238 剣と魔法の世界の学園生活。落ちこぼれの僕はいつもいつも委員長に助けてもらってるが…
「(ブン、ブン、ブン、ブン)
(ブン、ブン、ブン、ブン)
(ブン、ブン、ブン、ブン)
………
………
………
…あ、ごめん、邪魔しちゃったかな?
………ちょうど休憩するところ?
そっか。ならよかった。
…剣の稽古、随分と精が出てるね。
ここのところ毎日毎日、放課後ずーっと振ってるよね。
………うん。
ここ、学校からの帰り道だから、よく見かけてたんだ。
…こんなに頑張ってるのは、やっぱり入隊試験が近いから?
………やっぱりそうだよね。
年に一度の騎士団への入隊試験。ちょうど今年から受けられるとなると、誰でも張り切っちゃうよね。
………あー、隣のクラスの金髪の子?
確かにあの子はすごいよね。
背も高くで力も強くて。
確かちょっと前に、騎士団の人が視察に来てたんだっけ?
次世代の有望株だって、クラスの皆言ってるよね。
………さっきの君の剣?
あー、えっと、その………
筋はいいんじゃないかな。うん、筋はね。
………あ、うん。
まあ、その。正直あんまりよくはなかったかも…
で、でも、頑張ればきっと試験も合格できるって。
だって、君は毎日毎日頑張ってるんだから。
『努力は必ず報われる』って、昔の英雄の人も言ってるんだし。
………あ、そうだ。
なら、私が少し教えてあげよっか?
学校の授業でも、剣の先生に女子にしてはいいねって褒められたこともあるんだ。
………うん。それじゃちょっと振ってみて。
何か気付いたところがあれば教えてあげるから」
「(カリカリカリカリ)
(カリカリカリカリ)
(カリカリカリカリ)
………
………
………
(…コトッ)
ねえ、そろそろ一息入れたらどう?
君、授業終わってからずーっと勉強してたみたいだけど、そろそろ日も傾いてきたころだよ?
そんなに根詰めてたら、体壊しちゃうって。
だから、そのお茶でも飲んで一休みしよう?
…うん、その方がいいと思うよ。
………それにしても、ここ最近毎日図書館にこもってるよね。
その間いろんな魔術の本とにらめっこで、すごいと思う。
でも、それで体壊したら元も子もないよ?
勉強も大事だけど、ちゃんと身体も休めなくちゃ。
………えー、そんなことないよ。
この間も授業中居眠りして、魔術の先生怒らせてたじゃない。
学業をおろそかにするとは何事じゃーって。
前のテストも、その前のテストも赤点とってたんだし、先生が怒るのもわからないでもないけど。
………えっ?
いやいや、クラスメイトなんだからこのくらいは知ってるって。
君、学校の中じゃ結構有名なんだよ?
………え。どう有名かって…
あーっと、その…
うん、いいじゃないそんなことはどうでも。
………コホン。
それで、たくさん勉強してるけど、何か魔法は使えるようになった?
今はいろんな魔法があるからね。
たくさん魔法があれば、その中の1つくらいは………
………ああ、そうなんだ。
…ごめん。変なこと言っちゃったね。
………いやでも、魔法が使えないなんて人、いるところにはいるって。
例えばほら、剣で英雄になった人だって、魔法はからしきだったっていう話だし、子供とかも使えないっていう人の方が多いんだからさ。
………あー、うん。まあ、その、私は30個くらい魔法が使えるけど…
…でも、君もいつかちゃんと魔法が使えるようになるって。
人の成長なんて、人それぞれなんだし。
君はすこーしだけ、人より遅いだけなんだよ、きっと。
…あ、だったら、私の魔法の事なら、君に教えてあげる。
ちょっと練習すればすぐ使えるようになると思うから。
私と一緒に、頑張ってみよう?
ね?」
「………
………
………
………あれ?
ねえ、君どうしたの?
こんなところに座り込んで?
そろそろ日も暮れちゃうし、あんまり外にいると風邪ひいちゃうよ?
………えっ?
もう帰ってこなくていいって言われた…?
どうしてまた、そんなこと………
………あー、卒業後に働ける場所が見つからないんだ。
もう、卒業も間近だもんね。
他の子達は大体、働けるところだったり、修行先が見つかってる子がほとんどだけど…
………私?
私はまあ、王家直属の研究所で働けることになってる感じ。
でも、どうして見つからないのかな?
何か思い当たる原因はある?
………そっか。
確かに、この世界は剣と魔法がすべての世界。
逆に言えば、剣と魔法が使えないと何にもできない。
人はたいていどちらかの能力は持ってるものだけど、君みたいに、両方苦手っていう人も少なからずいる。
そういう人たちは、立場が弱くて、それこそ奴隷に見たいな立場で働いている人もいなくはない。
でもだからって、帰ってくるななんて言うのはひどいと思うけど………
………
………
………
…ねえ、よかったら今日、家来る?
…ううん、今日だけじゃなくて、学校卒業後も、私の家に住む?
………どうしてって、困っている人がいるのを目の前にして、ほおっておくなんてこと、できないよ。
それに私は、本当の君のことを知ってるよ。
君は剣や魔法ができない子なんかじゃなくて、ちゃんと頑張ってるってこと、この目で見てきたから。
他の人だったら白い目で見られるかもしれないけど、私は絶対に、君をそういう風には見ない。
だって君は………
…いや、これ以上はやめとく。
まあ、それはともかく。さっき言ったのは本当だから。
私の家になら、いつ来てもいいからね。
………そう?
もちろん大歓迎だよ。
…ん、荷物取ってくるの?
わかった。
じゃあ先に家の方でまってるから。
それじゃあ、また後でね。
………
………
………
………
………
………これで、あの子は私のものだね。
何もできない君は、何から何まで私に頼りきりの日々を送る。
私に、私にだけに頼ってくれるようになる。
そんな君を、私は甘やかして甘やかして、甘やかしてあげる。
そんな風になったらもう、君は私の虜。
………
…長かったなあ。君をこうして手に入れるまで。
君が剣を上達しないよう、君が魔法を覚えないよう、気付かれないようにさりげなく邪魔をしてたの、気付いてなかったんだよね。
確かに君は学ぶのが苦手な部分があるけど、それでも剣も魔法も全くできないほどではなかった。
私の邪魔なしに勉強すれば、働く場所に困ることはないんだろうけど。
…でも、もう関係ないか。
だって君はもう、私から離れることはできないんだから」




