表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
209/272

209 毎日本を読む図書館の主は毎日通ってくる彼の物語を作りたくて…

「(ペラ、ペラ、ペラ)

………

………

………

(ギィ…バタン)

あら、初めまして。

私の図書館にようこそ。

この図書館には、いろんな物語が揃っているわ。

はたして君は、どんな物語を望むのかしら?」




「………そう、あれは確かこの棚で。

多分、上の段に入っていたと思うわ。

…違う違う。もう少しそっちの方よ。

………そう、そこそこ。その本よ。

………

…探してる本は見つかった?

そう、それならよかった。

それにしても、その本を何に使うのかしら?

分厚い本だからって、まさか枕代わりになんてしないわよね。

………冗談よ、冗談。

確か、魔法の勉強がしたいって言ってたものね。

その本は、魔法によって世の中を人々の生活を変えていった賢者様のお話よ。

色々な魔法のことが記されているから、君にぴったりだと思うわ。

…それにしても偉いわね。

勉強のためだからって、わざわざこんな辺鄙な場所にある図書館にやってくるだなんて。

道はめったに通らない獣道だし、ここまで登ってくるのも一苦労だったんじゃないかしら?

………

…ええ、そうね。

この図書館には、ありとあらゆる人の物語がある。

たった一つの剣で英雄になった勇者さんのお話。

自分の国のために、全てに身を捧げて尽力した王様のお話。

溢れんばかりの才能を持って闘技大会を制覇した格闘家のお話。

多くの人の物語が、ここには揃ってるわ。

………ええ。ここにある本は、すべて私が作った物語。

その人の人生を余すことなく記した二つとない唯一の本達よ。

………いえいえ。

本を読んでくれるのは大歓迎だわ。

だって、本は人に読まれるためにあるんだもの。

もちろん私だって読んであげてるけど、他の人の目に触れる方が本達も喜んでるはずよ。

だから君の気の済むまで、いろんな物語を読んであげてね」





「(ペラ、ペラ、ペラ)

………

………

………

(バタン)

…あら、いらっしゃい。

また来てくれたのね。

ここのところ毎日のように来てくれるわね。

その度にいろんな本を読んでくれて、本当に嬉しいわ。

………ん、その袋がどうかしたの?

…え、私にくれるの?

嬉しい。なにかしら。

………あらあら、とっても美味しそうなお菓子だわ。

これ、私のために持ってきてくれたの?

………ありがとう。嬉しい。

ねえ、せっかくだし、勉強の前に一杯お茶しない?

これ、一緒に食べましょう?

…ええ、それじゃあ………

(~~~♪)

…はい、素敵なお茶を用意したわ。

君のお菓子に、ぴったり合うと思うのだけれど。

………ああ、今の?

もちろん魔法よ。

私はいろんな魔法を使うことができるの。

例えば…

(~~~♪)

こーんなことができたり。

例えば…

(~~~♪)

あーんなこともできたり。

多分、できないことがないくらいなんじゃないかしら?

試したことはないけれど。

………

…うーん、やっぱりそれは難しいと思うわ。

私は無意識というか直感というか、自分の感覚だけで魔法を使っているから。

だから、君に魔法を使い方を教えようとしても、どんな風に使えているのかが説明できないのよ。

だからごめんなさいね。

私は、君に魔法を教えることはできないの。

………いいのよ。

君はいい子ね。

…さて、せっかくのお茶が冷めてしまうわ。

勉強の前のティータイムにしゃれ込みましょうか?」




「(ペラ、ペラ、ペラ)

………

(ペラ、ペラ、ペラ)

………

(ペラ、ペラ、ペラ)

………

………ねえ、ちょっといいかしら?

君はどうして、毎日ここに来てくれるのかしら?

………

…どうしてって、うーん…

例えば、君の周りの人は、君がここに来ることについて、何か言ってなかった?

………そう、やっぱり。ここに来ない方がいいって言わてるんだね。

その人達はこうも言ってたんじゃないかしら。

『あそこには恐ろしい魔女がいる』って。

………

…君は、私がそういう風に見える?

………うふふ。ありがとう。

確かに私はいろんな魔法を使うことができるけど、でもそれで人の物を盗んだり、誰かを殺したことなんて一度もない。

私はこの図書館に住んで、いろんな人の物語を作り続けているだけ。

なのにどうして下の町の人達がそんな噂を流しているのか、さっぱりなのよね。

ひどい時には建物に火を付けられそうになったこともあって、本当に嫌われてるようなのよね。

………うふふ。君はそう思ってくれているのね。

本当に嬉しい。

こんな私に、毎日会いに来てくれて、そんな言葉を言ってくれるなんて。

長年生きてきたけど、君が初めての人よ。

………ねえ、もしよかったら、君の物語を作らせてくれないかしら?

ここにある本達は、その本人の願いから作ってきた本。

だけど私は、君の物語を読んでみたいの。

君だけの物語。君だけの本。君だけの言葉。

その文字の羅列を、私は眺めてみたい。

…どう、かしら?

………そう。ありがとう。

そう言ってくれて、本当に嬉しい。

それじゃあ、君の本を作るわね。

(~~~♪)

(ストン)

………できた。

できたできた。

できたできたできた。

君の本、君の物語が完成したわ。

………ありがとう、こんな私の願いを聞いてくれて。

(ギュッ)

…でも、こんな私の声は君には届いていないのよね。

君の本。君だけの本。

君は、君そのものが、この本になったのだから。

本に触覚や聴覚が付いていないのは当り前よね。

でも君は確かにここにいる。

君の本がきちんとここにはある。

…ああ。君の本には、一体どんな物語が紡がれているのかしら。

君の人生そのものを、これから読ませていただくわね。

(ペラ、ペラ、ペラ)

(ペラ、ペラ、ペラ)

(ペラ、ペラ、ペラ)」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ