240 夏休み。ループ世界。8月を繰り返す世界に閉じ込められた彼女は大好きな彼と永遠に過ごせて幸せです
「ねえ、私達さ、付き合わない?
ずっと昔からの幼馴染の腐れ縁で、相性ぴったりだと思うんだ。
………どう?
………
……
…」
「(パチリ)
………夢か。
いや、夢っていうか、正夢か………
………はあ。
なんで、フラれちゃったんだろう。
………
…はあ。
夏休み終わって今日から学校だし、教室で顔合わせるの、気まずいな…
…それでも、学校行かなくちゃいけないのが学生の辛いところ………
(バタン)
(スタスタスタスタ)
………おはよう。
…えっ?
なんで早起きかって言われても、今日から新学期なんだから当然でしょ?
………は?
何言ってるのお母さん。
今日から新学期なんだから、今日が8月1日とか、そんなはず………
………え?嘘でしょ?
(シュッシュ、サッサ)
(―――♪)
(バサバサバサ)
………本当に、8月1日に戻ってるの?」
「………本当に一か月前に戻ってる。
使ったお金は財布に戻ってるし。
ジュースをこぼしたお気に入りの服はきれいになってるし。
家の前の道路工事は元に戻ってるし。
あの芸能人は離婚してないし。
本当に、戻ってるんだ。
………でも、なんで、どうして?
戻ってることがわかってるのは私だけ。
私だけが、8月1日に戻された?
どうして、私だけが。
………
………告白に、失敗したから?
やり直せって、ことなのかな?
………
…うん、きっとそうだよ。
これはきっと、神様が与えてくれたチャンス。
今度こそ、告白を………」
「(パチり)
………8月1日だ。
…はあ。
頑張ったと思うんだけどな。
会える日には何度も会いに行って。
デートには何度も誘って。
服とか、髪型とか、精一杯アピールして。
…それでもだめだった。
失敗したから、また8月1日に戻った。
………
…うん、今回こそは、頑張ろう」
「(パチリ)
………戻ってる」
「(パチリ)
………失敗」
「(パチリ)
………暑いな」
「(パチリ)
………あと5分」
「(パチリ)
………zzz」
「(パチリ)
………」
「(パチリ)
………」
「(パチリ)
………」
「(パチリ)
………」
「(パチリ)
………」
「(パチリ)
………」
「(パチリ)
………」
「(パチリ)
………」
「(パチリ)
………」
「(パチリ)
………」
「(パチリ)
………朝だ。
………
あー、そっか。
今日が戻る日だったっけ。
8月1日。
今日は、本当に暑い。
………
さーって。今日は彼とどこに行こうかな?
遊園地はあらかた行ったし、映画はどれも見ちゃったし、水族館とか動物園も行っちゃったし。
………あ、一周回って学校でデートとかもいいかも。
何て言えば制服着て学校来てくれるかな?
大体どういうこと言えばどんな反応するかはわかってるし、何を言い出すかも把握してるから、うまく誘導すれば………
………
それにしても、神様には本当に感謝しなくちゃ。
私を、こんな時間が繰り返す世界に閉じ込めてくれたことを。
私はこの1か月間、繰り返し繰り返し繰り返し日々を送っている。
1か月経てば、また1か月前と戻される。
それはつまり、永遠に彼と一緒に居られるということ。
この時間の中で、私と彼は永遠に一緒。
卒業とか大人になるとか、そういうのは関係なく、今の時間のこの時だけ、彼の隣に居られる。
学校を卒業したら、社会に出て働くことになったら離れ離れにならなくちゃだけど、この世界ではその不安はなくて彼と一緒。
遊びに誘ってどんなところだって行けるし。
24時間彼と過ごすこともできるし。
何か致命的にやらかしても、なかったことにして戻れる。
永遠に、彼と過ごせる。
………
恋人になっていちゃいちゃラブラブ、なんていうのも考えたけれど、彼とはそういうのじゃないっていうのは告白して理解できた。
告白を成功させるのは難しいし、たとえ万が一成功させても、今の関係のままじゃいられない。
晴れて恋人になったとしても、また別れることだって十分ある。
そんな風になるくらいなら、今のままの方がいいよね。
永遠に繰り返す時間の中で。
永遠に、彼と一緒の方が。
………
………あ。そろそろ彼が起きる時間だ。
うーん。
どうやって彼を、学校デートに誘おうかな?」