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204/282

204 陸上部エースの彼女。手塩にかけて育てきた彼女に部室へと呼び出されて…

「(タッタッタッタッタッ!)

…何秒でしたか、コーチ?

………あー、またタイム落ちてますね。

ここのところ全然タイムが伸びない…

フォームは崩れてないと思うんですけど…

………太ももの筋肉ですか?

…えっと、どのあたりの…?

………うーん、ちょっとわからないので、直接指で指摘してくれませんか?

…え?いやもちろん。

私がやってくれって言ってるんですから。

(ピタ)

…あー、なるほど、ここの筋肉を………

じゃあ次は、ここを意識してやってみますね。

(タッタッ…)

あ、コーチ。

後で少しお話があるんですけど、お時間もらえませんか?

………

…はい、わかりました。

それじゃあまた後で。

(タッタッタッタッ)」




「………さすがコーチですね。

あそこを意識しながらやったら、タイムが0.2秒も縮んだんですから。

現役の頃、世界のトップランナーと言われてたコーチなだけはありますね。

…謙遜しないでください。

コーチがいなかったら、私は絶対燻ってて今の記録なんか遥か彼方だったでしょうから。

………あ、着きましたね。

今はみんな外でランニング中ですから、部室の中、誰もいないと思うんですけど…

(バタン)

うん、誰もいない。

じゃ、コーチも入ってください。

(バタン)

………

…それで、その、コーチ、話というのは………

………え、怪我?

いやいや、そんなのしてるわけないじゃないですか。

怪我したら真っ先にコーチに言ってますって。

………部員との仲?

すこぶる良好ですよ?

そりゃあまあ、レギュラーを争うライバルでもありますけど、みんな実力を競い合ってていい関係です。

………家庭問題?

…うーん、特に問題ないですけど。

しいて言うなら、この間弟が熱出したくらいかな………

…って、そうじゃなくてですね、コーチ。

あの、えっと、その…

私と…私と………

私と付き合ってください!

一目見た時から、コーチが憧れでした。

コーチが教えくれるたび、私は実力をメキメキ伸ばせるようになりました。

全国にも出れるようになって、スカウトが来るようなったのも、全部コーチのおかげなんです。

そんなコーチのために、私は、私は………

………え?断る。

ど、どうしてですか?

私なんか、好みじゃないということですか?

そりゃあこんなにスポーツに打ち込んでて、全身筋肉の女になんて、興味ないのかもしれないですけど、でも…

………え、そうじゃなくて?

コーチと、部員だから?

そんなの、全然問題ないじゃないですか。

確かに大っぴらに付き合うのは影響あるかもしれませんけど、練習以外のプライベートな所で付き合うのは…

………それでも、ダメって………

…そんな、私にはコーチしかいないんです。

こんなにも私に尽くしてくれたコーチにそんなこと言われたら………

(シュルッ)

…え、何って?

ウェアを脱いでるだけですよ?

もしここで、私が大声を上げたとしたら、どうなると思いますか?

…あ、ダメです。

(タンッ)

逃げようとしないでくださいよ。

もし逃げるとしたら、私なんですから。

『襲われた』って叫びながら、ね。

他の部員達は完全に信用するでしょうね。

コーチ、ことあるごとに私の身体に触れてますし。

こんなふうに、二人で密室になることだって多々ありますし。

…それとも勝負しますか?

現役で部のエースでもある私と、現役を引退しているコーチ。

どっちの方が早いのか。

………なんでって、わからないんですか?さっき言ったばかりなのに。

コーチのことが、好きだからです。

好きな人を手に入れるためだったら私、何でもしますよ。

もし私が今、この状態で外に出て行ったら、コーチの人生はそこで終わり。

現役時代が華やかだったぶん、落ちる時はとことん落ちるでしょうね。

記者達に追われる日々。

眠れない夜の数々。

鳴りやまない家のインターホン。

コーチは、どっちの方がいいですか?

私と付き合って、二人仲良く幸せな毎日を送るか。

私をふって、今後の人生後ろ指をさされながら一生を送るか。

どっちがいいですか?

………

………ふふふっ。

ありがとうございます。

聡明なコーチなら、絶対にそう判断を下すと思いました。

流石コーチです。

それじゃコーチ、これまでどおり、部員とコーチとして。

そして、虹色の未来を彩る恋人同士として。

よろしく、お願いします」

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