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222 神隠しの噂がある村で今日も誰かがいなくなる。最後まで村に残るのは…

「(コンコン)

(バタッ)

…あっ、こんにちは。

私ね、これから山の方に遊びに行こうと思うんだけど、よかったら一緒に行かない?

………って、その手に持ってるの何?

…へー、花の髪飾り。きれいだね、それ。

しかもちゃんと髪に付けられるようにしてある。

やっぱり親譲りで器用なんだ、君は。

この間も君のお父さんが作ったっていう仕事道具、村の人達が褒めてたの知ってるよ。

…お父さんとかお母さんは?

………あー、隣の村へ品物売りに行ってるんだ。

隣の村からも注文が入るなんてすごいね。

…それで、さっきのお誘いなんだけど…

………あ、そっか、今日はもう他の子と約束してるんだ。

…もしかして、女の子?

―――やっぱりそうなんだ。

………ううん、なんでもないよ。

じゃあ、今日がダメだなら、明日は?

………ダメ?

なら、明々後日………も、ダメ。

―――君って結構いろんな人に好かれてるんだね。

………ん?別に怖い顔なんてしてないよ。

君が人気者なんだなー、って思ってただけ。

―――でも君は知ってる?

この村には、神隠しの噂があること。

村の人達が忽然と、姿を消しちゃうこと。

―――君も。

神隠しに遭わないように、ちゃーんと気を付けなくちゃだめだよ?」




「(カツンカツン)

(カツンカツン)

(カツンカツン)

………おー、お仕事に精が出てるね。

………ううん。手伝いだとしても立派な仕事だと思うな、私は。

…ん、私は、村長さん家に服を届けに。

………うん、家で作ったやつ。

私も最近ちょくちょく手伝ってるんだけど、これがなかなか思うようにいかなくって、まだちゃんとしたのできないんだよね。

もし、ちゃんといいものが作れるようになったら、一番に君の服を作ってあげるね。

………そんな遠慮しなくてもいいのに。

私達、この村で唯一の同世代の子供なんだし。

―――本当、みんなどこにいっちゃんだろうね?

あの家の子も、向こうの家の子も、あそこの家の子も、あっちの家の子も、いつの間にかいなくなっちゃったよね。

…さあ?神隠しなんて、ただの噂だけどね。

人がいなくなったことをそう表現するけど、でも人がいなくなるのなんてそれ以外の理由もあるんじゃないかな?

…まあ、それはともかく、この村の同年代の子供は私達だけなんだし、これから仲良くしていこうね。

それより、君のお母さんいる?

今度作る服のことで、ちょっと話があるんだけど…

………えっ?ああ、隣の村まで。

君のお父さんと一緒に?

ふーん、二人一緒でなんて珍しいね。

何の用なんだろうね?

―――は?お見合い話?

お見合いって、誰と誰の?

…ふうん。君と、隣の村の子と、ねえ。

へー。

へえ。

へえー。

………うん?ううん、変な顔なんてしてないって。

女の子にそんなこと言っちゃだめだよ。

…でも、お見合いか。

そんなの………

―――神隠しにでも遭っちゃえばいいのに」




「(スタスタスタ)

(スタスタスタ)

(スタスタスタ)

………あっ、おーい。

(タッタッタッタッ)

今帰り?

…そっか、今日はどこまで行ってたの?

………隣の村まで。それは大変だ。

今朝結構大きな荷物運んでたけど、あれ全部君一人で運んだの?

…そっか、やっぱり、一人で全部やらなきゃいけないのって大変大変。

………君の両親がいなくなってから、もう結構経つよね。

村の皆で探したりしたけど、結局二人とも見つからなくて。

心配だよね、君は。

………うん、そうだね。

村の皆は『神隠しだー』なんて噂してる。

でもどうなんだろうね。神隠しなんて、本当にあるのかな?

…って、そんなこと言うと、罰当たりだって他の村の人に怒られちゃうや。

ただでさえ、どんどん村の人達が少なくなっているっていうのに、私まで神隠しに遭っちゃうかも。

少しでも村の人口を減らさないためにも、早く結婚して子供を作らなくちゃね。

この村の若い人は私達くらいしかいなんだから。

………君は、結婚とかって考えてるの?

そろそろいい年なんだし、早くお嫁さんを決めちゃった方が………

―――え?結婚が、決まった?

…え、え?

君が、結婚?

だ、誰と………?

………町のお嬢さんと。

いつ?いつ決まったのそんな話?

―――へえ。村長達が、足早に決めちゃったんだ。

…君は、その結婚に納得してるの?

まだ会ったこともないような人と結婚するの、了承したの?

………村のために、ね…

………ふ、ふふ。

ふふふふ。

ふふふふふふふふ。

………君が他の人と結婚しちゃうくらいなら…

―――こんな村ごと、神隠しでなくなっちゃえ」




「(キュッ、キュッ)

(ゴクゴクゴクゴク)

………はい、これで御子酒の式は終わり。

後は天の神様の前で二人の愛を誓えば、晴れて私達は結婚したことになるよ。

…でも、ここまで長い長い道のりだったな。

同じ村で育った者同士、最初は君と結婚するんだって固く信じてたけど、色々な困難があって、私達の運命は引き裂かれそうになった。

でもそんな運命にはくじけず負けることなく、今日という日を迎えることができた。

―――まあ、私達を祝ってくれる人は誰もいないんだけどね。

この村には、もう私達二人しかいない。

みんなみんな、いなくなっちゃった。

………神隠しだとか、そうじゃないとかは、どうでもいいんだよ。

今大事なのは、こうして私と君で結婚の儀を結べたこと。

これで私と君は、正式な妻と夫。

これから二人で、二人きりで、この村で暮らしていく、幸せな夫婦。

それ以外は、どうでもいいんだよ。

―――そう、神隠しの噂と同じくらい、どうでもいいこと。

…ねえ、これからは二人で手を取り合って暮らしてくわけだけど、他の人になんか目移りしちゃだめだよ。

もし、そんなことがあったら…

―――また、神隠しが起きちゃうかもね」

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