家族なんていうのはとても曖昧な関係。
それこそ、いつか売られてしまうかもしれない関係。
でも、奴隷と主人だったら、奴隷は主人に従い、主人は奴隷を従わせる。
その主従関係があって、本当のつながりが生まれる。
君を離したくないからこそ奴隷として君を買うんだ。
奴隷と主人として、これからは二人、仲良くやっていこうね?」




