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237 しっかり者である妹は勇者である兄を甘やかして家でずっとお世話したい

「(トントントントン)

(ジャージャー)

(グツグツグツグツ)

~~~♪~~~♪

(バタン)

…お兄ちゃんおかえりー。

もうすぐ夕ご飯できるからちょっと待っててね。

………今日?

今日はお兄ちゃんの大好物のハンバーグだよ。

ソース煮込んでるからもう少しかかるかな。

…お兄ちゃんは今日は確か、遺跡のダンジョンの探索だっけ?

………え、お土産?

(ドサッ)

…大きなお肉。

もう、こんな大きなお肉食べきれないって。

私達二人しかいないのにこんなの持って帰ってきちゃって…

これはしばらく、ステーキだけの毎日なっちゃうよ………

………ダメだよ、お兄ちゃん。

お肉ばっかりじゃなくて、ちゃんと野菜も食べてもらうからね。

今日のハンバーグだって、付け合わせに色々野菜あるから、全部食べなきゃだめだよ。

………って、あれ?

どうしたの、その足。

………えっ、怪我したの?

ドラゴンと戦ってる時に…?

ダメじゃない、そういうことはすぐに言わないと。

ほらお兄ちゃん、そこに座って。

…お鍋はいいの。お兄ちゃんが怪我してるんだから。

………ダメダメ。こういうのは、最初の手当てが大事なんだからさ。

………

………

………

…ふう、これでよし。

お兄ちゃん、怪我した時はちゃんと言わなくちゃだめだよ。

いくら勇者勇者って周りから言われてても、お兄ちゃんは勇者の前に一人の人間なんだから、怪我の手当てはちゃんとしなくちゃダメなんだから。

今日の探索だって、いつもみたいに国の偉い人に無理やり………

(プシュプシュ)

…あっ、いけないいけない。お鍋が。

………話の続きはご飯の後にね」




「(ゴシゴシゴシゴシ)

(ゴシゴシゴシゴシ)

(ゴシゴシゴシゴシ)

………大体これで大丈夫かな。

お兄ちゃん、お湯かけるね。

(ザバー)

………あ、滲みる?

でも我慢だよ、お兄ちゃん。

こんな全身にあるいろんな傷、ちゃんと全部きれいにしておかなくちゃ、治るのも遅くなっちゃうんだから。

………

…ねえ、今の修行ってそんなに大変なの?

奥義とか必殺技をマスターするとか何とか言ってたけど、今お兄ちゃんがやらなくちゃダメなことなの…?

………ふーん。

他の人に追いつきたくてか。

…えっと確か、剣士さんは代々伝わる火剣の持ち主の人で、格闘家さんは世界闘技大会の優勝者で、魔法使いさんはこの世界のあらゆる魔法を扱うことができて、ハンターさんは狙った獲物は絶対逃さない実力があるんだっけ。

確かに、あの人達はすごいと思う。

すごい人で、強い人で、あこがれの人なんだと思う。

でも、だからってお兄ちゃんが無理する必要なんてないと思うよ?

あの人達はあの人たちで、お兄ちゃんはお兄ちゃんなんだから。

お兄ちゃんはお兄ちゃんにしかできないことをすればいいんだよ。

………

…まだ、頑張り続けるんだ。

なら、頑張ってね、お兄ちゃん。

私は、お兄ちゃんの世話をするくらいしかできないから」




「………ふわあ…あ。

ふう、今日も一日終わったねー。

お兄ちゃんそろそろ寝る?

…うん、それじゃ明かり消すね。

………

………

………

………お兄ちゃん。

お兄ちゃんの背中、くっついてもいい?

…うん、ありがと。

(ゴソゴソ)

お兄ちゃんの背中、おっきい…

私が生まれた時から、お兄ちゃんの背中はずっとおっきいままだね。

ずーっと、ずーっと、お兄ちゃんのおっきい背中を見続けてきた………

私にとっては、お兄ちゃんはお兄ちゃんで、お兄ちゃん以外の何物でもないんだよ?

勇者なんていうのは、他の皆が言ってるだけ。

私にとって、お兄ちゃんは勇者じゃなくて、たった一人のお兄ちゃん。

…だからね、魔王の右腕の手下の八傑集が統べる十星の一人にやられたからって、気にしなくていいんだよ。

………うん、うん。

その人に何回も何回も挑んでは負けて、挑んでは負けてるっていうのも知ってる。

でも、それがなんなの?

魔王は膨大な力を持つ存在として、人類は恐れている。

そんな魔王の配下だって、すごい力を持ってるんだから、人間であるお兄ちゃんが敵うはずがないんだよ。

お兄ちゃんは勇者勇者って周りは囃し立てるけど、でもそんなの自分達で戦いたくない人達が言ってるだけ。

お兄ちゃんが勇者でも何でも普通の人間っていうのは私、ちゃんとわかってるから。

………

…大丈夫だよ。お兄ちゃん。

たとえお兄ちゃんが魔王を倒さなくっても、魔王の右腕の八傑集の十星を何とかしなくても、他の誰かが何とかしてくれる。

お兄ちゃんの代わりなんて、他にもいくらでもいるんだよ?

お兄ちゃんがやらなければ、他の誰かがやってくれる。

他の人ができるようなことを、お兄ちゃんはしなくてもいいんだよ?

………私、お兄ちゃんが毎日毎日怪我して帰ってくる姿を見るのは、嫌なの…

お兄ちゃんの辛そうな姿を見ると、私の胸も痛くなってきて。

お兄ちゃんの傷は、私のものでもあるんだ。

身体の傷はなくても、心が痛いの。

………お兄ちゃんはもう、頑張らなくてもいいんじゃない?

もう勇者なんてやめて、魔王なんて倒しに行かなくて、この家の中で二人、のんびりと暮らそうよ。

お兄ちゃんはこれ以上なく、頑張ったんだからさ。

………

………

………

…もう寝ちゃってる、か。

お兄ちゃんはまだ、頑張るのかな………

でも、

お兄ちゃんはいつ、足を止めてもいいからね。

私は私、お兄ちゃんはお兄ちゃん。

お兄ちゃんの面倒を見るのは、いつだって妹の役目なんだから」

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