表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
229/269

229 目覚めるたびに愛しの彼女の顔が目の前に。けれどもそんな彼女はどこかおかしくて…

「(バンッ)

おっはよー!

今日もすがすがしい朝だね。

………

…どうしたの?朝からぼーっとした顔しちゃって?

早くしないと学校に遅刻しちゃうよ。

………

…へぇ、今朝悪夢見たんだ。

………

…ふーん。ブラック企業でくたくたになるまで働かされる夢ね。

それはとんだ悪夢だったね。

私達今は学生なのに、そんな未来を夢見ちゃうなんて、よっぽど将来が不安なのかな?

君ってばいつもそうだよね。

何でもかんでもネガティブに考えちゃって、やりたいこともできずに怖気づいちゃうの。

その度に何度私が手を引っ張ってあげてきたか。

幼稚園の時、遊びの輪に入れなかったことでしょ。

小学校の時、かくれんぼで誰も見つけてくれなかった時でしょ。

中学校の時、テストで一桁の点数取っちゃった時でしょ。

君はいつもいつも心配し過ぎなんだって。

もっと私みたいにポジティブになった方が絶対に人生楽しいって。

………

…えー、いいじゃんそれは別に。

迷子になっても交番に行って大丈夫だったし。

木に下りられなくなっても大人が助けてくれたし。

勉強ができなくても進学はできたんだし。

人生何とかなるもんだって。

………

…そうかなあ?

向こう見ずとはいうけど、何でもかんでも石橋叩いている方がよっぽど損している思うけどな。

ジャングルジムの頂上に行くのは眺めがいいし。

自転車に乗ったらどこにでもいけるような気分になったし。

部活に入ったらどんなに弱小だろうと全国目指したし。

そういうのも楽しいんだよ?

………

…はいはい。わかったわかった。

私はそれでいいの。

それより、もうあんまり時間ないよ?

走って学校行かなきゃやばいかも。

(パシ)

ほら、行くよ行くよ」




「………

………

………

…え………ねえ。

ねえ、起きて。

………

…あ、やっと起きた。

もう、せっかくの映画なのに、寝ちゃうなんてもったいないね。

………

…え?ううん別に。

私は可愛い寝顔が見られて退屈じゃなかったから。

でも、せっかくのデートの最中なのに寝ちゃうなんて、とは思ったけど。

………冗談だよ。

最近君、どこか疲れてたみたいだし、休みの日くらいゆっくり休んだ方がいいと思うよ。

…ところで、何か夢でも見てたの?

少し、調子が悪そうだけど。

………

…ふーん。夢を見てた気がするけど、覚えてないんだ?

そういうのって、獏の仕業かもね。

………そう、夢を食べちゃう動物。

まあでも、夢を覚えてないっていうのはそれほどぐっすり寝てたってことで、ちょうどよかったんじゃない?

もしも悪夢だったりしたら覚えてない方がいいんだろうし。

…それより、そろそろ出よ?

………

…大学もそろそろ卒業かあ。

何か、あっという間の人生だったな。

ついこの間まで高校生だった気がするのに、もう大学卒業だなんて。

高校から卒業まで、大したイベントなかったのかな?

………

…ふふふ、そうだね。

こうして今隣に並んで恋人同士として歩いているのは、大大大大大イベントだね。

………

…え?そうかなあ?

私からの告白が意外って言われても、私としては必然だったと思うんだけどな。

私って、そんなに好きってアピールしてなかったかな?

登下校は大体毎日一緒に行ってたし、修学旅行との班には必ず一緒になるようにしてたし、勉強でわからないところがあればノートを貸したり真っ先に教えてあげてたりしてたのに。

…でも、そっか。

そっちはそっちでいつも本とか開いて自分の世界に入ってたし、私のアピールが通じてなくても当然か。

…けど、それにしては真っ先に私の告白にはOKしてくれたよね。

………

…えー、覚えてないの?

私が付き合ってって言ったら、真っ先に喜んでって承諾してくれたじゃない。

もう、本当に君はだらしないなあ。

………

…でも、付き合ってくれるようになってからは、いろんなところにデートに行ったよね。

遊園地に水族館に植物園。

美術館とか図書館とか。

オシャレなレストランにも連れてってくれて。

タワーの屋上から夜景も見たし、クリスマスのイルミネーションも歩いたし。

どのデートも全部全部、楽しかったよ。

だから私は………

だーい好き、だよ?

(チュッ)」




「(ピリリリリリリッ)

(カチッ)

………はいはい。ほらほらそろそろ起きて。

もう朝よ。

今日は一緒にデートに行くって約束だったじゃない。

早く起きて顔洗って着がえて着がえて。

………

…どうかした?

鳩が豆鉄砲食らったような顔して。

………

…私?

私は私よ。私以外の何物でもないわ。

………

…ここはどこかって?

もう、本当に寝ぼけてるの?

ここで二人で暮らしてるマンションじゃない。

仕事でお金を貯めて、やっとの思いで買えた新築マンション。

ここに住んでからもう1年以上経つのに、まだ慣れてないの?

………

…もう、本当にどうしちゃったの?

もちろん私達結婚してるじゃない。

妻のこの顔、忘れちゃいましたかー?

大学卒業して、同窓会で再会して、なんだかんだ付き合うようになってそのまま結婚した奥さんの顔ですよ?

覚えてるかしら?高校の時私がクラスに転校してきた時のこと。

転校初日にまさかペットボトルの水をかけられるとは思わなかったわ。

あれで印象は最悪だったっていうのに、その後文化祭とか修学旅行とか一緒になっていい感じになったけど、結局大学は別々になって脈がないかと思ったら同窓会で再会して、ね。

中学の頃には思ってもなかったわ、今一緒になってるなんていうことは。

中学の時にはラブレター書いては消して書いては消してたりして、でも、結局思いは伝えられなかった。

体育祭でフォークダンス踊った時、私すっごくドキドキしてたんだけど、後で聞いたら全然覚えてなかったんですってね。

まあ、その頃は私が思いを寄せているだけで、接点は全然なかったんだけどね。

小学生の時は、全然好きだって気付いてなった。

手をつないで登校したり、公園で泥だらけになって遊ぶのが楽しかっただけ。

一緒にいて楽しかったけど、その奥底にある自分の想いはわからなかった。

………でもね、今こうして二人一緒に暮らしていることは、とっても幸せよ。

………

………

………

………どうかした?

…私の言ってることがおかしい?

いいえ、おかしくなんかないわ。

おかしいとすれば私じゃなくて、この世界の方じゃないかしら?

………

ねえ、もう気付いてるんじゃないの?

ついさっきまで高校の幼馴染だったのが、大学生の恋人になって、そして今は社会人の新妻。

その時代と時代の間、高校以前の私の記憶はちゃんとある?

あなたからすれば、突然別の人物が現れたように感じなかった?

確かに、目の前にいたのはすべて同じ「私」。

でも、見えていたのは、すべて違う「私」なの。

…ねえ、この世界以外の記憶は、ちゃんと覚えてる?

悪夢だと思っていた辛い辛い記憶。

本当はね、あの悪夢こそが現実で、今のこの世界が悪夢なの。

…いや、悪夢じゃないのかもしれないけど。

ここは、都合のいい夢の世界。

どんな想像も実現できる創造の世界。

…現実は、とてもとても大変だったよね。

だからこれからは、ずっとずっと、この夢の世界にいていいんだよ?

ずっと目を覚まさなくていい………ううん、この世界で眠らなくていいの。

夢魔って知ってるかな?

夢に出てくるお化け。

ここはあなたの頭の中の世界だけど、「私」はその創造したものとは別の存在。

あなたの頭の中にある想像を、望むように、そうありたいように実現できる妖怪。

………

もう、現実に行くために眠らなくてもいいよ。

嫌な現実からは逃げ出して、これからは愛に溢れた夢の世界で幸せと愛情たっぷりに暮らしていこうね。

二人一緒に、永遠の中で」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ