205 バイト先の同僚ダウナーギャルはいつも僕のことを気にかけてくれるが…
「(ガチャッ)
おはよーございまーす…。
………なんだ、君だけか。挨拶して損した。
ま、そりゃそうか。
次の時間のシフト、私と君だけだもんね。
君しかいないのも納得。
…それ、何飲んでるの?
………
…あ、テレビでやってる奴。
私も気になってたんだー。
いーなーいーなー。一口ちょうだい?
………っちぇ、ケチ。
…というか、そんなの飲んで平気?
そろそろ着がえなきゃまずいんじゃないの?
………私?
私はほら、
(ガバッ)
下にちゃんと着てきてるから大丈夫。
………んー?別に外で服脱ぐ機会なんてめったにないんだし、大丈夫でしょ。
これ、結構あったかいしね。
(ガチャッ)
…あ、お疲れ様でーす。
そろそろ上がりの時間ですね。
………
(―――)
(―――)
(―――)
………あの、あんまりシフト押し付けるのもよくない思いますよー。
彼だってほら、困ってるみたいだし。
…あ、ここのシフトだったら、私代わっても大丈夫ですよ?
時間連チャンになりますけど、たぶん大丈夫かと。
…はい、はい。オッケーです。
(ガチャッ)
………ふう。
あの人も大概だよねー。
親戚が亡くなったとか言ったけど、いっつもその言い訳してるよね。
………え?
別に感謝なんていいって。
それより君は、嫌なら嫌でちゃんと断った方がいいと思うよ。
曖昧なこと言ってるから、ああいう人にシフト押し付けられるんだって。
先週だって2つもシフト代わってたみたいだし、体調崩したら元も子もないよ。
(コンコン)
(―――)
…あ、はーい、すぐ行きまーす。
………あー、ごめん、君先行ってて。
ちょッと髪治してから行くから。
(ガチャッ)
………
………これでよし、と。
…あ、さっきの飲み物。置きっぱなし。
………
………
………
もう、しょうがないなー。
散らかしとくと後で怒られるし、私が処分しておかないとね」
「(ガチャッ)
(ストン)
…ふー。休憩休憩。
なんで今日こんなに込んでるのかなー。
おかげでもうへとへと…
………君はどう?
君も相当店内走り回ってたよね。
…だよねー。
こんなに働いてるんだから、ちょっとくらい給料上げて欲しいもんだよ、まったく。
お店のメニューは徐々に値段上げてってるっていうのに、なんで私達の給料は全然上がらないんだろうね?
やってられないやってられない。
(―――)
…あー、さっきの。
別にいいって、あれくらい。
…っていうか、あれはお客の方が悪いって絶対。
確かにミスしたのは君の方だけどさ、君がちゃんと謝ってるっていうのに、全然怒りを治めないでさ、挙句の果てに慰謝料払えとか、カスハラっしょカスハラ。
お客様は神様だなんて言ってたけど、別にそれってこっちがそう思えっていうだけで、お客の方が神様だって思っていいみたいに勘違いしないで欲しいよね。
………つーか、もしかしてさっきから暗い顔してるのそのせい?
あんなことするお客なんて大勢いるんだし、あんま気にしなくてもいいんじゃない?
君ってば、落ち込む時って本当落ち込むよね。
損な性格だってよく言われない?
………そ。言われたことないんだ?
じゃあしょうがないか。
(スタッ)
…ん?トイレ?
いってらっしゃーい。
(ガチャッ)
………
………
………
本当、落ち込む時はとことん落ち込んでる顔するよね。
………
(ピッ)
…ん、よし。ちゃんと撮れてる撮れてる。
こないだランプで見つかりそうになった時はマジビビったけど、新しいのはランプついてなくてよかったー。
………
やっぱり君は、この写真みたいに、笑ってる顔の方が似合うと思うな」
「………じゃ、すいませーん。
私達時間なんでそろそろ上がりまーす。
お疲れ様でしたー。
(ガチャッ)
………はぁ。今日も終わったねー。
運動部の部活帰りとか、PTAの集まりだとか、団体客どれだけ来るっていうのよ、まったく。
この辺は似たようなお店たくさんあるんだから、もっと違う店も行けって話だよね。
…君は、この後このまますぐ家帰るの?
………別に、なんとなく聞いただけだけど。
最近暗くなるの早いんだし、あんまり遅くなると変な奴が出るかもって話。
………うんうん、その方がいいと思うよ。
なんていっても…
(ガチャッ)
…あ、店長ー。お疲れ様でーす。
………あっ、今月のお給料。ありがとうございまーす。
…いえいえ、まだまだ頑張りますよー。
私達、まだまだ若いですから。
………
…ん、君どうかした?
そんなに封筒見つめたって、中身が増えるわけじゃ…
………あれ?
…あー、なるほど。
………店長ー。
彼の給料ですけど、ここに書いてある金額、計算間違ってません?
週3の15時間で、それと何回かシフト代わってるの合わせると………
…あー、やっぱりそうですよね。
いえいえー、間違いなんて誰にでもありますって。
…ええ、ええ。
私の給料は間違ないでくださいねー。
あ、でも。たくさん入ってる分には構わないですけどー。
…冗談ですよ。
………あっ、はーい。お疲れ様でしたー。
(ガチャッ)
………いやいや、こちとら給料のために働いてるんだから、それ間違えるのあり得ないっしょ。
…君も、間違ってたと思ったんなら言わなくちゃだめだよ。
後から言ってもバイトの言うことなんか信用してくれないかもなんだし。
………
…どうしたの?じっとこっち見つめちゃって。
…ああ、君のシフトの時間。
いやいや、君のシフトって大体私と一緒くらいじゃん。
それなのに結構金額が違ってたから、気付いただけの話。
………本当だって、疑り深いね君は。
………ん、もう帰るんだ?
…うん、うん。
うん、お疲れー。
(ガチャッ)
………
………
………
…さて、と。
私も早く、追いかけなくっちゃ。
(ガチャッ)
………
寄り道しないとは言ってたけど、今日は月曜日だし、何より給料も手に入ったんだし、本屋で新刊買うはずだよね。
早く追いついて、今日も一晩中、彼を見守り続けなくっちゃ」




