195 彼を我が主と奉る厨二病の彼女は、彼のためにあらゆる敵を排除する
「………ただいま馳せ参りました。我が主。
どこへ足をお向けへ?
…なるほど、では我もお共致します。
本日は冷気の精霊が周囲に蔓延っているようですが、主様のお召し物は精霊達の力を通しませんでしょうか?
もし通るというのであれば、我の装備をお貸しいたします。
………そうですが、さすが我が主様。
主様は、冷気の精霊の力などお呼びでないということですか。
主様のお力には恐れ入る次第でございます。
………はい?
主様は主様です。
我にとって神と同等たる存在。
主様は、異世界よりこの世に転生された我らの国の王。
そして我は王に仕える僕でございます。
………はっはっは。
ご冗談を。
それとも、転生の影響で記憶の欠落があるのでございますか?
我と主様と同じく転生した身ではございますが、前世の記憶は明瞭でございます。
我は生まれた時から主様の僕であり側に付き従う側近。
故にこの世に揃って転生されたのでございますよ。
………モウソウ。チュウニビョウ。
…ふむ。
主様は時々難解な言語を使用されますね。
我が主様の博識さ加減には敬服したる所存ですが、主様の力には遠く及ばない我には理解しかねる言葉です。
それよりも我が主様。
天高く舞い上がる炎の精霊の加護の下、本日も魔力供給に勤しみましょう」
「………我が主様、足をお止め下さい。
…貴様ら、何奴だ。
………カネ。カツアゲ。
何を訳をわからぬことを言っている。
意味不明な妄言を垂らすのは個々の自由だが、我が主に向かって言うのは決して許されることではないぞ。
…聞く耳を持たぬという様子だな。
なら、その体に直接叩き込むまでだ。
そして、我が主様に刃向かったことを、後に悔いるがいい。
―――
―――
―――
…ふっ。
我は我が主様に仕える忠実な僕であり、四帝五雄剣を操る光合正騎士軍の一人。
このような凡俗な奴ら、我の足元にも及ばない。
…では参りましょう、我が主様。
………我の顔に何か?
(ふきふき)
な、な。
我が主様、この程度の汚れなど、我が主様の手を煩わせようということになれば、他の従僕達が…
………身に余る光栄でございます。我が主様」
「(キーンコーンカーンコーン)
(ガラッ)
…我が主様。
主様の忠実な僕、ただ今ここに参りました。
帰路の旅路へと旅立ちましょう。
(スタスタスタスタ)
………我が主様。先ほど対話の場を持たれていた相手は?
…友人ございますか。
しかし我が主様。
いくらこの世に転生なさったとはいえ、あくまでも今の姿は仮のお姿。
いずれは故郷へと舞い戻るが故、彼の地にて彼の者どもと友好の標を結ぶのはいかがなものかと。
ご自分のお立場をゆめゆめ忘れなさらぬように、我が主様。
…それで、その友人と名乗るものとはいったいどのような言葉を交わされたので?
………ゲーム。ハイボク。
…我はその単語の意味を存じませんが、つまりはこのような事象が発現したということでしょうか?
我が主様があの友人とやらのせいで恥を被った、と。
ふむふむ。なるほど。
我が主様、しばし傍を離脱いたします。
―――
―――
―――
………お待たせいたしました、我が主様。
再び、帰路への旅を再開しましょうか。
…ああ、我は今、先ほどの友人とやらの居場所へ赴いておりました。
彼の者に、制裁を加えるべく。
………制裁は制裁でございます。
我が主様に恥をかかせるなどとは重罪たる所業。
その所業に対し相応の罰を下したまででございます。
もう二度と、同じ過ちを繰り返さぬよう、その体に罪を叩き込んでまいりました。
………いいえ、我が主様。
我が主様の恥は、我の恥でもあり、我らの国全員の恥でもあるのです。
我が主に刃向かうものは誰であろうと我らの敵に等しき存在。
そして、敵は完膚無きにまで叩きのめし、二度と反抗の芽を開かぬように教え込まなければなりません。
そうでなければ、我が主様は我が主様に足りえないのでございます。
…ですがご安心ください。
我が主の敵対する存在はすべて、我が対処して見せましょう」
「………我が主様、どこへ足をお向けで?
(スタスタスタスタ)
…我が主様、我には我が主様の崇高な思考には及び足りぬございますが、孤立無援での行動は無謀でございます。
行先も告げることなく我との別離の行動は差し控え下さいませ。
(スタスタスタスタ)
我が主様。
(スタスタスタスタ)
我が主様。
(スタスタスタスタ)
我が主様。
(スタスタスタスタ)
我が主様。
(スタスタスタスタ)
我が主様。
(スタスタ………)
…ようやく足をお止めになりましたね。
これからは我と共に生業を…
………
…なぜ、我を拒絶するのですが、我が主様?
………ヒトリボッチ。オマエノセイ。
…ふむ。主様がその言葉を発するに所以するのは、近況の我の行動に起因しているのでございましょうか?
しかし、だとしても、それがなぜ我を拒絶するのかの理由が理解不能でございます。
我はただ、我が主様に近寄る者共をすべて排除しただけであるがゆえに。
大小残らず、老若男女関係なく消却したところで、拒絶されるいわれがございませんが…
………
…ふう。我が主様。
何度もご説明したことを改めて再発言いたします。
我が主様は我らの王にして、国を束ねるべき存在。
いずれその身は故郷へと帰郷される依り代。
今の我が主様は、前世の体からすればあまりにも脆弱すぎるのでございます。
故に我が主様の命を奪うものにとっては絶好の機会。
我は全身全霊をもって、我が主様の命を守らなければならないのです。
神と同等たる我が主様の命は、我が命よりもはるかに尊い存在。
そんな我が主様の命を守るべく危険要因は全て消え去らなければならないのです。
…安心してくださいまし、我が主様。
我はこの世で唯一我が主様に仕える忠実なる僕にして傍にいる側近にしてかけがえのない半身でございます。
たとえこの身が滅んだとしても、我が主様の命はお守りいたします。
それが、我に与えられた使命なのでございますから。
………さあ、共に参りましょう。我が主様。
故郷へと帰り、その命が尽きるその時まで」




