206 隣の家に住んでいた彼女とのワンルームルームシェア生活。彼女のことは全てわかっていると思っていたが…
「(チャッチャッ)
(ジュージュー)
(カチャカチャ)
(ザーザー)
………よし、完成。
ご飯できたよ。
ほら、テーブルの上片付けて。
………うん、それじゃ…
いただきます。
………
………ん、あっそ。
…いや、毎回美味しい美味しいって言われても、同じ感想なんて聞き飽きたよいい加減。
別に料理なんて、レシピ通り作れば誰だってこのくらい作れるんだから、大したことじゃないし。
………だからいいって、そういうの。
料理は私、掃除や洗濯は君。
そういう風に分担するって、この部屋シェアする時に決めたんだから、やって当前のことなんだし。
あんただって、私があんたが掃除したところをなんでもかんでも褒めちぎったら、うさん臭く聞こえるでしょ。
こんな狭いワンルームをシェアしてるんだし、もう少しその辺気楽にやろうよ。
…ん、それならよし。
………
…あ、またトマト残してる。
あんたって昔からトマト嫌いだよね。
………えー、そうかなー。
私は全然美味しいと思うけど。
ほらほら、私があーんってしてあげるから食べなって。
………えー、なんでそこで拒否すんのよ。
ちっちゃい頃はあんたが私の嫌いなものをこうやって食べさせたくせに。
………いやいや、ゴボウの方があり得ないから。
なんでゴボウってあんなに硬いのよ。
あんたに硬いの絶対に無理だって。無理無理。
…んー、それはあんたの味覚が絶対間違ってるんだって。
………ったく、あんたって昔からそうだよね。
自分の方は絶対に間違ってないって譲らないところ。
頑固者ったらありゃしない。
そんなんだから、いくつになっても彼女の一人もできないんじゃないの?
………あはは、図星だ。
どうせあんたはこの先の未来、一生彼女なんてできっこないんだから」
「(ピコピコ)
(ピコピコ)
…よし、ここで2倍サイコロのカードを使って………
………え、座敷童?
嘘、ちょ、ちょっと待って。
………うっそーん。なんでここで私の株価が落ちちゃうのよー。
うう…おかげで資金がマイナスで借金に…
いーなー。あんたは順風満帆の大金持ちコースで。
ちょっとくらい資金分けなさいって。
いや、そういうコマンドないのは知ってるけどさ。
…でも、このままじゃ最下位まっしぐらだよ………
昔はあんた、こういう戦略ゲームは私に負けっぱなしだったていうのに、いつの間にこんなに強くのなったのやら。
あんたの成長が憎い。
………え?
いや、それはあんたが悪いんでしょ。
昔あんたが寝落ちした時狙って、あんたのコントローラーでワザと破産するように仕向けたのは、寝落ちするあんたの方が悪いんだから。
………にしても、実家じゃない部屋に住んでるのってマジでいいよね。
なにせ、何時まで起きてても親に怒られないんだかさ。
昔はどっちかの家に泊まって夜遅くまでゲームしてたら、絶対に親に怒られてたからね。
まあ、携帯ゲーム買ってもらってからは、布団の中でプレイしてバレずに済んだんだけどさ。
………あー、あん時は怒られたねー。
確かレースゲーで対戦してた時だっけ?
あんたが大声出して叫んだので、ゲームしたのがバレちゃったんだったよね。
あの時は二人共々3か月間ゲーム取り上げられて、マジむかついた。
ゲームがないと暇だからすぐ寝ちゃって、逆に夜中覚めちゃうこともあったな。
…あっそうだ。
ねえねえあんた覚えてる?
ゲーム取り上げられて、何もすることないから一緒にくっついて寝てた時さ、あんたがおね………
(プツン)
………って、あ。
何やってんのあんた?
あんたが勝ってたのに、なんでゲーム消しちゃうかなー。
あ、それとも、なんか別のゲームやる?
どうせ明日は休みなんだし、今日は寝かせないからね」
「(バタン)
………ふー、さっぱりしたー。
あ、お風呂開いたよー。
…えー、別にいいじゃん。ちゃんとタオル巻いてるんだし。
あんたが裸でうろつくなって散々酸っぱく言うから、ちゃんとタオルで隠してるでしょ。
………えー。だってお風呂上りって気持ちいいんだもん。
あんただって昔はよくやってたじゃん。
こっぱずかしいの惜しげもなくさらしちゃったままでさ、家の中走り回ったりして、ビシャビシャにして怒られてたよね。
…いや、私はちゃんと拭いてたって。
一緒にお風呂入った時だって、いっつもあんたが先に出て、よく拭かないで風邪ひいたりしたのはあんただけだったでしょ?
………あー、はいはい。ちゃんと服着るってば。
ワンルームで脱衣所ないくらい狭いのに、贅沢言わないでよね、まったく。
………んー?
別に親とかに反対されはしなかったけど?
そりゃあさ、どこの馬の骨かもわからない知らない人なら絶対親もオッケーしなかっただろうけど、でもあんただから。
隣の家に住んでていっつも一緒のあんたならって、私の親はルームシェアオーケーしたんだと思うよ?
つか、あんたのところだってそうでしょ?
………だよね。
もう私とあんたの家の親って、お互いのこと知り過ぎるくらい知り過ぎちゃってるから、今更隠すところもないし、悪びれるところも全然ない。
私とあんただって、お互いの家何回もご飯食べたりお泊りしてたんだから、ワンルームで一緒に暮らすくらいどうってことないんだって。
むしろ私の場合、一人暮らしでちゃんとやってけれるのかっていうの方を心配されるくらいだし。
さすがにそれくらいは平気だったけどね。
でもま、ワンルームをあんたとシェアして、色々分担できるから楽だよ、本当。
もういっそのこと、これから一生、人生をシェアし続けちゃう?
………冗談だって。
あんたって本当に冗談が本気かの区別ができないよね。
………ん、お風呂入る?
…そ、さっぱりしてくれば?
(バタン)
………
………
………
………本当、冗談か本気かの区別ができない奴。
本気で言ってるのに決まってるのに、ね。
こちとら何年、あんたのこと想い続けてるのか、知らないんだろうな。
これから一生あんたと一緒にいたいって思ってるのなんて、全然気付いてないんだろうし。
まあでも、あんたが都会の学校に行くって言った時、色々都合をつけて一緒の部屋に住むことができた。
実家を離れて一緒に部屋に住んでるなら、もうこっちのもの。
このまま一緒に暮らして他の女を寄せ付けないようにしつつ、ありもしない既成事実をでっち上げる。
一つ屋根の下で暮らしてるんだもん。
証拠なんかなくたって、既成事実がないなんてことを疑われることはない。
ワンルームをシェアすることをあんたがオーケーした以上、もうあんたは詰んでるだよ?
私があんたのお嫁さんになるっていう未来からは、逃げられない。
………あはっ!
………
………
………
…ん、なにー?どうかしたー?
………ああ、シャンプーねシャンプー。
すぐ持っててあげるから、ちょっと待っててー」




