023 世間知らずの箱入りお嬢様の告白を断ったら…
「まあ、なんですの、それは?
『すまーとふぉん』?ですか。
私、今まで一度も見たことありませんわ。
その小さな四角いもので、一体どんなことできるんですの?
…『あぷり』を使ったり…『どーが』を見たり、ですか…
申し訳ありません、ちょっと、私にはわからないことばかりで………
私、生まれてこの方、家と学校以外の場所に行ったことがないんですの。
家では使用人につきっきりで勉学やお稽古に励んでいておりまして、それ以外のことはからきしでして…
………え、私の家のことですか?
はあ、『財閥の名家』ですか…
うーん。住んでいる私としては、あんまり自覚がありませんの。
それは、何かすごいことなのでしょうか?
………へえ、なるほど。あなたは色々なことに詳しいんですね。博識なのは尊敬に値します。
『これくらい誰でも知っている』…
いえいえ、少なくとも私は知らなかったのですから、私よりも博識ですよ、あなたは。
………
私が、『箱入り娘』なんですか?
それは、一体どういう意味なんでしょうか?
確かに娘であるかもしれませんが、『箱入り』…箱に入っている………?
…ふむふむ、『大切な大事な人』という人のことなんですか。
ありがとうございます。あなたのおかげで、私ははまた、新しいことを学べました。
これからも私の知らないことを、色々と教えてくださいね」
「へえ、これが『まんが』というものなんですね。
見た目は文芸書や学術書の本と一緒、みたいですね。
あ、でも。カバーが薄い感じになってます。
中を見てみてもいいですか?
………
…うわぁ。文字じゃなくて絵がびっしり書いてあります。
ところどころに文字が書いてあって…
…ふむふむ。書かれている文字は、この絵の人物が言っている発言なんですね。
…どのページも細かく絵が描いてあって、一冊作るのに、どれだけの時間がかかっているんでしょうね。
………え、さらにこの本が何十冊とあるんですか。
その本すべてのお話がつながっている………本当にすごいですわ。
………
あの、もしよろしかったら、ここで私と一緒に読んでくれませんか?」
「『かっぷらーめん』…これは、食べ物なんでしょうか?
ラーメンという食べ物なら知っていますが、カップに入っているラーメン………?
でもこれ、上の部分がぴっちり閉じてあって、中に入っているものが見れませんが…
(ピリピリピリピリ…)
へえ、そうやって開くんですね。三角になっているところも掴んで、ですね。
………ん? ん?
…えっと、これがラーメン…?
ずいぶんと硬そうな塊が入っていますね…
でも確かラーメンって、もっと柔らかいというか、いやそもそも、スープが入っているものなんじゃないんですか?
これは、そういうタイプのものじゃないということでしょうか?
…え。お湯ですか。
…ふむふむ。お湯をカップの中に入れる、と。
そして蓋をもう一度閉じて、このまま3分待つんですね。わかりました。
………
………
………
…3分経ちましたね。早く中が見てみたいです。
(ぺろっ)
…え、ええ。そんな…!
さっきまであんなに硬そうな塊が、柔らかい麺になってます!
お湯もただの水だったのがスープに変わっていて、香りが断然違いますね。
すごいです、すごいです。
『かっぷらーめん』って、ものすごい発明品の食べ物なんですのね。
………
あの、では。
私一人では食べきれないので、一緒に食べてもらえませんか?」
「………うふふ。今日もありがとうございました。
『げーむ』というのはすごかったですね。
画面の中で、『きゃらくたー』を自分の思い通りに動かせるなんて、思ってもみませんでした。
………
………
………
………あの、それで、実はですね…
最近ちょっと、お父様や使用人から苦言を呈されることが多くなっていまして…
えっと、こういう風にあなたに会う時間は、これからはなるべく差し控えて欲しい、と。
ただの友達なんかに、あまりうつつを抜かすな、とも………
あ、いえ、決して私がそう思っているわけじゃなくて、ですね。
お父様や使用人が言っているだけであって………
………
………私は、あなたとの時間はとても大切に思っているんです。
あなたは私の知らないことばかり、教えてくれます。
使用人は勉学や稽古のことだけですし、学校でも皆さん気を遣ってか、あまりお話しする人はいません。
でもあなただけは、私を正面から対等に見てくれる。
家のこととか関係なく、私自身を見てくれる、そんな感じがしましたわ。
あなたのような人は初めてで、色々な想いが胸の中にこみ上げてきます。
あの、それで…もし、よかったら………
これからの一生を、私の伴侶として添い遂げてはくれませんか?
お父様だって、友達ではなく生涯のパートナーとしてなら、きっと………
………え、それは、できない、ですか……
『友達としてしか思っていなかった』
そう、ですか………
………
………
………
『友達』ということは、まだまだ足りない。と、いうことですわね」
「(バンバンバンバン!)
(バンバンバンバン!)
(バンバンバンバン!)
………あ、起きられましたか?
ちょっと姿は見えませんが、今、私はあなたのすぐそばにいますわ。
………
はい、私はここにいます。
あ、中の電気をつけたらどうでしょうか?
今、あなたのいる位置から右に少し歩いた角に、ボタンがあるはずので。
(パチン)
…付きましたか?
ついたようで何よりです。
『これはいったい何なのか?』ですか。
はい、それはですね。
『箱』です。あなたを入れておくための。
『どうしてこんなところに?』
それは、あなたが教えてくれたことじゃないですか。
箱入り娘…いや、男性なので箱入り男………箱入り息子………?
…まあ、名称はともかくとして、大切な大事の人のことをそう呼ぶんですよね。
私は、あなたをとても大切に思っています。
できれば、永遠を過ごす二人として………と、胸の中で想い焦がれています。
そんなふうに大切に思っているからこそ、あなたを『箱』に入れたのですわ。
『箱』の中に入れて大事にする。
それだけ、私はあなたのことを思っているというわけです。
…大丈夫ですよ。『箱』の中でも、生活を送るのには十分な設備は整えてありますから。
私は、この『箱』の中であなたを大切にします。
なのでこれからも、その『箱』から、私の知らないことを色々教えてくださいね」